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「マーケットの最前線」

2026年1月19日

第485回 「TSMCの独占と過剰な対米投資の不安」

ファンドマネージャー 石原 順 ファンドマネージャー 石原 順

  • 2026年、エヌビディアがアップルを抜きTSMCの最大顧客になる!?

    半導体製造世界大手のTSMCTSM)は15日、202510-12月期(2025年第4四半期)の決算を発表した。売上高は前年同期比20.5%増の1460億台湾ドル、純利益は35%増の5057億台湾ドルと売上高、純利益とも四半期ベースで過去最高となった。

    1月15日の日本経済新聞の記事「TSMC251012月最高益 NVIDIA向けなど先端品がけん引」によると、TSMC先端品の性能や歩留まり(良品率)の評価が高く、AI(人工知能)半導体の生産をほぼ総取りしていると言う。

    営業利益率は54%と前期より約4ポイント上昇した。TSMCの魏哲家最高経営責任者(CEO)は以前から、製品の値上げを示唆してきた。利益率の上昇はTSMCの製品が高くても売れる、すなわちTSMCの価格支配力が高まっていることを裏付けている。


    ・TSMC(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ・TSMC(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ・TSMC(月足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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     出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター




    TSMCの売上高・営業利益・営業利益率の推移
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    出所:決算資料より筆者作成




    生成AIの処理を担うサーバーや最新のスマートフォンに搭載される回路線幅35ナノ(ナノは10億分の1)メートルの先端半導体の需要が好調に推移し、売上高全体の6割超を占めた。用途別の売上高を見ても、膨大で複雑なデータ処理や計算を実行するためのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けが全体の半分以上となり、AI向けの需要がTSMCの業績好調をけん引していることが伺える。


    TSMCのテクノロジー別売上高(2025年第4四半期)
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      出所:決算資料より筆者作成




      TSMCの用途別売上高(2025年第4四半期)
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      出所:決算資料より筆者作成




      長年にわたりTSMCにとってのトップ顧客はアップル(AAPL)であった。アップルはiPhoneMacに搭載するチップの製造をTSMCに委託しており、かつてはTSMCの製造キャパシティをほぼ独占してきた。しかし、近年のAIブームのあおりを受けて、アップルとエヌビディア(NVDA)がTSMCの製造ラインをめぐって競合し、激しい争奪戦に直面していると言う。



      16日のギガジンの記事「TSMCの生産能力をめぐってAppleNVIDIAと競合してチップ生産ラインの確保に苦戦か」は、2025年前半において、エヌビディアが売上高でアップルを抜いてTSMCの最大顧客になった可能性が高いとする分析を取り上げている。2025年で逆転が起きなかったとしても、2026年には確実に入れ替わると見られているとのことだ。



      アップルが2007年に発売したiPhoneは世界を席巻し、パソコン一強の時代は終わりを告げることになった。当初、アップルはスマホに搭載するプロセッサの製造を主にサムスンへ委託していた。しかし、スマートフォンやパソコン等で競合関係にあるサムスンへの依存は、技術流出や供給不安のリスクを高める可能性があった。このためアップルは代替となるファウンドリ(半導体受託製造企業)を探していた。



      2013年頃から、アップルは試験的に一部チップの製造をTSMCへ委託を始める。iPhone 6/6 Plusに搭載されるプロセッサから、TSMCが本格的に製造を担うことになる。その後、TSMCはサムスンより高い歩留まり(良品率)と優れた性能・電力効率を実現し、2016年のiPhone7以降は、TSMCが独占的にプロセッサの製造を担当するようになった。



      アップルは長きにわたり、TSMCの最大の顧客であり、TSMCにとっての「リード・カスタマー(先行顧客)」であった。過去、半導体市場は、テレビや冷蔵庫等の家電機器向けに製造され活用されてきた。その後、パソコン向けを経て、スマホ向けで市場は急速に拡大した。しかし、その構図が変わろうとしている。TSMCの魏CEOは決算説明会において、2026年はAI向けの需要が一段と増えるとの見方を示した。


      TSMCの2025年通期の売上高を用途別に見ると、AIチップを含むHPC部門の売上高は前年比で48%増加したのに対し、スマートフォン向けの伸びは11%にとどまり、一年前の23%増からも減速している。



      ・2025年のプラットフォーム別売上高の割合と前年比較
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      出所:TSMC決算発表資料






