「マーケットの最前線」
2024年9月24日第417回「ゴールド価格が最高値を更新、ドル離れ、地政学リスク、そして・・・」石原 順
石原 順
スマートフォン向け半導体チップへの参入を見送ったインテルの誤算
かつての半導体業界の巨人インテル(INTC)に同業他社から買収の打診があったとのことだ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などが報じたところによると、話をもちかけたのは米半導体大手のクアルコム(QCOM)である。クアルコムによるインテル買収を実現するために、インテルの資産や一部事業を他社に売却する可能性があることも報じられた。
インテルの時価総額(約900億ドル)は、米マイクロソフト(MSFT)がゲーム会社、米アクティビジョン・ブリザード買収に投じた約690億ドルを上回っている。WSJによると、クアルコムがもしインテルの会社全体を買収することになれば、テクノロジー業界で過去最大規模のM&Aとなる可能性がある。
一方で、インテルが受け入れたとしても反トラスト法(独占禁止法)の審査が障壁になる可能性があるため、関係者の話として現時点では「合意にはほど遠い」とも伝えている。ただし、この取引が米国の半導体における競争力を強化する好機と見なされる可能性もある。半導体メーカーとして50年の歴史を持つインテルにとっては、深刻な危機に直面している中での決断となる。
●インテル(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●インテル(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
インテルは2024年4-6月期の最終損益が16億ドルの赤字と業績不振に陥っている。広範囲にわたるコスト削減策の一環として、今年8月には、大規模な人員削減や配当金の支払いを一時停止する計画を発表した。
また、16日には半導体の受託生産(ファウンドリー)を含む製造部門を分社化すると発表した。自社で設計した製品も受託生産の子会社が製造を請け負うことになる。子会社として他の事業と切り離すことで、外部から資金調達できるようにするとの狙いだ。すでに米国政府から最大85億ドルの助成金が支給される可能性も伝えられている。
クアルコムは、スマートフォン向けチップの大手サプライヤーであり、携帯電話と携帯電話基地局間の通信を管理するチップなども手がけている。さまざまなデバイスがある中でも、クアルコムはとりわけアップル(AAPL)のiPhoneにとって最も重要なサプライヤーの1社である。
今回の取引により、クアルコムはカバーする事業範囲が大幅に拡大することになる。一方のインテルにとっては、過去に参入しないと判断したスマートフォン向けチップ事業による返り討ちを約20年後に受けるような形になる。アップルが2007年に発売したiPhoneは世界を席巻し、パソコン一強の時代は終わりを告げることになった。結果として、ウィンテル連合と呼ばれパソコン向け半導体を独占していたインテルは苦境に立たされることになった。
●クアルコム(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●クアルコム(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
アップルは当初、初代iPhone用プロセッサの生産委託をインテルに打診したそうだ。スティーブ・ジョブス自身が実際にインテルとの交渉を行ったと言われている。CNET Newsの2013年5月17日の記事「インテル前CEO、初代iPhoneへのチップ供給を見送ったことを明かす」は、当時、The Atlantic社がオッテリーニ元CEOへ行ったインタビュー内容を次のように取り上げいる。
われわれは結局、その機会を獲得しなかった、あるいはそれを見送った。どちらの表現を使うかは、その人の見方による。そして、もしわれわれがそれをやっていたら、世界は非常に違うものになっていただろう。忘れてはならないのは、これはiPhoneが発売される前の話で、iPhoneがその後、何を成し遂げることになるのか誰も知らなかった、ということだ。結論を言うと、Appleはあるチップに関心を抱いており、それに一定の金額を払いたいと考えていたが、その金額以上はビタ一文も出す意思がなかった。そして、それはわれわれの予測していたコストより低い金額だった。私には、それが上手く行くとは思えなかった。それは、生産量を増やすことで埋め合わせられるようなことではなかった。そして、今思い返してみると、われわれの予測したコストは間違っており、生産量はあらゆる人が考えていた量の100倍だった。
アップルが提示した額は確かにインテルが予測していたコストより低かった。このため、当時下された決断は妥当だったのであろう。一方で、スマートフォンという新しいデバイスがどの程度世界に浸透していくのか、全ての物事を過去の延長線上にあると考えた場合、見通すことが出来なかった。これが、インテル史上最大の誤算になった。
ゴールド価格が史上最高値を更新中
米連邦準備理事会(FRB)が17-18日 の日程で開催した公開市場委員会(FOMC)において0.5%の利下げに踏み切った。これをきっかけにゴールド価格に弾みがついている。継続的な利下げが想定される中、ドル離れを背景に中央銀行が金の保有を拡大していることも相場を支えている。また、中東情勢を巡る地政学リスクも「安全資産」とされるゴールドの買いを誘っていると指摘されている。
●ゴールド(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ゴールド(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
さらには米大統領選挙をめぐる情勢もゴールドへの資金流入を加速させているようだ。ゼロヘッジの9月20日の記事「Hedge Fund Billionaire: Sell Stocks, Buy Gold If Kamala Wins(ヘッジファンド・ビリオネア:カマラが勝てば、株を売ってゴールドを買い)」は、ヘッジファンド、ポールソン・アンド・カンパニーの創設者兼CEOであるジョン・ポールソンが、もしカマラ・ハリス氏が選挙に勝てば株式市場から資金を引き揚げ、現金とゴールドに変えるつもりだと語っていることを取り上げている。
ポールソンは、2007年から2009年にかけての世界金融危機において数十億ドルを稼いだことでも知られている著名投資家の一人である。Fox Businessの番組に出演したポールソンは、ハリス氏が大統領に当選し、彼女が掲げる税制改革案や経済政策が実行されることに対して、強い懸念を示した。
ポールソンは、1億ドル以上の収入を得ている個人を対象に提案されている含み益に対するキャピタルゲイン課税は特に問題であり、「彼らが説明した計画は市場に多くの不確実性を生み出し、おそらく市場を下落させるだろう。株式、債券、住宅、美術品など、ありとあらゆるものの大量売却を引き起こすだろう。その結果、市場は暴落し、即座に深刻な不況に陥るだろう。もしハリスが選出されたら、私は市場から資金を引き出し、現金とゴールドに変えるでしょう」と述べた。
なお、ポールソンはトランプ陣営の有力な資金調達者の一人であり、トランプ政権が実現すれば、財務長官候補になるのではないかとも言われている。発言の内容については彼の立ち位置を割り引く必要があるが、ゴールドへの資金流入を加速させる要因のひとつであることは間違いなさそうだ。
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●NYダウCFD(日足)
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