マーケットレポート

プロの視点からわかりやすいレポートを提供します。

「マーケットの最前線」

2025年12月15日

第480回「消費電力を抑えた専用チップを求める需要が高まっている」

石原順 石原順

  • ブロードコムの玉手箱であるインフラ・ソフトウェア事業、粗利益率は驚異の9割超え

    米半導体大手のブロードコム(AVGO)は11日、2025年8-10月期(2025年第4四半期)の決算を発表した。売上高は前年同期比28%増の180億1500万ドル、純利益は97%増の85億1800万ドルだった。顧客の用途に応じて設計するAI半導体の受注が増えたことに加え、もう一つの事業の柱であるインフラ・ソフトウェア事業の成長が予想を上回り、売上高は過去最高を記録した。


    ●ブロードコムの売上高と純利益の推移
    20251215_jun_1.png
    出所:決算資料より筆者作成


    決算発表後に行われた投資家との説明会においてブロードコムのホック・タンCEO(最高経営責任者)は「大規模言語モデル(LLM)の開発を手がける多くの企業は独自のAI半導体の開発を求めている」とし、「当社が設計支援するAI半導体は顧客企業が内部のデータ処理で使うだけでなく、外部の開発企業にも提供されるようになっている」と述べ、今後も受注拡大が続くとの見通しを示した。


    ●ブロードコム(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
    20251215_jun_2.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ブロードコム(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
    20251215_jun_3.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    ブロードコムはAI半導体2強のうちの1強としてエヌビディア(NVDA)と比較して語られることが多いが、各社の戦略は対照的だ。エヌビディアがハイエンドの汎用型画像処理半導体(GPU)を手がける一方、ブロードコムはそれぞれの顧客向けに特定の用途に合わせたカスタムチップ(特注品)であるASIC(特定用途向け半導体:Application Specific Integrated Circuit)に強みを持っている。


    ●エヌビディア(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
    20251215_jun_4.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    例えば、アルファベット(グーグル)が独自に開発するオリジナルTPU(テンサー・プロセッシング・ユニット:AI推論特化チップ)の設計を手がけているのはブロードコムだ。生産はTSMC(TSM)などのファウンドリ(半導体受託生産事業者)に委託している。AIインフラの規模拡大を急ぐ「ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)」を中心にASICに対する需要は引き続き旺盛だ。


    ●アルファベット(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
    20251215_jun_5.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    セグメント別に見てみると、半導体部門の売上高は111億ドルで前年同期比35%増に加速した。半導体市場の記録的な成長にけん引され、約3年前に比べて売上高は10倍に拡大している。そのうちの6割弱を占めるのがAI半導体(売上高65億ドル:前年同期比74%増)だ。粗利益率は約68%と高水準だ。


    ●ブロードコムのセグメント別売上高
    20251215_jun_6.png出所:決算資料より筆者作成


    もう一つのセグメントであるインフラ・ソフトウェア事業の売上高は69億ドル(前年同期比19%増)と売上高全体の約38%ではあるものの、粗利益率は93%と半導体部門以上に高い。ブロードコムのサクセスストーリーは、戦略的買収と最先端技術への絶え間ない注力の賜物だ。ブロードコムは2023年秋に、クラウドコンピューティング企業のVMWareを690億ドルで買収した。この買収は当時、2020年代で2番目に大きな買収ということで話題となったが、これによりブロードコムはインフラストラクチャ・ソフトウェア事業への参入機会を増やし、会社全体の売上が大きく伸びる結果となった。


    ●ブロードコムの売上高推移と買収の歴史
    20251215_jun_7.png
    出所:決算資料より筆者作成


    高性能で消費電力を抑えるASIC:特定用途向け集積回路

    半導体集積回路(半導体チップ)が発明されたのは1958年頃である。それから60年余り、半導体チップは約2年で性能が2倍になるという「ムーアの法則」と共に進化を遂げてきた。当時開発されたチップには約60個のトランジスタしか搭載されていなかったが、微細化、小型化が進み、現在のチップは数十億個のトランジスタをエッチングすることができるようになった。いま、私たちがスマートフォンという小型コンピューターをポケットに入れて持ち運べるようになったのは半導体の性能進化が背景にある。

    世界は現在、3度目となるAIブームに湧いている。AI技術は1950年代に1つの分野として確立されて以来、流行と衰退の波を繰り返してきた。過去2回のブームの時はコンピューターがソフトウェアを動かすのに十分な性能を持っていなかったが、今では大量のデータと非常に強力なコンピューターによって、A I技術を実現することができるようになった。

    コンピューターに解決を求める問題が複雑化するにつれ、コンピューターが実行するプロセス数も爆発的に増加している。AI技術の進化をサポートしているのが、中央演算処理装置(CPU)、グラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)、そしてテンソル・プロセッシング・ユニット(TPU)である。それぞれどのような特徴を持っているのか、クラウドストレージサービスを展開する米Backblazeがまとめたブログ記事を参照に、それぞれの特徴を確認してみたい。


