「マーケットの最前線」
2024年11月11日第424回「トランプ後の初期衝動相場とインフレ対策」石原 順
石原 順
-
債務(Debts)、赤字(Deficits)、人口動態(Demographics)の「3つのD」は経済成長の足かせとなる?
米大統領選挙においてトランプ前大統領が勝利したことを受け、株式や債券、為替をはじめとするマーケットが今後どのように動いていくのかさまざまな憶測が飛び交っている。減税や規制緩和に対する期待の高まりもあり、株式市場は選挙直後に急騰した。
11月5日の米国大統領選以降の収益は次のようになっている。
上昇:
コインベース: +40%
テスラ: +28%
ビットコイン: +15%
銀行: +8.9%
小型株: +6.2%
S&P 500: +3.7%
米ドル: +1.5%
下落:
長期国債: -0.3%
国際株: -1.2%
石油: -2.1%
金: -2.2%
中国: -3.6%
トランプメディア: -6%
ボラティリティ: -27%
出所:各種資料より
●11月5日の大統領選挙後のリターン
出所:クリエーティブプランニング
経済政策、金融・財政政策、地政学的イベントなど、今後どのような風が相場に吹くのか蓋を開けてみなければ分からないことも多いが、見通しの一つとして参考になりそうな記事をご紹介したい。11月9日のリアルインベストメントアドバイスの記事「トランプ大統領就任:市場への影響に関する考察」から一部を抜粋する。
2017年に可決された税制改革法(Tax Cut and Jobs Act)、いわゆるトランプ減税は2025年末に一部が終了する予定となっている。トランプはこの減税を恒久化することを目指している。もし恒久化されれば、法人税率は21%に維持される。また、当初トランプが目論んでいた15%に近い税率での新たな法人税減税法案が打ち出される可能性もある。
●インフレ調整後GDPに対する実質利益率の推移出所:リアルインベストメントアドバイス
税率の引き下げは、利益が税制改正に特に敏感に反応する消費財やテクノロジー等、特定のセクターに恩恵をもたらすことになるだろう。金融株も、トランプが断行する規制緩和から恩恵を受ける可能性があり、投資機会の増加につながるだろう。
一方、トランプ大統領の誕生は、中国製品への関税引き上げを含む保護貿易政策のリスクをもたらす。これはサプライチェーンを混乱させ、消費者と企業のコストを増加させる。さらに、政府の雇用や支出が大幅に削減された場合、経済成長は予想以上に減速し、減税の延長によってもたらされるメリットを相殺する可能性も考えられる。トランプが断行するビジネスに友好的な政策への期待から、株価は一時的に上昇する可能性があるが、関税や予測不可能な政策によってボラティリティが高まることが想定される。
新政権は赤字を財源とするインフラ支出や国防支出を行うだろう。こうした支出は、確かに経済成長を促進し、賃金上昇につながる。その場合、高い水準のインフレが持続することになる。連邦準備制度は、より高い経済成長が実現した場合、より高い金利を維持することが求められる。
このような環境下では、債券価格は経済活動の活発化に対応して下落、金利は上昇することになる。債券価格はより高い「最終金利」で安定することになり、債券保有の潜在的な上昇余地は減少することになる。
●各政権における平均経済成長率出所:リアルインベストメントアドバイス
構造的な雇用、人口動態、生産性の変化に起因するデフレ圧力の変化は、これらの問題を深刻化させるだろう。トランプだけではない、他の誰もがこうした根源的な問題を効果的に解決することは出来ないだろう。
トランプ大統領の任期中、株式市場と債券市場の見通しは、チャンスと課題が混在するものとなるだろう。それぞれの市場の行方は、どの政策が現実のものとなるかによって大きく左右される。
減税により株価は上昇する可能性があるが、関税が世界貿易に大きな影響を与える場合には、株価は低迷する可能性もある。債券は逆風に直面する可能性が高い。債務(Debts)、赤字(Deficits)、人口動態(Demographics)という「3つのD」は引き続き経済成長の足かせとなるだろう。
世界最大の年金基金GPIFも投資を検討、トランプ勝利で跳ね上がるビットコイン価格
ビットコイン価格が8万ドルを突破した。トランプ前大統領の勝利とFRBによる金利の引き下げはビットコイン市場にとっては強気の材料となったようだ。トランプは、金融、暗号資産(仮想通貨)業界などの規制緩和も重要視している。トランプを支えたテスラのイーロン・マスクがトランプ政権に入りとなればこれも追い風になるだろう。
