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2024年5月20日第399回「ドラッケンミラーがエヌビディア株を減らした理由」石原順
石原順
相場でとんでもない成功を収めた後は休むことも重要!資産家で著名投資家のスタンレー・ドラッケンミラーが運用するファミリーオフィス、デュケーヌ・ファミリーオフィスは2024年1-3月期に保有するエヌビディア(NVDA)株の約7割を売却した。デュケーヌが5月14日にSEC(米証券取引委員会)に提出した書類フォーム13Fで明らかになった。
ドラッケンミラーはこれまで保有のトップだったエヌビディア株44万1000株余りを処分、3月末時点で、保有株数としては17万6,000株、評価額としては約1億5900万ドル相当にまで持ち高を減らした。フォーム13Fは今年3月末時点の保有状況を示すものであるため、直近でさらに保有株式を売却または調整した可能性もある。
デュケーヌ・ファミリーオフィスが公開した2024年3月末時点のフォーム13Fからポートフォリオを確認してみよう。
●2024年3月末時点のデュケーヌ・ファミリーオフィスのポートフォリオ(緑:新規ポジション オレンジ:全売却)
出所:フォーム13Fより筆者作成
ドラッケンミラーは1-3月期にアドビ(ADBE)やシェブロン(CVX)等を含む20銘柄を完全に売却した一方、ETFを含め新たに42銘柄を取得している。今回、エヌビディアの売却がクローズアップされているが、積極的にポートフォリオを入れ替え、持ち株数を増やしている。AI関連ではマイクロソフト(MSFT)の保有をわずかに増やしたことに加え、以前手放したメタ(META)にも再び投資を行なっている。
●AI関連株の保有株数の推移(単位:株)出所:フォーム13Fより筆者作成
5月7日、米CNBCの番組「Squawk Box」に出演したドラッケンミラーは「私はウォーレン・バフェットではない。10年も20年もモノを所有しない。ウォーレン・バフェットだったらよかったのだが・・」と語った。
AIについては「私のような年寄りでも、それが何を意味するのか理解できた」と述べ、AIブームはインターネットよりも大きなものになる可能性を秘めた"見たこともないようなメガトレンド"だろう」と付け加えた。エヌビディアの売却については、「ちょっと休みたいんだ。私たちはとんでもない成功を収めた。私たちが認識したことの多くは、今や市場によって認識されるようになった」と述べた。
ドラッケンミラーは著名投資家のジョージ・ソロスの元部下で世界最高の投資家の一人と称されている。今回のドラッケンミラーによるエヌビディアの売却は、株価が過大評価されているというシグナルというよりは、むしろ彼が得た利益が正式に確定されるに値する行動をとったものと考える。
大きな損失は大儲けの後にやってくる。
小型株への投資を増やしているのは金利の低下を見込んでいるのか?
デュケーヌ・ファミリーオフィスの2024年3月末時点の上場株式ポートフォリオを評価額順にまとめると、トップはiシェアーズ・ラッセル2000ETF(IWM)であることがわかった。ポートフォリオ全体の約15%に相当する規模である。
米国の金利が高止まりする中小型株は苦戦を強いられている。ナスダックが最高値を更新し、NYダウが初めて4万ドルの大台に乗せているのに対し、米国の中小型株で構成されるラッセル2000は、2021年後半に記録した最高値に近づくことができず出遅れが鮮明だ。
●デュケーヌ・ファミリーオフィスが保有する上位10銘柄(2024年3月末時点)出所:フォーム13Fより筆者作成
この上位10社のうち、持ち高を増やした、あるいは新たにポジションを構築した企業はマイクロソフトを除くと3社ある。6位のナテラ(NTR)、8位のコヒーレント(COHR)、そして10位のウッドワード(WWD)である。
ナテラはテキサス州オースティンに本拠を置く臨床遺伝子検査会社であり、時価総額は約130億ドル。光学材料および半導体メーカーのコヒーレントは88億ドルだ。ウッドワードは航空機エンジン、産業用エンジンとタービン等を手がけており、時価総額は109億ドルほどだ。小型株とは言えないまでも、いずれも時価総額は100億ドル前後と小粒である。
中小型株は、大企業以上に資金を借りるケースが多いため、金利の影響をより受けやすい。5月11日のブルームバーグの記事「A $600 Billion Wall of Debt Looms Over Market's Riskiest Stocks(6000億ドルの負債の壁が市場リスクの最も高い株式に立ちはだかる)」によると、ラッセル2000企業は全体で8320億ドルの負債を抱えており、そのうち75%にあたる6200億ドル分を2029年までに借り換えなければならないと報じている。
ただし、もし今後、金利が低下していくと考えた場合、大型株に対して出遅れている中小型株にとっては追い風となる可能性があろう。すでに金利低下を織り込んだポジショニングをとっているようだ。変化に対しどのように機敏に対応すべきかの参考にしたい。
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出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
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日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。