「マーケットの最前線」
2023年8月 7日第359回「ウォーレン・バフェットがエネルギー株へのエクスポージャーを増やしている背景」石原順
石原順
アップルの時価総額3兆ドル超えがバークシャーの業績の追い風に
米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社、バークシャー・ハザウェイ(BRKK.B)が5日、2023年4-6月期の決算を発表した。投資評価損益などを除く営業利益は前年同期比7%増の100億4300万ドルだった。保険事業が好調だった。一方、最終損益は359億1200万ドルの黒字に転換した。一年前は436億2100万ドルの赤字だった。
米国の会計基準では保有する上場株の評価損益を最終損益に反映する必要があるため、バークシャーの最終損益は株価変動によって大きくぶれる傾向を持っている。バークシャーの決算発表資料によると、バークシャーの株式ポートフォリオは6月末時点で3534億ドルとなっている。
4月から6月にかけては米地銀の経営破綻問題や米国政府の債務上限をめぐるつば競り合いなどがあったものの、米国の株価は堅調に推移した。主要株価指数の一つであるS&P500指数は8%上昇、またナスダック市場は13%上昇した。
また、バークシャーの上場株ポートフォリオの約半分を占めているアップル株の時価総額が6月末に、世界の上場企業としては初めてとなる3兆ドルを突破し、今回のバークシャーの業績への追い風となった。●バークシャー・ハサウェイB株(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●バークシャー・ハサウェイB株(週足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●バークシャーが持つ上場株式の保有割合(2023年3月末時点のフォーム13Fより)
出所:2023年3月末時点のフォーム13Fより筆者作成●アップル(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●アップル(週足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
期中の株式売買は79億8100万ドル(約1兆1300億円)の売り越しだった。バークシャーのキャッシュフロー計算書によると、取得額が45億6900万ドルに対して、売却額は125億5000万ドルだった。期中に持ち分法適用会社であるオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の株式を追加で取得したことが明らかになっており、保有比率は25%を超えた。なお、上場米国株の売却についての詳細は、今月中旬に予定されているフォーム13F(6月末時点)の公開を待ちたい。
●2023年4-6月期のバークシャーの株式売買は79億8100万ドルの売越しだった出所:決算資料より筆者作成
手元資金は6月末時点で1473億ドルとなり、2021年9月末以来の高水準に積み上がった。
●バークシャーのキャッシュポジションとNYダウの推移(2023年6月末時点)出所:各種データより筆者作成
バフェット氏はなぜ、エネルギー株へエクスポージャーを高めているのか?
前述の通り、バフェット氏は期中にオクシデンタルの株式を追加取得し、6月末時点のバークシャーによる保有比率は25.55%まで高まった。バフェット氏は5月6日に開催されたバークシャーの年次株主総会において、オクシデンタルの経営陣と事業を高く評価しているが、全てを買収する計画はないと述べていたが、すでに4分の1を超える水準にまで買い進んでいる。
5月6日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「バフェット氏が石油株に巨額投資 なぜ?石油株で大やけどした伝説の投資家バフェット氏、心変わりの理由とは」によると、過去(2008年と2014年)に石油大手への巨額投資で立て続けに大きな損失を出したバフェット氏が、ここに来てエネルギー株へのアロケーションを高めている理由について、炭素排出量の削減に向けて野心的な目標を掲げる企業が増える中でも、世界は今後も大量の石油を必要とし続けるとバフェット氏が確信しているからだと指摘している。バフェット氏自身も2022年、米国が石油脱却へと近づいているとは思えないと述べている。また、技術の進化により生産性が向上し、石油企業の多くは、原油相場が現在の水準を大きく割り込んでも、利益を確保できると語っている。例えば、オクシデンタルは原油がバレル当たり40ドルに下がっても、利益を確保できると言う。
●オクシデンタル・ペトロリアム(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●オクシデンタル・ペトロリアム(週足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
バークシャーは昨年、FERC(米連邦エネルギー規制委員会)からオクシデンタルの普通株式を最大50%取得することを認められている。米国屈指の石油、シェールオイル生産地であるパーミアン盆地において優良な資産を保有していること、バランスシートの強化に加え株主還元も積極的に行なっていることなど、バフェット氏が投資先に求める要素の多くをオクシデンタルは満たしている会社だ。
●オクシデンタル・ペトロリアムのキャッシュフローマトリックス(2017年-2022年)
出所:各種資料より筆者作成バークシャーは、オクシデンタルへの追加投資以外にも三菱商事や三井物産など日本の五大商社の株式を買い増した他、7月には米メリーランド州にあるLNG(液化天然ガス)輸出ターミナルのリミテッド・パートナーシップ権益を買い増す契約を締結するなど、エネルギーへの投資割合を高めつつある。
米国の債務は今後10年間、毎日5.2億ドル増加する。「WSJは経済が好調だと主張している。彼らは、バイデンが債務上限を引き上げたから株式市場が上昇していることを知らない」とロバート・キヨサキはXに投稿したが、なぜ、国債の大量発行が必要なのか?イエレン財務長官は「経済は順調」と述べているが、負債と資産が両方膨らんでいるだけの話である。
●米国政府債務、債務上限以降1.2兆ドル急増し32.7兆ドルに
財務省、年末までに1.5兆ドルの負債を追加へ・・
出所:WOLFSTREET
バイデン大統領スキャンダル、ウクライナ情勢、米中対立、米国の政治的分断など、戦争の拡大とインフレの再燃が不安視されている。米国の物価高騰はいったん峠を越えた。しかし、バフェット氏がエネルギー株へのエクスポージャーを増やしている背景には、「インフレはそう簡単には収まらない」という歴史観があるのかもしれない。われわれはこの先、バイデノミクスの意味を学ぶことになるだろう。
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
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日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。