●ビットコイン/ドル(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ビットコイン/円(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
著名投資家のポール・チューダー・ジョーンズは10月22日、米CNBCの番組に出演し、「米国の政府支出の増加と減税の見通しから、FRBが目標としている2%(現在:2.4%ほど)の達成は劇的な政策変更がない限りは事実上不可能だ」と指摘、「米国はインフレを起こし、債務負担を成長で乗り越える必要がある」と述べた。
ジョーンズは、「(米国は)支出問題に真剣に取り組まない限り、すぐに破産するだろう」と述べるとともに、「すべての道はインフレに通じる」として、ビットコイン(BTC)と金を含むコモディティをロング、ナスダックのバスケットを保有する一方、利回りのある金融商品からは離れるよう推奨した。
ジョーンズが指摘するように、投資家がインフレ対策としてビットコインを投資ポートフォリオに取り入れようとする動きがまだ小さな波ではあるものの、確実に世界に広まりつつある。10月29日、米フロリダ州のジミー・パトロニスCFO(最高財務責任者)は通貨インフレのヘッジとして、また中央銀行デジタル通貨に対する防壁として、州管理委員会にビットコイン投資を検討するよう要請した。パトロニスは約2050億ドルの運用資産を持つフロリダ州の年金基金を監督する責任者の一人である。
書簡によるとパトロニアスは、州職員の購買力を維持するために利益を最大化する責任を強調、「ビットコインはデジタルゴールドと呼ばれており、州のポートフォリオの分散化と主要資産クラスのボラティリティに対するヘッジとして機能するだろう」と述べた。また、すでにビットコインや他のデジタル資産への投資を検討している州があることにも触れた。持続不可能なまでに増え続ける負債、そして崩壊しつつある軍事力は、帝国の終焉を招く完璧なレシピである。
そしてまさに今、米国が置かれている状況だ。繁栄する帝国には非常に強力で効率的な経済、堅実な通貨、そして管理された一定レベルの負債が必要となる。しかし、米国には今、こうした条件が備わっていない。
ビットコイン財務会社と呼ばれるマイクロストラテジーの会長であるマイケル・セイラーは、「ビットコインは何十年も保有できる資本投資だ。企業や競合他社、取引相手、国があなたから奪うことはできない。そのため、あなたの家族、企業、国のために世代を超えた富を生み出せる。世界中のどこでも、いつでも、いくらででも清算ができるし、積極的な運用や商才がなくても、いくらでも保有ができる」、「お金を稼ぐために人生の4万時間を費やすなら、それを維持する方法を考えるのに100時間を費やす価値はある」と述べ、近々、420 億ドルの資金でビットコインを買い増す予定だ。
マイクロストラテジー(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
われわれは負債とインフレが超指数関数的に増加する時代の始まりに立っている。指数関数的に増え続ける現在の負債を推定すると、2036年には米国の連邦負債は100兆ドルに達すると見られる。100兆ドルの負債は、高いインフレとデフォルトのリスクを意味し、はるかに高い金利につながる。 3~4%の利回りでは誰もリスクの高い米国債を保有しようとはしないだろう。
「2025年の債務上限問題」と題されたYouTubeの動画で、リン・オールデンは2025年に最も強気な資産はビットコインだと述べている。
今年3月、世界最大の公的年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用資産の一部をビットコインに配分することを検討していることを明らかにした。GPIFは「経済や社会の大きな変動、急速な技術の進展に対応し、長期的な視野から基本ポートフォリオに係る理論と革新的な運用戦略を調査研究するため」と説明、具体例としてゴールドや農地、森林、そしてビットコインを挙げた。メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●NYダウCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●S&P500CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●ナスダック100CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ドル/円(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ゴールドCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。