「マーケットの最前線」
2023年8月28日第362回「バフェットとドラッケンミラーのポートフォリオ」石原順
石原順
マーケットの最前線
「バフェットとドラッケンミラーのポートフォリオ」
2023年8月28日住宅建設会社へ新規投資したバフェットとAI投資を加速させているドラッケンミラー
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるコングロマリット、バークシャー・ハザウェイ(BRK.B)は8月14日、2023年6月末時点の上場株式の保有状況を示すフォーム13Fを当局に提出した。4-6月における上場株への投資状況について前回(2023年3月末)と比較した。今回、新たに住宅建設会社3社への投資が明らかになった。テキサス州に本社をおく住宅建設のDRホートン(DHI)とワシントン D.C.を含む東海岸で事業を展開するNVR(NVR)、フロリダ州にあるレナー(LEN)である。バークシャーは6月末時点でDRホートン株を約597万株、レナー株を約15万株、NVR株を1万株保有していた。
一方、保険ブローカーのマーシュ・アンド・マクレナン(MMC)、医薬品販売のマッケソン・コーポレーション(MCK)、ヴィッテス・エナジー(VTS)株を全て売却した。また、マイクロソフトによる買収案が反トラスト法(独占禁止法)当局の精査に直面しているアクティビジョン・ブリザード株(ATVI)を70%削減した他、ゼネラル・モーターズ(GM)やシェブロン(CVX)についても保有比率を減らした。
●バークシャーの2023年6月末時点の保有上場株式(フォーム13Fより)単位:1,000ドル 緑:新規ポジション 橙:売却
出所:フォーム13Fより筆者作成
保有割合の上位(評価額順)は、アップル(AAPL)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、アメックス(AXP)、コカコーラ(KO)等、顔ぶれはほぼ変わっていないが、期中における保有株数と株価の変動によって、割合と順位に多少変化が出ている。
アップルについては4-6 月期に株価が大きく上昇し、初の時価総額3兆ドル企業となったこともあり、バークシャーの保有割合は5割を超えた。一方、前述の通り、保有する株式の7割を売却したアクティビジョンはトップ10圏外となった。●バークシャーが持つ上場株式の保有割合
出所:2023年6月末時点のフォーム13Fより筆者作成●前回(2023年3月末時点)の保有割合
出所:2023年3月末時点のフォーム13Fより筆者作成
スタンレー・ドラッケンミラー氏のファミリーオフィス、デュケーヌ・ファミリーオフィスの4-6月期のフォーム13Fでは、ドラッケンミラー氏が引き続きAIを中心としたハイテク銘柄への投資を増やしていることがわかった。ドラッケンミラー氏は、「AIは極めて現実的で、インターネットと同じくらいインパクトのあるものになるだろう」と述べており、3月末時点においてもエヌビディア(NVDA)などを中心にAIやハイテク関連株を取得していた。
この傾向は続いており、エヌビディアについては保有株数を約16万株引き上げ、保有上場株のトップとなった他、マイクロソフト(MSFT)についても10万株近くを追加した。TSMC(TSM)、メタ(META)は保有をキープしているが、保有株数を大きく減らした。
AMD(AMD)、アルファベット(GOOGL)パランティア(PLTR)、パロアルト・ネットワークス(PANW)などの半導体、ハイテク、AI分野の持分を全て売却。その一方で、半導体開発用ソフトウェア(EDA)を手がけるケイデンス・デザイン(CDNS)、半導体のマイクロンテクノロジー(MU)を新たに追加。その他、GE(GE)、UBSグループ(UBS)を取得していることがわかった。●デュケーヌ・ファミリーオフィスの2023年6月末時点の保有上場株式(フォーム13Fより)単位:1,000ドル
緑:新規ポジション 橙:売却出所:フォーム13Fより筆者作成
ドラッケンミラーは現物株を所有すると同時に先物等で空売りを行なっているため、米国株にどこまで強気であるのかはわからないが、少なくともエヌビディア等のAI関連銘柄に対しては強気であることは明確である。おそらく、日銀が利上げするまでは大きく売り越すことはないだろう。
中身のないジャクソンホール会議とペトロダラー体制を揺さぶったBRICS+の首脳会議
先週、注目された会議が2つあった。一つは米西部ワイオミング州で開かれていた国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」だ。26日に閉幕した会議において、主要中央銀行のトップや経済学者らはこぞって、歴史的な高インフレが鈍化した後も世界経済を覆う分断などの構造的なリスクを指摘したと報道されている。だが、ジャクソンホール会議は、事前予想通りのつまらない会議だった。世界の過剰流動性相場を支えている日銀の植田総裁は「金融緩和を維持しているのは、基調インフレがなお目標をやや下回っているため」だと述べ、株式市場関係者を喜ばせた。