      台湾企業が半導体を中心に2500億ドル、日本円にして40兆円に及ぶ対米投資を約束

      米商務省は15日、米国と台湾の貿易交渉が合意に達したと発表した。台湾企業が半導体を中心に2500億ドル、日本円にして40兆円に及ぶ対米投資を約束し、米国は台湾にかける20%の相互関税を、既存税率と合計で15%まで下げる。



      1月16日の日本経済新聞の記事「台湾が米国と関税合意、半導体など40兆円投資 相互関税は15%に下げ」によると、米商務省は、TSMCなど台湾企業が米国内で工場を建設している間は、完工後に見込まれる生産量の2.5倍まで税負担なしで米国に半導体を輸出することを認める。完工後も生産量の1.5倍まで税負担なしで輸出し続けられるようにする。ラトニック米商務長官は狙いについて「台湾における生産量の40%を米国に移すためで、トランプ氏の任期中の目標だ」と説明したという。


      TSMCは202612月期の売上高について前期比で30%近くの増収となる見通しを示した。これに伴い、設備投資額についても前年比で約32%増となる520億〜560億ドルという過去最高の水準に引き上げる計画だ。これは事前の市場予想を大きく上回る。魏CEOは説明会で、「投資不足のリスクは過剰投資よりもはるかに大きい」とコメント、「生産能力は非常にタイトだ」。ギャップを埋めなければならない」と語った。


      ・TSMCの設備投資額の推移
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        出所:決算資料より筆者作成




        特にAI分野の主要顧客が集中する米国においては、アリゾナ拠点に先端半導体の工場6棟(うち1棟は稼働済み)、先端パッケージング工場2棟を設ける既存の計画を前倒しで進めるということだ。そうした増産の計画がさらに拡大する可能性も指摘されている。米国で毎日のように桁外れの投資が話題になっているが、この背景にはトランプ政権で昨年7月に可決された「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(OBBBA)」が一役を担っていると思われる。


        ワシントンD.C.に拠点を置く研究シンクタンク「Tax Foundation」が昨年94日に公開したレポート「One Big Beautiful Bill Act's Corporate Tax Changes Benefit US Manufacturing the Most(「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法案の法人税改正によって最も利益を受けるのは米国製造業」)によると、OBBBAの主な狙いの一つは米国において有形生産のための国内投資を促進することである。設備投資などの対象資産について、投資後すぐに一定割合を即時償却できる「ボーナス減価償却」制度が恒久化することが明記された。対象となる資産を2025119日以降取得、サービスインしたものについて100%即時償却が可能となる。この改正により、企業の設備投資、減価償却戦略には大きな自由度とインセンティブが生まれた。



        ・OBBBAによる法人税改正によって最大の恩恵を受けるのは製造業と情報産業(2025年から2035年)
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        出所:Tax Foundationのデータより筆者作成



        この税制変更は、米国に設備投資を行う多くの企業の税負担を軽減することが期待されるが、減税の規模は企業の業種や関連事業によって異なる。Tax Foundationの試算によると、2025年から2035年の予算期間において、製造業、情報産業、金融・保険・経営管理セクターの税負担が名目ベースで最も大きく軽減される見込みだ。10年間における税負担軽減額9472億ドルのうち、4226億ドルは製造業、1360億ドルは情報産業の企業に還元されると試算されている。

        OBBBA法案によって米国の製造拠点や設備投資に対する税制優遇が恒久化されたことで、TSMCのアリゾナ工場をはじめとする海外、特に米国における生産体制の経済合理性は格段に高まったと言える。100%即時償却の適用によるキャッシュフロー改善効果は莫大であり、TSMCの財務基盤をさらに強固なものにするだろう。

        一方で税制によって過剰な投資が先行する可能性もある。AIのデータセンターへの需要が一時的に過熱している中、もし主要顧客である米国のクラウド大手やOpenAIが投資ペースを鈍化させれば、TSMCの稼働率と利益率は揺らぐことも想定される。AI市場が期待通りのペースで拡大しなければ、OBBBAの恩恵を最大化しても、投資過多が重荷に転じるリスクは避けられない。大胆な税制の改正が市場を歪めているかもしれないという現状も念頭に入れておきたい。



        メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)


        ・日経平均CFD(日足)
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        出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター




        ・NYダウCFD(日足)
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        出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



        ・S&P500CFD(日足)
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        出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



        ・ナスダック100CFD(日足)
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        出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



        ・ドル/円(日足)
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        出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター




        ・ゴールドCFD(日足)
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         出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

         

         

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