「マーケットの最前線」
2025年3月31日第443回「SPACブームも終焉?陶酔感と熱狂は過剰投資を引き起こす」石原 順
石原 順
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リスク許容度の高まりが引き起こしたSPACバブル
歴史を振り返ると、市場は常に投機的な「バブル」と「バースト」を繰り返してきた。バブルが膨張するたびに「今回は違う」と信じられ、その後「バースト」を迎える。そして今回も同じだったとなる。バブルに共通する分母は何か。例えば、膨大な額の信用の積み上がり、金融政策の緩み、住宅価格の高騰、不動産投機、レバレッジの爆発、アマチュア投資家による投機熱の高まり等が挙げられるだろう。投資情報を提供する米リアル・インベストメント・アドバイスによると、投機のサイクルは次の通りだ。
1)バリューレベルで投資家がマーケットに参入 → 2)株価が上昇 →3)変化が始まる → 4)投機家がIPOに目を止める → 5)初心者投資家がマーケットに参入 → 6)株価が上昇 → 7)ポジティブ・フィードバック・ループ、株価は上昇するのみ → 8)株価の上昇が心理的に強化される → 9)陶酔感が広がる → 10)レバレッジをかけた投資家が増える → 11)陶酔感が熱狂になり、クレジットが拡大 → 12)熱狂によりリスクの許容度が高まる → 13)リスク許容度の高まりによって詐欺や相場操縦が横行する → 14)マーケットがクラッシュし、投機が一掃される → 15)新たな規制とともに政府が介入 → 16)投資家はすべてのリスクを避ける
米遺伝子検査サービスの23アンドミー(ME)は23日、日本の民事再生法に相当する米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請した。2023年にサイバー攻撃を受け700万人もの顧客情報が流出、経営難に陥っていた。裁判所へ提出された資料によると負債総額は1億から5億ドル程度になりそうだ。今後、裁判所の承認を待って資産の売却を進めることになる。23アンドミーは2006年に創業された。販売する遺伝子検査キットを購入し唾液をとって郵送するとオンラインで解析結果を示す。遺伝性疾患の発症しやすさや体質についてリポートにまとめるサービスを199ドルで販売していた。病気のリスクなどを手軽に調べられると人気を集め、利用は累計1500万人に上った。米グーグル(GOOGL)が創業の初期から出資しており、集めた遺伝子のデータを創薬研究などに役立てるという期待もあった。
2021年に特別買収目的会社(SPAC)経由で上場し、一時、時価総額は60億ドルに達するところもあった。しかし、検査キットを売るだけでは売上高が伸びず、創業以来赤字が続いた。その一方、データを生かした事業も思うように進まなかった。そこにサイバー攻撃で顧客情報が流出し、検査キットの販売が低迷、時価総額はピーク時の100分の1以下になっていた。23アンドミー(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
23アンドミー(月足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
今後、23アンドミーが持つデータの取り扱いに懸念が出ている。遺伝情報という個人情報だからだ。カリフォルニア州の司法長官は「利用者は23アンドミーに対しデータの削除を求める権利がある」と注意喚起したが、今後オーナーが変われば、データが移管されたり売却されたりする可能性も指摘されている。
投資家から資金を集めたSPACは、通常指定された期間(2年)内に合併相手を探すが、合併する相手先企業が見つからなかった場合、集めた資金は投資家に償還される。2020年から2021年にかけてブームが起きていた頃、買収先を探すSPACが乱立、多くのSPACは指定された期間に合併先する企業を見つけることができず、投資家への資金返却を余儀なくされることが増えた。
23アンドミーが経営破たんに陥ったのは、その情報管理やビジネスモデルが甘かったためであり、上場する前からそれは明らかだったとも言える。しかし、フリーマネーが拡大する中、SPACに対する幻想が最大限に膨らんでいた。
SPACは金融市場において暗号資産やミーム株などと並び、空前のブームを巻き起こした。新興企業にとっては比較的容易に資金を調達し上場する手段としてSPACを活用する動きが活発化した。低金利時代の終わりと共にSPACブームも終焉を迎えつつあるようだ。
