マーケットレポート

プロの視点からわかりやすいレポートを提供します。

「マーケットの最前線」

2026年10月13日

第522回 金(ゴールド)には取引相手リスクは存在しないし、誰もそれを印刷することはできない!

ファンドマネージャー 石原 順 ファンドマネージャー 石原 順


  • 中国は金(ゴールド)を裏付けとしたペトロユアン体制の構築を見据えているのか?


    中国人民銀行(中央銀行)は7日、9月末時点で外貨準備としての金を前月末比1%増の約2409トン保有していると発表した。増加率は8月の0.9%から拡大、23カ月連続の増加となった。統計を遡ることが出来る1999年12月以降で最長だ。安全資産に対する需要と、ドル資産以外への分散配分を模索する長期的な傾向が表れている。


    10月7日の日本経済新聞の記事「中国の金保有量、23カ月連続で増加 9月末の外貨準備」によると、中国は2022年11月から2024年4月まで18カ月連続で金の保有量を増やした後、半年間は積み増していなかったが、2024年11月から再び増やし始めたという。

     
    ●金に対する需要は世界的な景気循環とは切り離されている
    20261013_1.png

    出所:ワールド・ゴールド・カウンシル

     

    ドルを中心に現代の国際金融と地政学を支えているのが「ペトロダラー体制」だ。サウジアラビアを始めとする中東諸国に対して米国が軍事的なサポートを行う一方で、中東の国々は石油価格の多くを米ドル建てに設定し、石油収入の大部分を、米国債を含む米国の金融資産に再投資している。1970年代に米国とサウジアラビアの間で結ばれた「暗黙の合意」が根幹にある。

     

    投資家で作家のダグ・ケイシーのサイト「The International Man」に掲載されていたコラム「The Petrodollar Could Break Soon--and Upend the Global Financial System(ペトロダラーはまもなく崩壊する可能性があり、それが世界金融システムを根底から覆す恐れがある)」は、この制度について、ニクソン大統領が1971年にドルと金との最後の連動を断ち切って以来、ドルに対する非常に大きな支えとなってきたと指摘している。

     

    50年以上にわたり、米国が湾岸諸国の君主制を保護してきたことは、世界的なドル需要と米国債需要を支える一つの要因であった。しかし、その関係が今、危機に瀕しているという。

     

    石油は世界経済の中心に位置している。あらゆる工業経済にとって不可欠だ。世界の石油取引に参加するためにドルが必要となるならば、それぞれの国にはドルを保有する強力な理由がある。それは、米国の製品やサービスを購入することとは全く関係のない、通貨に対する需要を生み出す。それはまた、米国の金融資産への需要を生み出すことになる。

     

    石油を輸出する国々はドルを稼ぐ。その国々にはドルを投資する場所が必要となる。数十年にわたり、その大部分は米国の銀行や国債に流れ込んできた。それは米国債市場を支え、ドルを活性化し、米国の借入コストを抑制し、そして他国では到底維持できない財政赤字の資金調達に貢献してきた。

     

    イランとの戦争においてその前提が脅かされているかもしれないという。もし湾岸諸国の君主国が、米国はイランから自国の石油インフラ、航路、都市、そして政権を守ることができないと結論づけるならば、なぜ彼らは約束を守りドルを使い続ける必要があるのか。この問題は、国際通貨システムを根本的に変える可能性がある。

     

    一方、中国は世界最大の石油輸入国であり、サウジアラビア、クウェート、カタール、バーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦で構成される湾岸協力会議(GCC)にとって最大の貿易相手国である。中国は膨大な量のエネルギーを必要とし、湾岸諸国は自国の石油の巨大な市場を必要としている。それは自然な関係性を生み出す。

     

    中国と湾岸諸国は長年にわたり、ドルを使わずに貿易を拡大する方法について協議してきた。しかし、湾岸諸国の君主たちは制約に直面していた。彼らは米国の安全保障体制に依存していた。中国にあまりにも接近しすぎると、自分たちを守ってくれると頼りにしていた国との関係を損なう危険性があった。

     

    しかし、もし湾岸諸国が、米国には自分たちをイランの攻撃から守ることができない、そして米軍の駐留によって自国が標的になりかねないと結論づければ、その安全保障の価値は低下する。ペトロダラーを支える基盤が弱体化することになる。

     

    中国は何年もかけて代替案を模索してきた。

     

    中国は、産油国に対して人民元決済を受け入れるよう求めることの問題点を理解している。サウジアラビアやアラブ首長国連邦、あるいは他の輸出国が、大量の中国通貨を蓄積したいと考えるかどうかだ。中国は何年もかけてその解決策を追いかけてきた。2018年、上海国際エネルギー取引所は人民元建ての原油先物契約を開始した。石油生産者はドル以外の通貨で原油の価格設定と取引を行う手段を手に入れた。

    中国は、商品輸出業者にとって人民元をはるかに有用なものにする仕組みを構築した。それは、人民元から現物の金への交換ルートをつなぐことだ。石油生産者は、原油を中国市場に販売して人民元を受け取り、その人民元を中国製品に使うか、中国の金融および金市場のインフラを利用して余剰人民元を現物の金塊に交換することができる。