    【CPU:セントラル・プロセッシング・ユニットとは?】

    CPUは「Central Processing Unit中央演算処理装置」の略称で、名前の通り、コンピューターの中心的な役割を果たしており、ハードディスクやメモリなどの周辺機器に接続されてデータを受け取り、それらの制御やデータの演算を行っているデバイスである。

    CPUは、PCでの文書作成やロケットの進路計算、銀行の取引処理など多様な用途に用いられている。CPUでも機械学習を行うことは可能だが、CPUは「計算の度にメモリにアクセスする」という特徴を持っていることから、機械学習のように大量の計算を実行する際にはメモリ通信速度がボトルネックとなって処理速度が遅くなる。


    【GPU:グラフィックス・プロセッシング・ユニットとは?】

    GPUは「Graphics Processing Unit」の略称で、「大量の計算を並列処理する」という操作を得意としていることから、CPUと比べて圧倒的に高速な機械学習が可能となる。一般的に画像処理関係の演算は計算量が多く、3DのCG画像をリアルタイムで表示する場合などには、高い処理能力が必要になる。この画像処理に特化したデバイスがGPUである。

    そのため、GPUをPCなどで使用する場合、コンピュータ全体を制御するCPUと組み合わせて使用する必要がある。GPUやメモリ、入出力機器などをセットにしたグラフィックスボードがよく知られているが、機械学習専用に設計されたチップと比べると効率が劣る。また、大量のエネルギーを使用することが課題として指摘されている。

    長い間ゲームに使われてきたGPUが一般的なコンピューティングに使われるようになったのは2000年代に入ってからだ。エヌビディア(NVDA)はチップを設計するだけではなく、CUDA(クーダ)と呼ばれる独自の開発プラットフォームも提供している。このCUDAによってエヌビディアのGPUはゲームだけではなく機械学習のタスクにも幅広く適用し広く普及することになった。


    【TPU:テンサー・プロセッシング・ユニットとは?】

    TPUは「Tensor Processing Unit」の略称で、グーグルが開発し、2015年から自社のデータセンターで使い始めた。グーグル(GOOGL)はクラウドコンピューティングサービス「Google Cloud」を通じて、ユーザーに対してこのTPUの処理能力を提供しており、ユーザーは自身の手元にハードウェアを用意せずとも機械学習関連の処理を高効率で実行することができる。

    2013年頃グーグル社内において、もしすべてのAndroidユーザーがグーグルの新しい音声検索機能を1日わずか3分間利用した場合、その負荷を処理するためだけにグローバルなデータセンター容量を倍増させる必要があるとするデータが算出された。当時、彼らは標準的なCPUとGPUに依存していた。

    これらは高性能ではあったものの汎用チップであるため、ディープラーニングが要求する特定の重労働、大規模な行列乗算には非効率だった。このことをきっかけにASIC(特定用途向け集積回路)開発のプロジェクトがスタート、初代のTPU製品を2015年に初めて社内向けに導入し、その後、10年間をかけて改良を重ねてきた。生成AI向けに消費電力を抑えた第7世代は今年4月に公開された。

    タンCEOは決算説明会で、ブロードコムの連結受注残高は1620億ドルであり、このうち約半分に相当する730億ドルはAI半導体に関する受注であることを明らかにしている。また、この730億ドル分について、今後18か月かけて顧客に納入される見込みであるとし、2026年度第1四半期(25年11月~26年1月期)のAI売上高は前年同期比で倍増の82億ドル、インフラス・ソフトウェア事業の収益は季節要因もあり、微増(2%増)の約68億ドルとの見通しを示した。合計すると前年同期比28%増の191億ドル前後となる見込みだ。


    AI技術の向上と同時にAIの性能を最大限に発揮できるAI半導体チップの開発競争が加速している。AI半導体チップとは、AIの演算処理を高速化するために設計された専用の半導体チップである。AIが使われる範囲が拡大すると同時に、AIの学習に必要な計算量は飛躍的に増加しており、汎用プロセッサだけでは処理が追いつかなくなっている。膨大な量のデータを高速に処理することができる、高性能で消費電力を抑えた専用チップを求める需要が高まっている。


    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
    20251215_jun_8.png出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    ●NYダウCFD(日足)
    20251215_jun_9.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    ●S&P500CFD(日足)
     
    20251215_jun_10.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    ●ナスダック100CFD(日足)
    20251215_jun_11.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    ●ドル/円(日足)
    20251215_jun_12.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    ●ゴールドCFD(日足)
    20251215_jun_13.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    を参照されたい。

TOPへ戻る

金融商品取引業者 近畿財務局長(金商)第15号
日本証券業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人金融先物取引業協会

Copyright © IwaiCosmo Securities Co., Ltd. All rights reserved.