陶酔感と熱狂を引き起こしたAIデータセンターへの過剰投資
3月25日-27日に香港で開催されたHSBCグローバル投資サミットにおいて、アリババ・グループ・ホールディング(BABA)のジョー・ツァイ会長は一部のAIデータセンタプロジェクトにおいては利用者との契約である「引き取り」契約がないうちに資金調達を始めている述べ、建設ペースがAIサービスの初期需要を上回っている可能性を指摘した。「人々が投機的にデータセンターを構築しているのを見ると心配になってくる。私には一種のバブルの始まりが見え始めている。」と語った。
世界中でサーバー会社が次々と誕生し、米国ではトランプ大統領がインフラ投資プロジェクト「スターゲート」を推進している。また、今年2月、アリババはAIに全力で取り組むことを宣言し今後3年間で3800億元(約7兆9000億円)以上を投資する計画を明らかにしている。
一方で、中国のスタートアップ企業ディープシークが、米国の技術に匹敵するAIモデルをより安価なコストで構築したと発表したことをきっかけに、大規模支出に対する懐疑の念が高まっている。「人々は文字通り、5000億ドル、あるいは数百億ドルについて話している。私は、それが必要だとはまったく思わない。ある意味では、人々は今日見られる需要を先取りして投資しているが、彼らははるかに大きな需要を予測しているのだ」とツァイは指摘した。
ゼロヘッジの3月25日の記事「アリババの会長、AIデータセンターバブルの「始まり」に警告」によると、AIデータ容量のピークが、以前考えられていたよりもずっと近い将来に訪れる可能性があることを示す証拠がまだ数は少ないもののいくつか出てきていると指摘している。
例えば、2月下旬、投資銀行のTDコーエンはマイクロソフト(MSFT)がデータセンターのリース契約を解除し始めたことを顧客向けのメモの中で指摘した。マイクロソフトはこの主張に反論したが、これが本当であれば、アマゾン(AMZN)、アルファベット(GOOGL)、メタ(META)など大手テクノロジー企業によるAIデータセンターへの投資競争は近い将来、終わりを迎えるかもしれない。また、ゴールドマン・サックス証券は次世代製品への移行と需給の不確性という複合的な理由によりAIサーバーの数量予測を下方修正した。高度なAIモデルをアップグレードするためのコンピューティングパワーの需要が高まっているため、AIトレーニングサーバーは成長の原動力であり続けるだろう。しかし、ボリュームの増加ペースは以前の予想よりも遅れると指摘した。
GPUプラットフォームが2025年下半期に次世代に移行するにつれ、移行期間中は出荷が減速する可能性がある。システムの複雑性により、次世代生産の立ち上げには依然として不確実性が残っている。ディープシークのようなより効率的なAIモデルがリリースされた後においても強力なコンピューティングパワーに対する需要があるかどうかについては依然として議論が続いているとのことだ。3月26日のMITテクノロジー・レビューへ投稿された論文「中国はAIブームに乗り遅れないよう、数百ものAIデータセンターを建設した。今ではその多くが使われていない」は、中国がAIインフラに数十億ドルを注ぎ込んだが、投機的投資が需要の低迷とディープシークによるAIトレンドの変化に直面し、データセンターのゴールドラッシュは終焉を迎えつつあると指摘している。
つい数ヶ月前までは、政府と民間投資家の双方によってデータセンター建設ブームが最高潮に達していた。しかし、現在では多くの新設施設が空室となっている。中国の地元メディアによると、中国で新たに構築されたコンピューティングリソースの最大80%が未使用のままとの報告もあるとしている。
陶酔感と熱狂は過剰投資を引き起こす。
中国のデータセンターの状況はまるで中国の不動産市場の写し鏡であるようにも見える。需要に対して過大な供給がなされているということに関しては、これが世界的な状況であるかどうかは確認が必要であるが、主要なクラウド運営社であるアリババがAIデータセンタの増設における潜在的なバブルに警戒していることは、この市場に圧力を加えるものであり、AIという非常に注目を集めてきたテーマが短期的に停滞する可能性を示しているかもしれない。
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
日経平均CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
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