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2023年6月19日

第352回「AMDはエヌビディアの牙城を切り崩せるか!?」石原順

石原順 石原順



  • 潤沢なキャッシュを使い、収益構造の転換を図るマイクロソフト


    コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは6月14日、「The Economic potential of generative AI : The next productivity frontier(ジェネレーティブAIの経済的ポテンシャル:次の生産性のフロンティア」)」と題するレポートを公表した。

    63のユースケースを分析し、生成AIが世界経済にもたらす価値は年間2兆6000億ドルから4兆4000億ドルに上るとの試算を明らかにした。急速に進化するAIが世界に与える経済効果は、日本やドイツ、英国といった先進国並みの経済圏に相当するインパクトであることを示している。

    米CNBCの記事「Microsoft's stock hits record after executives predict $10 billion in annual A.I. revenue(マイクロソフトの株価が過去最高を記録、幹部が年間100億ドルのA.I.収益を予測)」によると、JPモルガンのアナリストが、マイクロソフト(MSFT)の目標株価を315ドルから350ドルに引き上げた。マイクロソフトはGPT-4を含むオープンAIのモデルに関する独占ライセンスを持っており、オープンAIへの投資は長期的な成功の種を蒔いたと評価したものである。



    ●マイクロソフト(日足)
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    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    マイクロソフト株は今年に入り4割以上、値上がりしている。FRBによる金利の引き上げや世界的な景気後退に対する懸念によって投資家がテクノロジー株から撤退した2022年の損失をすべて取り戻した。

    4月24日の日本経済新聞に掲載された米CBインサイツの記事「GPT革命に乗るMicrosoft 検索に続くAI活用3分野」によると、マイクロソフトは生成AI が今後数十年間、自社の競争力を優位にすると考えているため、オープンAIの最大の出資者の一つになる一方で、大量のリソースを消費するオープンAIの業務に必要なコンピューティングインフラも提供していると言う。

    既にBingやソフトウェア開発支援ツール「GitHub」、クラウド基盤「Azure」と言った自社の様々な製品にオープンAIの技術を搭載している他、コンピューティング、マッピング、ゲームなど、いくつかの生成AIスタートアップにも投資しており、これらの投資がもたらす生成AIの生態系はマイクロソフトにとってカンフル剤になる可能性があると指摘している。



    ●マイクロソフトの手元キャッシュ
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    出所:決算資料より筆者作成



    2022年度末時点の手元キャッシュは前年からは減少しているものの、日本円にして14兆円を超え潤沢だ。マイクロソフトはこれまでにも多数の事業買収を重ね、事業を成長、拡大させてきた。オープンAIへの巨額投資は、マイクロソフトが従来のOSやオフィスアプリがメインだった収益構造を、AIおよびクラウドサービス中心のものへとシフトさせていくという姿勢を表したものであろう。


    ●マイクロソフトの事業買収の歴史(単位:社数)
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    出所:各種データより筆者作成


    AI向け専用チップをめぐるエヌビディアとAMDの争い


    AIは1950年代に一つの分野として確立されて以来、流行と衰退の激しい波を繰り返してきた。景気後退によってAI研究の資金源が閉ざされた「AIの冬の時代」と呼ばれた時代を2度経験している。1970年代と、1980年代後半から1990年代前半だ。

    しかし、今般、AIを取り巻く環境は過去とはまったく異なっている。大手テック企業はAI研究に積極的に資金を注ぎ込んでいる。また、当時は、コンピューターがソフトウェアを動かすのに十分な性能を持っていなかったが、今では、大量のデータと非常に強力なコンピューターによって、この技術を実行することができるとしている。それを実現させているのは半導体の計算能力の飛躍的な向上だ。


    現段階では、AI用チップの主要なサプライヤーとしてはエヌビディア(NVDA)が先行しており、AIに取り組む企業はエヌビディア製のGPUを買い取ろうと躍起になっている。調査会社トレンドフォースの調べによると、オープンAIがChatGPTを商用化するために必要とするエヌビディア製のGPUは3万個以上になると指摘されている。



    ●エヌビディア(日足)
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    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    生成AIに使われる半導体チップをめぐってエヌビディアと真っ向から勝負する動きも出てきた。

    AMDは13日、「Data Center and AI Technology Premiere」という名称のイベントを開催し、データセンター用の新製品「Instinct MI300」を披露した。高性能コンピューティング向けの「スーパーチップ」は中央演算処理装置(CPU)、画像処理半導体(GPU)、メモリー(記憶装置)を一つの半導体パッケージにまとめたものだ。


    ヤフーファイナンスの記事「AMD CEO on new AI superchip: This is 'incredibly powerful' technology(新型AIスーパーチップについてAMDのCEOが語る: これは「信じられないほど強力な」技術である」)によると、AMDのリサ・スーCEOはこのチップの目的について「AIをもっともっと身近なものにすることだ。そのため、AIを使いたい人は皆、より多くのGPUを必要としている。私たちは、信じられないほど強力で、非常に効率的なGPUを持っており、AI市場で重要な勝者になると信じている。」と語った。



    ●AMD(日足)
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    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ただし、このチップの主要顧客向けの「サンプリング」が始まるのは7-9月期(第3四半期)以降になる予定で、大量出荷の本格開始は2024年半ばごろまでは実現しない可能性がある。それはエヌビディアの競合製品が発売されてから約1年半が経過したタイミングになる。

    エヌビディアは基礎となるソフトウエアコードをはじめとする主要技術を開発しており、この分野におけるリードは大きい。エヌビディアが先行企業としてさらに突き放しをかけている可能性もある。しかしその一方でエヌビディアの代替を探す動きは確実にある。AMDは明らかにその選択肢となりつつある。既にアマゾンがAMDの最新製品の採用を「検討している」と報じられている。

    AMDはパソコンに搭載されるCPUの分野においてインテルの牙城を切り崩した実績を持っている。AI専用チップの分野でも同様のシナリオが再現されるのか。なお、エヌビディアのジェンスン・ファンCEOとAMDのリサ・スーCEOは共に台湾の台南にルーツを持っており、遠い親戚にあたる。戦いの幕は切って下された。



    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)

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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。



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