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「マーケットの最前線」

2025年8月25日

第464回「市場の楽観・過熱といくつかの取りうる手立て」

石原 順 石原 順

  • グロース株とバリュー株のパフォーマンス格差は世界金融危機以来、約15年ぶりの水準に上昇

     

    米ワイオミング州で開かれていた年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が終了した。パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は講演で、9月に予定されている連邦公開市場委員会(FOMC)において利下げに着手する可能性を示唆した。次回のFOMC会合は9月16から17日の日程で開催される。

     

    この講演を受けて市場では利下げ推進が優勢なコンセンサスとなりつつある。ただし、一方でパウエル議長は持続的なインフレリスクにも言及、関税による消費者物価への影響は「今や鮮明」であり、「関税による物価上昇圧力がより持続的なインフレ力学をもたらす可能性もある」との警戒感も示した。9月会合の後、追加の利下げが続くかどうかの保証はない。

     

    先週金曜日(22日)の米国株式市場は主要3指数が揃って反発、とりわけ他の指数に比べて年初から出遅れていたダウ平均は過去最高値を更新した。CNNが公表している「恐怖と欲望」指数は先週金曜時点で61と、市場心理が強気に傾いていることを示している。

     

    ●恐怖と欲望指数
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    出所:CNNマネー

     

    市場の過度な偏りは相場の反転によって巻き戻されるというのが常である。8月18日のリアル・インベストメント・アドバイスの記事「Excess Bullishness & 10-Rules To Navigate It(過度な強気心理と、それに立ち向かう10のルール)」から、市場の偏りを示す事象をいくつか抜粋してご紹介する。


    まず、グロース株とバリュー株のパフォーマンスの差だ。依然としてグロース株がバリュー株に対して大きくリードしている。この優位性はエヌビディア(NVDA)やマイクロソフト(MSFT)など、AI関連のビッグテックによって牽引されている。このパフォーマンス格差は現在、世界金融危機以来、約15年ぶりの水準となっている。


    ●時価総額/イコール・ウェイト指数の推移
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    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

     

     

    過度な強気センチメントを示しているのは株式市場だけではない。暗号資産市場も非常に似た特徴を示している。ビットコインや暗号資産に関心がなく、一切関わるつもりがなかったとしても、間違いなく影響を受けることになるだろう。なぜなら、暗号資産市場は、リスク選好や投機のバロメーターとして、またリスク資産そのものとして機能しているだけではなく、ハイテク株と密接に相関しているためである。


    次のチャートはビットコインとナスダック指数の推移である。この相関は単なる偶然と言えるのだろうか。ビットコインが動けば、ハイテク株に影響を与える。前述の通り、一部ハイテク株へ過度に集中している株式市場はハイテク株の動きに大きく左右されることが想定される。

     

     

    ●ビットコインとナスダック指数の推移
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    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

     

     

    パウエル議長が示唆したように、近い将来にFRBが利下げを行えば、将来の利益に対する割引率が下がる。これによって、投資家が株式リスクに支払える現在の評価額が上昇するという期待がある。一方で、現在の市場評価には金利の恩恵がすでにほぼ織り込まれている可能性もある。

     

     

    楽観がピークに達した時に何がおきるのか?

     

    重要なのは、楽観がピークに達したとき市場では常に反転が起きるということだ。

     

    今後、どのような要因が相場の失望につながるのか。また、それがいつ起きるのかを正確に言い当てることは難しい。ただし、いずれその時が来て、過度な強気が反転することだけは分かっている。市場に極端なセンチメントが存在する現在、投資家はどのようにこうした明らかなリスクに対応しつつ、全体の流れに参加すればよいのか。いくつかの取りうる手立てがある。

    1)クオリティ株かつディフェンシブ株にリバランスする:業績が安定している非投機的なセクターへの配分を増やそう。市場の調整局面では、ディフェンシブ銘柄が相対的に強みを発揮する。

     

     

    2)キャッシュ比率を維持・拡大する:現金は選択肢を増やす。調整局面では、現金が買いの余力となる。強気相場で全資金を投入するのは避ける。

    3)ヘッジやボラティリティ戦略を追加する:インバースETFやボラティリティ連動の資産など、防御的なヘッジを検討する。小規模でもポジションを持つことで、大幅な下落時のダメージを緩和できる。

    4)ポジショニングやセンチメント指標をウォッチする:証拠金残高、各種センチメント調査(AAIIInvestors' Intelligenceなど)を定期的に確認する。

    5)オルタナティブ資産で分散を図る:実物資産や相関の低いヘッジファンドなどリスク管理された戦略を加えておくと、下落時のクッションとなりつつ成長の可能性も維持できる。

    6)最悪ケースでポートフォリオをストレステストする:ドット・コム・バブル崩壊等のような下落を想定し、2030%のドローダウンとなった場合にも流動性危機に耐えられる構造か確かめる。

    7)段階的にエクスポージャーを増減させる:強気であっても、短期に一括で買うのではなく、時間を分散して徐々にポジションを築く。

    8)柔軟性を保ち、全力投資を避ける:センチメントが過熱したらポジションを軽くし、分散、買い増し、利益確定を繰り返す。

    9)機動的な運用を心がけ、全資金投入は避けましょう:調整局面では、固定的なポジショニングが大きなダメージにつながる。

     

    10)テーマごとにエクスポージャー上限を定める:AI関連などテーマごとに最大エクスポージャーの上限を設定する。パフォーマンスがその上限を超えた場合は、利益を計画的に削減する。

     

    過去1年の株価上昇率がSP500種指数の構成銘柄で最も大きく、株価が高値圏にあるパランティア(PLTR)のインサイダー取引を見てみると、過去12ヶ月、6ヶ月、3ヶ月の期間においてインサイダーは自社株を売り続けていることが分かる。85日のブルームバーグの記事「パランティアで5人目のビリオネア、567%株急騰で-創業者以外で初」は、4人の共同創業者に続きCTO(最高技術責任者)が5人目のビリオネアになったことを報じている。

     


    ●パランティアのインサイダー取引(過去3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月)
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    出所:Barchart

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    出所:Barchart

     

     

    ●パランティア(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    上記は8月1日以降のデータであるが、CEOのアレックス・カープや前述のCTOであるシャイアム・サンカーなど、パランティアの幹部が自社の株式を売り越している。インサイダーの売りは何を意味しているのか。いずれにせよ、強気相場で全資金を投入するのは避け、センチメントが過熱したらポジションを軽くするのもひとつの例だと言えるだろう。

     

    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

     

     

    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●ナスダック100CFD(日足)

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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●ドル/円(日足)

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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●ゴールドCFD(日足)

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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    日々の相場動向については、

     

    ブログ『石原順の日々の泡』

     

     

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