「マーケットの最前線」
2025年11月25日第477回 ピーター・ティール(ティール・マクロ)のポートフォリオ
ファンドマネージャー 石原 順
ピーター・ティールがエヌビディアを全て売却、新たに取得した銘柄は?日本経済新聞の11月19日の記事「米著名ファンド、NVIDIAへの評価二分 大量保有から明らかに」によると、米国の著名ファンドの間でエヌビディア(NVDA)株に対する強気と弱気の見方が対立しているという。
11月中旬までに出そろった2025年9月末時点の報告書「フォーム13F」を調べ、6月末時点と比較したところ、デビッド・テッパー率いるアパルーサ・マネジメントやソロス・ファンド・マネジメントなどは買い増しに動いたが、ピーター・ティールが率いるファンドは全株を売却していた。
エヌビディアの時価総額は7月に史上初めて4兆ドルを超え、9月末以降には一時5兆ドルに達する場面もあった。アパルーサは保有株数を約1割増やし保有比率は4.8%と0.5ポイント上昇、ダニエル・ローブが率いるサード・ポイントやソロス・ファンドも保有を増やした。
一方、レイ・ダリオが創業したブリッジウォーター・アソシエイツは前期の大量買い増しから一転、9月までに6割強減らした他、ピーター・ティールのティール・マクロは保有していたエヌビディア株(約54万株)を全て売却した。
●エヌビディア(4時間足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●エヌビディア(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●エヌビディア(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
ティール・マクロは、ペイパル(PYPL)の共同創業者であるピーター・ティールによって設立された、サンフランシスコに拠点を置く資産運用会社だ。ティールは、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)の創業にも関わった米テック業界の中心人物である。
パランティアは創業当時から米軍、国防総省、FBI(連邦捜査局)、CIA(中央情報局)などといった政府関連機関を顧客に抱えており、パランティアが初めに大口の資金調達を行ったのは、CIAが運営する非営利型のベンチャーキャピタルIn-Q-Telだったことも伝えられている。
米ハイテク業界において注目を集めるスタートアップ企業の多くには、創業者がかつてパランティアで働いていたという共通点がある。8月20日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「パランティアの人脈、米テック業界注目の新興企業を支援」によると、パランティア出身のスタートアップ企業の創業者らは「パランティア・マフィア」と呼ばれていると言う。そのネットワークを活かし、パランティア出身者が創業または経営する企業は350社以上あり、そのうち少なくとも12社が企業価値10億ドル以上に達しているそうだ。
●ティール・マクロが保有する上場株式

出所:フォーム13Fより筆者作成
ティール・マクロの保有株式の1年の動きを追ってみた。今年初めには、ASML(ASML)やマイクロソフト(MSTF)、エネルギーのビストラ(VST)など半導体関連、ハイテク、エネルギーの企業も保有していたが、4-6月期にASMLとマイクロソフトを全て手放した一方、エヌビディアとテスラ(TSLA)については保有を積み増していた。その後、7-9月期に保有していたエヌビディアとビストラを全て売却、テスラについては保有を継続しているが、3ヶ月前から保有高は4分の1に減少した。一方で新たに、マイクロソフトを約4万9000株、アップル(AAPL)を約7万9000株取得した。
米国のハイテク株を中心に保有高を適宜、組み替えているイメージだ。マグニフィセント7のうち、メタ(META)とアルファベット(GOOGL)についてはこの1年の保有はなかった。ティールはフェイスブックの初期投資家の一人で長年、同社の取締役を務めていたが、2022年に取締役を退任して以降、メタとは距離を置いているとされている。
市場の大きな調整につながる「実需」と「期待」の時間軸のズレ
エヌビディアは11月19日、2026年度第3四半期(2025年8-10月)の決算を発表した。売上高は前年同期比62%増の570億600万ドル、純利益は65%増の319億1000万ドルだった。売上高、利益とも市場予想を上回り、四半期ベースで過去最高を更新した。データセンター部門の収益が510億ドル(前年同期比66%増)と過去最高を記録したことが伸びをけん引した。●エヌビディアの売上高と純利益

出所:フォーム13Fより筆者作成
●エヌビディアの部門別売上高の推移

出所:フォーム13Fより筆者作成
粗利益率は前期から1ポイント改善し73%に達した。最先端品であるブラックウェルの出荷が順調に進んでいることが伺われる。会社側によると、クラウド向けの半導体は完売状態にあるということで、第4四半期の売上収益は650億ドル(±2%)を見込んでいる。エヌビディアは2026年までのブラックウェルおよびルービンAIチップの売上は5000億ドルに達する見通しだと明らかにしている。決算発表後に行われた投資家との説明会においてコレット・クレスCFO(最高財務責任者)は、需要が供給を上回り続ける状況を説明するとともに、さらに売上を積み上げるような機会が存在していると述べた。●エヌビディアの粗利益の推移

出所:フォーム13Fより筆者作成ジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は説明会の中で、「AIバブルについて多くの議論があるが、われわれの視点からは全く異なるものが見えている。エヌビディアは他社とは異なり、AIのあらゆるフェーズで卓越している」と述べた。加速コンピューティング(アクセラレーター)への移行は基盤的かつ必要不可欠であり、ポスト・ムーアの法則時代において必須だと語った。
生成AIを中心とする急速な技術革新への期待が、株式市場や投資を過度に押し上げているという懸念がつきまとう。半導体、クラウド、データセンター企業の株価が歴史的な高値をつけており、AI関連スタートアップへの資金流入も膨らんでいる。
11月21日のブルームバーグの記事「オラクルCDS、取引額が昨年の25倍に-AIリスクのバロメーター化」は、トレーダーらがここ数カ月、オラクルのデフォルト(債務不履行)に備えるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)取引に殺到していると報じている。巨額なAI関連支出、相互関連する取引網における中心的な役割、競合他社に比べて低い信用格付けを背景に、オラクルのCDSはAIブームに対するヘッジ手段や逆張り投資の手段として、市場に好まれていると言う。
AI投資の「実需」と「期待」のギャップは明らかなリスク要因だ。現時点では、AI導入による効果が企業収益に十分反映されていないケースも多く、大規模データセンター構築やGPU確保のコストも膨らんでいる。
また、AIモデルの性能向上が飽和する可能性や電力不足などの制約も存在する。2000年のドットコム・バブル同様、技術自体はわれわれの社会を大きく変えるインパクトを持っているが、期待が先行する「時間軸のずれ」が市場の調整を招くこともある。
●OpenAIは5年以内に英国やドイツよりも多くのエネルギーを使用する計画で、8年以内にはインドよりも多くなる

出所:Peter Gostev
●エヌビディア(月足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●NYダウCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●S&P500CFD(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
ナスダック100CFD(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ドル/円(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ゴールドCFD(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
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