     

    ウクライナ侵攻後、米国がロシアの資産凍結をおこなったことで、外貨準備がドルに偏ることのリスクが露呈した。ドル制度の下では、石油輸出国は有限な天然資源を販売し、米国政府が発行する金融債権を受け取ってきたが、もし人民元から金への道筋がつながれば、貿易黒字の一部を、発行者も取引相手も外国政府も介在しない資産へと転換できる。

     

    金には取引相手リスクは存在しない。誰もそれを印刷することはできない。債務不履行に陥ることはない。米国への依存度を減らそうとしている国にとって、それは明らかに魅力的だ。イラン戦争によって米国の安全保障に対する信頼が弱まったとしても、ペトロダラーからの脱却に必要な金融インフラは既に存在している。中国が金の備蓄を進めている背景には、人民元を強力な国際準備通貨とするための裏付けという目的が透けて見える。

     

     

    新たな米ドル需要の基盤となる「テクノダラー」体制は築かれるのか?


    米著名投資家のレイ・ダリオは6日に開かれたイベントで、米金利上昇について「需給の不均衡が生じている」として、金利上昇が市場や経済を圧迫すると語った。政府の国債発行に加え、AI開発投資に伴う企業の資金調達も膨らんでいる。一方で中国や日本など海外投資家の買い需要はさまざまな理由で後退していると指摘した。債務危機が「今後2年以内のどこかで」起きるとの見方を示した。

     

    ダリオは、8月のLinkedinへの投稿において「米政府の財務状況が転換点にあることを、私は確信している」と記し、投資家に対し、債券は市場平均より保有を減らし、金には資産全体の10〜15%を振り向け、ビットコインを「少しばかり」加えるよう促した。そして、今のうちに手を打たなければ、債務は大きな痛みなしには管理できない水準まで積み上がると述べた。

     

    米国の債務は8月に初めて40兆ドルを突破した。米国は巨大な債務危機に直面しており、ドルに対する信任が低下している。この債務危機から抜け出しドルの覇権を維持するための最後の砦として、米国が持つ圧倒的なテクノロジーの優位性を活用しようという考えが出てきている。

    ●米国の国家債務の推移
    20261013_2.png

    出所:ゼロヘッジ

     

    ヤフーニュースに掲載されていた6月の記事「The Death of the Petrodollar: Nouriel Roubini Outlines Shift to AI-Backed 'Technodollars'(ペトロダラーの終焉:ヌリエル・ルービニがAIに支えられた「テクノダラー」への移行を概説)」よると、経済学者のヌリエル・ルービニは「ペトロダラーの終焉」を宣言する一方、米国の生産資産に連動した「テクノダラー」と呼ばれる新たなトークン化された準備資産を支持した。

     

    1971年のニクソン・ショックによって金とドルの兌換が停止され、金ドル本位制は崩壊した。そこで米国は、サウジアラビアとの協調を通じて原油取引をドル建てに固定し、石油需要を通じて国際的なドル需要を創出した。これがペトロダラー体制であり、ドルは金ではなく石油に裏付けられることで覇権通貨としての地位を維持した。

     

    しかし近年、シェール革命による米国のエネルギー自立、中国・BRICSによる脱ドル化、CBDC(中央銀行デジタル通貨)やデジタル決済の発展、さらに脱炭素化による石油需要の相対的低下などにより、ペトロダラー体制は構造的な揺らぎを見せ始めている。

     

    一方で、米国は新たなドル需要の基盤として人工知能(AI)・半導体・クラウド・デジタルサービスを中心とする「テクノダラー」体制を模索している。現代では、世界中が米国製のAI半導体やクラウド基盤、デジタルプラットフォームに依存しており、デジタルサービス輸出は米国経済の中核となっている。米国は、先端半導体へのアクセスやAIインフラ利用とドル決済を結び付けることで、石油に代わる新たなドル需要を形成しようとしているという。

     
    ●ペトロダラーとテクノダラーの違い

    20261013_3.png
    出所:各種資料より筆者作成

     

    世界中の企業や国家が、米国製のAI半導体や主要なクラウド基盤に依存せざるを得ない現状を利用し、これらのデジタルサービスや先端技術の利用・輸出をドル決済に縛ることで、世界的なドル需要を半永久的に創出する狙いだ。はたして、「テクノダラー」は米ドルの覇権を維持するための進化形となるのだろうか?

     

     

    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

     
    ●日経平均CFD(日足)

    20261013_4.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●NYダウCFD(日足)

    20261013_5.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●S&P500CFD(日足)

    20261013_6.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●ナスダック100CFD(日足)

    20261013_7.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●ドル/円(日足)

    20261013_8.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●NY原油CFD(日足)

    20261013_9.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●ゴールドCFD(日足)

    20261013_10.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    日々の相場動向については、

     

    ブログ『石原順の日々の泡』

      

    を参照されたい。

     

    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。


TOPへ戻る

金融商品取引業者 近畿財務局長(金商)第15号
日本証券業協会 一般社団法人資産運用業協会 一般社団法人金融先物取引業協会

Copyright © IwaiCosmo Securities Co., Ltd. All rights reserved.