「マーケットの最前線」
2023年7月24日第357回「AI市場に参入するイーロン・マスクとテスラの最新動向」石原順
石原順
常に変化し、新たなことに挑戦し続けるイーロン・マスク氏
イーロン・マスク氏が23日、ツイッターへの一連の投稿において、ツイッターが長年使用してきたロゴ(青い鳥のシルエット)を近いうちに「X」に変更すると表明した。マスク氏は「十分に良いXのロゴが今夜投稿されれば、われわれは明日、世界中でそれを公開する」とし点滅する「X」の画像も投稿、「間もなくツイッターブランドに別れを告げ、次第に鳥たちともさよならすることになるだろう」とツイートした。ツイッターはすでに今年春に社名を「X」に変更している。X社のリンダ・ヤッカリーノCEOは、次のようにツートし、Xは多くのサービスをあらゆる人々に提供するプラットフォームになることを表明した。
●リンダ・ヤッカリーノCEOのツイート
「X は、オーディオ、ビデオ、メッセージ、支払い/銀行業務を中心とした無制限のインタラクティビティの未来を示しており、アイデア、商品、サービス、オポチュニティの世界的な市場を創造します。 AI を活用した X は、私たちが想像し始めた方法で全員を結びつけます」
出所:ツイッター
これに先立つこと今月12日、マスク氏は自身のツイッターにおいて「Announcing formation of @xAI to understand reality(現実を理解するためxAIの設立を発表する)」とツイートし、AI(人工知能)に特化した新たな企業「xAI」を設立したとことも発表した。xAIの公式ツイッターアカウントも既に公開されており、24日時点でのフォロワー数は66万を超えている。xAIの公式アカウントには「What are the most fundamental unanswered questions?(最も根源的で解決されていない課題は何か?)」とツイートされている。
マスク氏は今年3月、オープンAIが開発するGPT-4などのAIに対して、「社会と人類への深刻なリスク」があると非難し、大規模AIの開発を即時停止するよう求める書簡を公開した。一方、この公開書簡に署名した直後、マスク氏は約1万個ものGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)を購入し独自のジェネレーティブAIの開発を進めていることも報じられた。
米調査会社のMarket.USのレポートによると、世界のAI市場は2032年に2兆7450億ドルまで拡大すると試算されている。年平均成長率は約36%だ。半導体の計算能力の向上とともにAIの進歩が期待される。●拡大が続く世界のAI市場
出所:各種データより筆者作成
7月13日のTechCrunchの記事「Elon Musk wants to build AI to 'understand the true nature of the universe'(イーロン・マスク、「宇宙の本質を理解する」ためのAIを作りたい)」によると、2015年に非営利団体として発足したオープンAIは、マスク氏らから10億ドルの寄付を受けた。しかし、オープンAI の焦点がオープンソース研究から商業プロジェクトに移るにつれ、マスク氏は自分が役員を務めていたオープンAIに対し幻滅し、2018年にはオープンAIの役員を辞任するに至った。
マスク氏は今年2月、オープンAIがオープンソースの非営利団体として設立されたのは「グーグルに対抗するためだったが、今ではマイクロソフトに事実上支配されたクローズドソースの、利益を最大限に追求する企業と化している。私の意図したところとは全く違う」とツイートしている。さて、xAIでどのような理想を追求していくのか、最も根源的でありながら解決されていない課題への取り組みも期待したい。
米国の金利環境の急激な変化はテスラにも大きな打撃となった
そのイーロン・マスク氏率いる米電気自動車(EV)大手のテスラ(TSLA)が19日に2023年4-6月期決算を発表した。売上高が前年同期比47%増の249億ドル、純利益は20%増の27億ドルだった。昨年秋からの値下げ効果で米国や中国での販売が増え、世界販売台数は83%増え、2四半期ぶりの増収増益を確保した。
●テスラの売上高と純利益の推移出所:決算資料より筆者作成
しかし、今四半期の営業利益率は9.6%と前年同期に比べ5ポイント低下している。ピークだった2022年1-3月期(19.2%)と比べると半分に落ち込んでいる。日本経済新聞の7月21日の記事「テスラ、中国市場に不安 競争過熱、攻めるBYD」によると、決算説明会においてイーロン・マスクCEOは、「高金利と多くのマクロ経済の不確実性にもかかわらず、約10%の営業利益率を達成できた」と話し、利益率が許容範囲であるとの認識を示した。年180万台とする23年販売目標は据え置き、今後も販売拡大を目指していく姿勢を崩さなかったとのことだ。
●テスラの営業利益率の推移
出所:決算資料より筆者作成●テスラ(日足)
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●テスラ(週足)
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
決算説明のアーニングスコールにおいて、第2四半期の受注は生産水準に対してどのように推移したのか、また、四半期累計ではどのように推移しているのか、さらに需要拡大のために値下げやその他の販売促進策を講じるタイミングをどのように判断しているのかとの質問に対し、マスク氏は以下のように回答した。
需要が生産にほぼ追いついているため、われわれはリアルタイムでの需要とリアルタイムの生産を目指している。私が受け取る電子メールには全世界の工場からの生産と注文が記載されている。ですから、基本的にはリアルタイムで地球の動きを把握しているようなものだ。そして、私たちは世間のムードに応じて生産計画を調整する。
新車購入は、大多数の人にとって大きな決断だ。そのため、景気に不透明感があると、一般的に新車購入は一時中断し、少なくとも様子を見ることになる。そして、もうひとつの課題は金利環境だ。金利が上昇すれば、借金で買ったものの値ごろ感は低下し、事実上、車の価格は上昇する。
金利が急激に上昇すると、金利の支払いで車の価格が上昇するため、実際には車の価格を下げなければならない。そして少なくとも最近まで、歴史上最も急激な金利上昇だったと思う。だから、われわれはそれを何とかしなければならなかった。誰か世界経済の水晶玉を持っている人がいたら、その水晶玉を貸してほしい。7月19日のロイターのコラム「EV市場拡大へ、テスラが背負う新たな重荷」は、世の中を変えるというイーロン・マスク氏の戦略は揺らいでいないが、画期的なクルマでEV市場を生み出した大手テスラは今、市場を広げるため容赦ない値下げの断行に迫られている。しかし、市場拡大に向けたこうした取り組みはテスラの事業に一定の悪影響を及ぼすと指摘している。
マスク氏はアーニングスコールの中で、長期的には結果を出す自信があるとしているが、マクロ的なショックや株式市場における落ち込みなど、短期的な市場環境のブレはコントロールすることは出来ないと述べている。米国における金利環境の急激な変化はテスラの事業戦略にも大きな影を落としたようだ。メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●NYダウCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●S&P500CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●ナスダック100CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●ドル/円(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ゴールドCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。