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2023年11月27日

第375回「AIの指標銘柄エヌビディアとGPUの未来」石原順

石原順  石原順 




  • エヌビディアのAI半導体をベースに次々と新たな生成AI技術が生み出されるAIファウンドリー


    米半導体大手のエヌビディア(NVDA)が21日に発表した2023年8-10月期決算は、売上高が一年前の約3倍となる181億2000万ドル、純利益は92億4300万ドルと前年同期の約14倍に拡大し、いずれも過去最高を更新した。




    ●エヌビディアの売上高と純利益
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    出所:決算資料より筆者作成



    ●エヌビディア(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●エヌビディア(週足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    11月22日の日本経済新聞の記事「最高益NVIDIA、時価総額1年で3倍 日米株式市場に波及」は、ジェンスン・ファンCEOの「エヌビディアは本質的にAIファウンドリー(受託製造会社)」だとするコメントを紹介、同社が手がける専用半導体を基盤として、次々と新たな生成AI技術が誕生していると強調した。

    昨年11月にオープンAI が公開した生成AI「ChatGPT」の登場以来、AIの頭脳の役割を果たすエヌビディアのGPU(画像処理半導体)に対しする需要は急拡大している。エヌビディアはこの分野で約8割の世界シェアを握ると言われている。大規模言語モデルの学習や動作にはデータセンターで大量のGPUを使うため、需給逼迫によって単価は上昇し、市販価格は500万〜600万円するケースもあると言う。




    ●エヌビディアの分野別売上高の推移
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    出所:決算資料より筆者作成




    エヌビディアの成長を牽引したのは、間違いなくAIを中心とするデータセンター部門の売上だ。今四半期に約145億ドルの売上をもたらし、前年同期から279%増加した。過去主力とされていたゲーム向けは売上が伸び悩む一方、データセンタ向けの売上は2年前の4倍あまりに拡大している。

    2016年1月12日、エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは自社のHPに「GPUによるAIの高速化――新たなコンピューティング・モデルの誕生」と題する投稿を行なっている。それによると、2011年頃から、AIの研究者がエヌビディアのGPUに注目するようになったそうだ。ちょうどその頃、グーグル(GOOGL)のAI研究を行うチーム「グーグル・ブレイン」が画像認識でネコと人を区別できるようになるという驚異的な成果を挙げたタイミングだった。

    その処理を行うために、グーグルは巨大なデータセンターにずらりと並んだサーバを使い、2,000個ものCPUを回していたそうだが、そこに登場したのがエヌビディアのGPUだった。GPUをディープラーニングに適用してみたところ、わずか12個のGPUで2,000個のCPUに匹敵するパフォーマンスを挙げられることがわかったというのだ。

    その後、ニューヨーク大学、トロント大学、スイスAIラボなどで、GPUによるディープ・ニューラル・ネットワークの高速化が始まり、これが爆発的な普及につながっていく。そして、コンピュータによる画像認識精度を競う2012年の大会で、トロント大学のチームが大差をつけて勝ったことで、GPUを使ったAI開発のレースが始まった。

    次の節目は2015年に訪れた。ディープラーニングによって開発されたAIモデルが、人間以上のプログラム開発を出来るようになったり、IQ試験で大学院生並みのスコアを得ることに成功したり、語学の習得にも成功したという報告が相次いだ。つまり、2015年はAIが「超人的な」認識能力を持っていることが世界に明らかになった年だった。

    コンピュータのプログラムは、基本的に並んだコマンドが順を追って実行されていくのに対し、ディープラーニングでは並列にトレーニングしていくことが求められる。それを効率的に走らせることが出来る理想的なプロセッサはGPUだったというわけだ。

    ジェンスン・ファンCEOは投稿を次のように締め括っている。

    ディープラーニングというブレークスルーにより、AI革命が始まりました。AIディープ・ニューラル・ネットワーク搭載のマシンなら、複雑すぎて人間のプログラマでは対処できない問題も解くことができます。データから学び、使うたびに成長することができるからです。同じディープ・ニューラル・ネットワークを、それこそプログラマでない人がトレーニングし、別の問題を解かせることさえ可能です。指数関数的な普及が見込まれます。そして、社会に対する影響も、きっと指数関数的になるはずだとNVIDIAでは考えています。

    改めてであるが、これは2016年の投稿である。エヌビディアとジェンスン・ファンにはAIの未来と大躍進するGPUの未来が見えていたようだ。




    中国向けの出荷は本当に減少しているのか?

    懸念材料があるとすれば長引く米中対立を背景とした中国向けの出荷だろう。バイデン米政権はAI半導体について対中輸出規制を強化しており、エヌビディアの決算説明会においてもエヌビディアのコレット・クレスCFO(最高財務責任者)は、全社売上高の2割を占める中国事業について「大幅に減少する」との見通しを示した。

    2022年10月に米商務省から先端半導体の対中輸出規制が出されてからというもの、エヌビディアは規制の網にかからないように性能を落とし、仕様を変更した中国向け製品を開発し、投入してきた。しかし、規制の強化により、今後、こうした商品は輸出ができなくなる可能性が高い。

    マーケットウォッチの11月21日の記事「Opinion: Nvidia's biggest risk to its outlook right now is China(オピニオン:エヌビディアの見通しに対する現在最大のリスクは中国)」によると、ウォール街は、エヌビディアの驚異的な成長率の持続可能性について神経質になっているという。

    アーニングス・コールにおいてジェンスン・ファンCEOは「データセンターは2025年度まで成長できると(絶対に)信じている」というコメントした。これは投資家にとって大きなプラス材料となったが、米国の新たな輸出規制が中国での収益にどのような影響を与えるかという不確実性はウォール街の悩みの種であると論じている。

    バイデン政権によって最近打ち出された輸出規制は、AI向け用途で中国に販売できる半導体の種類を規定するものである。エヌビディアのコレットCFOは、第4四半期は中国およびベトナムおよび中東の特定国を含む他の地域への売上げが大幅に減少すると述べると同時に、中国向けの輸出を相殺するようなさまざまな機会が、他のすべての地域にあるとコメントした。




    ●エヌビディアの地域別売上高の推移
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    出所:決算資料より筆者作成



    上のグラフはエヌビディアの地域別売上高を示したものである。昨年以降、米国向け(青)の売上が急増していることがわかる。その一方で、懸念されている中国向け(赤)に関しては、一時大きく落ち込むところがあったが、性能を落とした製品を販売するなどの企業努力もあり、直近では回復してきている。




    ●エヌビディアの地域別売上高(2023年8-10月期)
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    出所:エヌビディアの決算発表資料



    筆者が注目したのは、シンガポール向け(薄い緑)の出荷である。2023会計年度の第1四半期からシンガポールという区分が決算発表資料に登場した。それまで「その他」や「アジア太平洋」という括りはあったため、ここに含まれていたと思われる。

    このシンガポール向けが今四半期に一年前の5倍に拡大している。特に半導体を大量に消費するような製造業がないシンガポール向けがこれほど伸びているというのは何を意味しているのだろうか。隣国のマレーシアには半導体産業の後工程の工場が集積しているということはあるが、エヌビディアの最先端GPUの需要が急激に増えるような理由としては不十分だ。

    あくまで推測であるが、シンガポールを経由してその他の地域に流れている可能性もありそうだ。ウクライナ危機が勃発して以降、インドがロシアの原油を大量に輸入しているのと同様の動きである。数字からの推測に過ぎないが、小国が生き残るための一つの戦略でもある。今後の動向を注視しておきたい。




    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター




    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター




    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。




    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。



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