「マーケットの最前線」
2024年3月 4日第388回「レイ・ダリオ:現在の米国株はバブルか!?」石原順
石原順
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織り込み済みのインパクトに見合わなければ、生成AI関連は大幅に調整する可能性もある!?日米ともに株式市場は新たなる高みを目指して上昇している。日経平均株価は3月4日、4万円台まで上昇、一方、米国でもナスダック総合株価指数が2年3カ月ぶりに史上最高値を更新するなど、主要な2指数が最高値をつけた。
●日経平均CFD(月足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター日本経済新聞の3月1日の記事「ナスダック最高値、AIブームに2つの追い風 続く過熱感」は、半導体分野の成長期待に加えて、市場予想を上回り底堅さを見せた企業決算と、金融引き締めの早期緩和観測が重なり、相場の追い風となっていると指摘している。
今年に入り、相場をけん引しているのはAI関連銘柄だ。AI時代に必須となるGPU(画像処理半導体)をほぼ独占的とも言えるシェアで提供しているヌビディア(NVDA)は2年3カ月で時価総額が2.4倍になった。
●AI関連株が上昇している
出所:各種報道より筆者作成好調な企業業績も投資家心理の改善につながっていると記事は指摘している。米ファクトセットの推計によると、S&P500種採用銘柄の2023年第4四半期(10〜12月期が中心)の増益率は3.2%と、期末時点の予想(1.5%)を上回ったとみられる。また、ゴールドマン・サックス(GS)が試算したところによると、S&P500種採用銘柄の2024年のEPSは前年比8%伸びる見込みだと言う。
世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創設者であるレイ・ダリオが3月1日、リンクトインに「Are We in a Stock Market Bubble?(私たちは株式市場バブルの中にいるのか?)」と題するブログ記事を投稿した。
レイ・ダリオは、直感的な思考を指標に変換し、バックテストや自動化が可能な決定ルールをいくつか組み合わせ、ポートフォリオをシンプルに構成している。50年以上にわたる投資生活で多くのバブルを経験したことから、こうしたバブルに備えるためにこうしたツールを持っており、すべての市場において、それを利用していると言う。
このツールを用い分析した結果、ダリオは現在の相場について過去のバブル期とは一致しないと結論づけている。必ずしも全てを鵜呑みにすべきではないと考えるが、著名投資家が現在の相場をどのように見ているのか参考にはなるだろう。一部を抜粋してご紹介したい。
私はバブル市場を、次のような組み合わせが高度に存在する市場だと定義している:
●伝統的な価値尺度(例えば、その資産の存続期間中のキャッシュフローの現在価値をとり、それを金利と比較する)に比べて高い価格
●持続不可能な状況(例えば、生産能力の限界により成長が持続不可能となる循環において、そのサイクルの後半となったときに、過去の収益成長率を外挿して将来を予測すると持続不可能な予測になってしまう)
1)市場が大きく上昇したため、ホットな市場と認識され、新規参入したナイーブなバイヤーが多い
2)蔓延する強気心理
3)負債による資金調調達し、その資金で購入している人の割合が高い時
4)価格上昇に賭けた先買的で投機的な購入が多い場合(例:必要以上の在庫、契約済みの先渡し購入など)
私はこの基準をすべての市場に適用し、バブルかどうかを調べている。この基準で米国株式市場を見ると、最も上昇しメディアの注目を集めた一部の市場でさえも、バブル的な様相を呈していない。市場全体は中位(52パーセンタイル)にある。チャートにあるように、これらの水準は過去のバブルとは一致しない。●過去のバブルゲージとの比較(1920年代、1990年代、現在)
出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)「マグニフィセント7」は、過去1年間の米国株上昇の重要な要因だった。このバスケットの時価総額は2023年1月以降80%以上増加し、現在S&P500の時価総額の25%以上を占めている。「マグニフィセント7」はややバブル的ではあるが、本格的なバブルには至っていない。
バリュエーションは、現在と予想される収益を考慮するとやや割高で、センチメントは強気だが過剰には見えず、過剰なレバレッジや新規のナイーブな買い手の殺到は見られない。とはいえ、生成AIが織り込み済みのインパクトに見合わなければ、これらの銘柄が大幅に調整することは想像に難くない。バブルの6条件と直近の相場状況
以下の表は、バブルに関する6つの条件が現在どのような状況にあるかを過去のバブル相場と比較して示したものである。
1. 伝統的な指標と比較して、株価はどの程度高いか?2. 株価は持続可能ではない状況を割り引いているか?
