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「マーケットの最前線」

2023年3月27日

第340回「インフレ、スタグフレーション、景気後退、潜在的な債務危機によりゴールドが上昇中」石原順

石原順 石原順



  • 政府による無謀な紙幣印刷のツケを払うのは一般庶民

    クレディ・スイスとUBSグループの緊急合併により、サウジアラビア最大の銀行サウジ・ナショナル・バンク(SNB)が大打撃を受けた。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は昨年、原油高ブームの最中、SNBに対してクレディ・スイスに15億ドル(約1970億円)投資するよう指示したが、今回、その投資がほぼ全損になったと言う。

    3月22日のウォール・ストリートジャーナルの記事「サウジ最大銀行、クレディ・スイス投資で大打撃」によると、今回発生した巨額損失は、湾岸諸国が2007~8年の世界金融危機で、欧米の金融機関とヘッジファンドへの投資で大きな痛手を負った記憶をよみがえらせる都指摘している。独立系シンクタンクの米外交問題評議会(CFR)が2009年にまとめた報告書によると、湾岸協力会議(GCC)加盟国の投資ポートフォリオに含まれる外国資産の価値は2008年に1000億ドル減少した。

    サウジだけではなく、カタールの政府系ファンドも大きな損失を被っており、欧米における銀行破綻の余波がペルシャ湾岸諸国に損失をもたらしている。



    ●米商業銀行の借り入れ資金
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    出所:セントルイス連銀



    銀行システムは信頼によって成り立っている。そのため、一度信頼が損なわれると、銀行のバランスシートは崩れ、預金者はシステム全体に大きな穴があることに気づき始める。米商業銀行による資金の借り入れが再び大幅に拡大している。金融機関の問題はこれからが本番だ。

    今回の問題が、米国のいくつかの小さな銀行とクレディ・スイスだけに止まるのだろうか。預金者が次の銀行からまた次の銀行へと追い寄せるため、これで危機が終わったと思うのは間違いだろう。クレディ・スイスの破綻は、スイスの金融システムを揺るがしただけではなく、世界的に深刻な影響を与える可能性がある。火種はまだ燻っている。

    預金者は米国のFDIC(連邦預金保険公社)や他の国の同様の機関が彼らの預金を救ってくれると信じているかもしれないが、これらの組織はいずれも大規模な資本不足に陥っており、最終的に介入するのは各国の政府になる。政府にもお金はない。あるのは莫大な借金だけである。政府は必要ならば通貨を印刷することはできるが、この紙幣印刷の最終的な負担を背負うことになるは一般市民だ。



    ●膨れあがる世界の負債
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    出所:ゼロヘッジ



    1971年のニクソンショックの時代、世界の債務は4兆ドルだった。その後、ゴールドの裏付けが必要なくなり、無制限にお金を刷ることができるようになった。こうして、2000年までに負債は25倍の1億ドルになり、金融危機が始まった2006年には、世界の債務は120兆ドルに達していた。2021年には、1971年の75倍の300兆ドルにまで膨れ上がっている。2025年から2030年にかけて、世界の債務が3兆ドルになることが想定される。


    これは明らかにハイパーインフレを引き起こし、その後、恐慌的な崩壊をもたらすだろう。センセーショナルに聞こえるかもしれないが、われわれが目にしているのは歴史上最大の信用バブルの終わりかもしれない。残念なことに、腐敗し破綻した金融システムは浄化の時期を迎える必要があり、世界はそれを経験することになろう。腐敗し、負債がはびこる現在のシステムが崩壊するまでは、健全な成長と健全な価値観は生まれない。その移行は、悲しいかな、ほとんどの人にとって多くの苦しみを伴う劇的なものになるだろう。



    2023年はゴールドの年となるのか?

    中国がゴールドの保有量を粛々と増やしている。2月23日の日本経済新聞の記事「中国、金保有3カ月連続増 世界的インフレでドル離れか」によると、中国人民銀行(中央銀行)が2月7日に発表した2023年1月末の外貨準備の内訳によると、金の保有量は約2025トンと22年12月末から0.7%増と、3カ月連続で増加した。

    また、中国税関総署によると、22年の金の輸入額は766億ドル(約10兆円)だった。前年から6割増え、確認できる17年以降で最高を更新した。一方、米財務省によると、中国が保有する米国債は2022年11月末時点で8700億ドルと1年間で2割減少した。世界的なインフレリスクから準備資産を入れ替えているとの見方がある一方、米中対立を背景に中国がドル離れを加速させているとみることも出来ると指摘している。

    直近でゴールドは1990ドル台まで上昇している。10年に及ぶ地球規模の破壊に備える2023年はゴールドの年になるのだろうか。




    ●ゴールドCFD(週足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ゴールド価格は、2014年以降6年にわたり上値抵抗線の1350ドルを抜けることはなかったが、2019年に水準を切り上げ、2020年8月には2000ドルまで一気に上昇した。現在、2000ドル辺りが抵抗線となっているが、このラインを上回るのもそれほど遠いことではなさそうだ。



    ●2000年以降のゴールドの推移
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    出所:ゼロヘッジ



    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)



    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。



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