もう一つは22~24日の日程で南アフリカにて開催されていたBRICS+の首脳会議である。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されているが、来年1月から新たな加盟国としてアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国を受け入れることが決まった。
会議後の記者会見で、中国の習近平国家主席は「加盟国拡大は歴史的だ。BRICSの協力のメカニズムに新たな活力をもたらす」と意義を強調したと言う。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、「BRICSは、公平な世界、公正な世界、包括的で豊かな世界を構築するための努力の新たな章に着手した」と述べた。
BRICSは「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国を結集し、それらの声を代弁する場として存在感を高める狙いがある。こうした動きは世界の対立や分断をさらに深めることになりそうだ。しかし、BRICSには共通する理念や政策がない。また、グループ内における中国の経済的優位性を考慮すると、このパートナーシップがどの程度対等なものになるかは未知数だ。米調査会社のピュー・リサーチ・センターの最新の世界意識調査をもとに、Statistaが「Friend Or Foe? How BRICS Partners View China(敵か味方か?BRICSパートナーは中国をどう見ているか)」と題する記事をまとめた。それによると、BRICS諸国のなかには中国をかなり批判的に見ている国もあり、とくにインド人は強大な隣国を非常に批判的に見ていることがわかった。
●BRICSパートナー国は中国をどう見ているか?出所:Statista
インドは回答者の50%が中国を非常に嫌っており、さらに17%はどちらかと言うと好ましくないとしている。合計すると7割近くに及ぶ。ヒマラヤ山脈にて国境を接している両国の緊張関係は数年前から悪化している。記事によると、インド人の48%は、習近平が世界情勢に対し正しいことを行うとは思えないと主張し、58%は国際的な政策決定をする際にインドの利益を考慮しないだろうと答えた。
また、ブラジルの回答者の50%が中国はブラジルの利益を考慮しないと答えた一方で、67%が「習近平は世界政治の舞台で正しいことをする」ことに関して、信頼していない表明した。ブラジルの回答者の48%が中国に対して「非常に」または「やや」否定的な意見を持っており、これは2019年のわずか27%から上昇した。ラマポーザ大統領はBRICSについて「異なる見解を持ちながらも、より良い世界を目指すビジョンを共有する国々の対等なパートナーシップ」とも述べたという。既存勢力への対抗という共通項でどこまで協調できるのか、今後、加盟国がさらに増えた場合はより舵取りは難しくなりそうだ。
とはいえ、BRICSの今回の発表は、米ドルを世界の基軸通貨から脱却させるという、より大きな地図における重要な中継点である。BRICSの新たな構成により世界の石油生産の80%が支配される。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イランがBRICSに加わることで、EUは世界の石油生産の大部分をコントロールできるようになる。新興BRICS諸国のGDPの急成長も同様だ。これは世界のGDPの30%に相当し、30兆ドルを超えることになる。BRICS+では貿易や金融取引における現地通貨の使用を促進していく方針が確認されている。サウジアラビアは、グループ諸国との二国間貿易総額が2022年に1600億ドルを超える中東最大のBRICS貿易相手国である。キッシンジャーが作ったペトロダラーシステム(ドル=石油本位制)の崩壊による世界貿易の脱ドル化とBRICS+の台頭と相まって、乗り越えられない債務負担により、米ドルはじり貧の道をたどっていく可能性がある。BRICS首脳は、米ドルへの依存を減らすことを目的として、貿易や金融取引における現地通貨の使用を促進することで合意した。
今後、世界の国々で「金融」への関心が薄れ、「モノ」への関心が高まっていくことが予想される。私たちの生活を支えるには、金融よりも、モノの方がはるかに重要であることがわかったからである。
負債が成長を上回るペースで増加し、成長が投機的な信用資産バブルに依存しているが、これはいずれ持続不可能になる。結局のところ、どの国でも不換紙幣制度の最終段階は「インフレ」であることが証明されている。
ここから10年、世界は多極化が加速していくだろう。
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ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
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石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。