3. 新規の参加者(つまり、これまで市場にいなかった人々)がどれだけ市場に参入したか?
4. センチメントはどの程度強気か?
5. 購入資金は高レバレッジで調達されているか?
6. バイヤーやビジネスはどの程度先物買いを行ったか?
1920年代のバブル期やドットコム・バブルの際には6つ条件全てが「バブル」であることを示していたが、現在の市場は「バブル的である」、「いくぶんバブル的」であるが3つ、「バブルではない」が3つとなっている。ただし、マグニフィセント7に限れば、6つのうち、「バブルではない」と示されているのは「5. 購入資金は高レバレッジで調達されているか?」のみとなっている。
●過去のバブル期と比較した現在の状況
出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)ここでは、6つの条件の中から「2. 株価は持続不可能な状況を割り引いているか?」についてダリオ氏がどのように分析しているのかを取り上げよう。
2. 株価は持続可能ではない状況を割り引いているのか?
この指標は、債券リターンを上回る株式リターンを生み出すために必要な収益成長率を算出するものである。そして、この指標は、個々の株式に注目し、その数値を合計することで導き出される。現在、この指標は市場全体の67パーセンタイル付近にあり、他の指標よりも高い。
ハイテクバブルと比較することで、現在は過去のバブル期とは異なる理由を説明するのに役立つだろう。例えば、現在のエヌビディアとハイテク・バブル期のシスコを比較してみよう。この2つのケースでは、株価の軌跡は似ている。しかし、キャッシュフローの経路は全く異なっている。エヌビディアの2年先のPERは現在27倍程度である。時価総額が10倍程度に成長したものの、収益も大きく伸びていることを反映している。
そして今後1−2年の受注が確認できるので成長期待は確実だ。ハイテクバブル期には、シスコの2年先のPERは100倍に達した。市場は、現在よりもはるかに投機的で長期的な成長を織り込んでいた。
●エヌビディアとシスコの比較
出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)以上、レイ・ダリオの相場観を紹介したが、筆者はダリオのバブルの見方には賛成していない。バブルゲージの値が低すぎるのではないだろうか?もっと本質的なことを言えば、現在の相場はバブルではなく国家管理相場である。
バブルを恐れることはないが、リアルインベストメントアドバイスのランス・ロバーツが指摘しているように、バブルはいつか崩壊し相場は平均回帰する。
市場が過去最高値を更新すると、投資家は「乗り遅れることを恐れる」ようになり、さらに株価が高値を更新することは歴史的に明らかである。 しかし、そのような高揚感は、やがてファンダメンタルな現実に道を譲ることになる。何がそのような逆転を引き起こす原因かはわからない。しかし、市場が長期的な指数関数的成長トレンドから逸脱している現在の状況を考えると、株式が経済よりも速く成長し続けることはますます困難になるだろう。特に、このような乖離は歴史的に、非常に低いまたはゼロのリターン率が長期間続くことにつながってきた。
●S&P500実質価格とゼロの収益率の長期化
出所:リアルインベストメントアドバイス●投資のサイコロジカルサイクル
出所:Hofstra UniversityS&P500実質価格(黒)とサイコロジカルサイクル(赤)1980~現在
出所:リアルインベストメントアドバイス現在の高いバリュエーションを合理的だと思うことは、将来的に失望を招く可能性が高いと思う。しかし、短期的には強気心理が伝染し、「史上最高値更新」が続く可能性が高まっている。
過去最高値を恐れる必要はない。ただ、それが熱狂の副産物であることを理解して欲しい。メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●NYダウCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●S&P500CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●ナスダック100CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●ドル/円(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●ゴールドCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。