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2023年3月13日

第338回「シリコンバレー銀行が経営破綻!FRBは預金保護でなんでもありの救済へ」石原順

石原順 石原順

  • 米シリコンバレー銀行のインサイダー3人は何を知っていたのか?


    シリコンバレーのスタートアップに大きな影響力を持つ米シリコンバレー銀行(SVB)が10日、経営破綻した。FRB(米連邦準備理事会)による急ピッチな利上げのひずみがシリコンバレーの銀行の経営悪化という形で吹き出してきた。

    破綻に至るまでの展開は早かった。SVBは8日、保有する債券が含み損を抱えていることや取引をしている新興企業の資金繰り悪化に備え、資本増強策を発表。信用不安を背景にSVBの株価が急落。さらに、ピーター・ティールなどシリコンバレーの著名投資家が自身の投資先企業に対し、SVBから資金を引き出しておくよう警告を発し、9日夜から顧客が一斉に預金を引き出し、10日には身売りを模索する動きが報じられたが、結局、FDIC(米連邦預金保険公社)の管理下となった。

    米銀の破綻としては、2008年9月の世界金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアルに続く2番目の規模となる。各種報道によると、2022年末時点でのSVBの総資産は約2090億ドル、預金規模は全米で16位だった。1983年に設立されたSVBは40年以上の歴史を持ち、設立当初からテクノロジーのスタートアップ向け金融サービスに特化し独自のスタンスを築いてきた。

    3月11日の日経新聞の記事「米シリコンバレー銀行が経営破綻 リーマン危機後で最大」によると、2022年3月末の預金残高は1980億ドルと3年間で3.8倍に膨張した。その急拡大した預金でSVBは満期までの期間が長い米国債やMBS(住宅ローン担保証券)を中心に運用していたが、FRBによる急ピッチの利上げで金利が上昇する一方、債券価格が下落したため、含み損が膨らんでいた。

    今後はFDICが破綻管財人となり、預金保護を発動する。ただし、FDICが保護する預金額の上限は1口座あたり25万ドルだ。13日には預金者が口座にアクセスできるようにもし、支店も営業するとしているが、預金保護の対象となるのは全預金の3-7%程度で、9割以上が保険限度額を超える預金であるため、取引先への影響が懸念される。

    3月12日のブルームバーグの記事「Roku Among Most-Exposed Firms With Assets Caught in SVB Failure(SVBの破綻に巻き込まれた企業で最も大きなエクスポージャーを持っているのはロク)」に、いくつかのハイテク企業がどの程度SVBに資金を持っているのかがまとめられていた。

    例えば、映画やテレビのストリーミングに使われるセットトップボックスのメーカーであるロク(ROKU)がSECへ提出した資料によると、現金および現金同等物の約4分の1に当たる4億8700万ドルをSVBに預けていた。一方、約14億ドルについては「複数の大手金融機関に分散している」とのことである。

    ロブロックス(RBLX)は、2月末時点の現金・有価証券残高30億ドルのうち、およそ5%(1億5000万ドル)がSVBに預けられていると公表、その上で、最終的な結果やタイミングにかかわらず、この状況は当社の日常業務に影響を与えることはないとしている。また、ネットワーク機器メーカーのジュニパーネットワークス(JNPR)は、SVBに「営業口座を保有している」ものの、現金、現金同等物、投資の総額の1%未満に過ぎないとしている。

    これらはほんの一部であり、その他のスタートアップの状況についても今後つまびらかになっていくだろう。最も懸念すべきは、明日必要な現金が引き出せなくなった場合にどうなるのかと言うことであろう。こうした企業の多くは、来週の給与を支払うことができなくなるかもしれない。ハイテク企業のレイオフが話題であるが、さらに多くの退職者が街に溢れ出す可能性もある。

    1口座あたり25万ドルでは、すぐに資金ショートが起きるだろう。FDICが管財手続きを終えて資金を放出する前に、何千ものスタートアップが死んでしまうかもしれない。GAFAMのようなビッグテックに及ぼす影響はほとんどないだろう。もし米国政府が解決策を見つけなければ、明日のGAFAMを目指す小さなスタートアップはすべて消滅してしまう。

    こうした混乱を察知していたのだろうか。ゼロヘッジの記事「What Did These 3 SVB Execs Know?(この3人のSVB幹部は何を知っていたのか?)」は、インサイダー3人がSVBの株式を売却していたことを伝えている。


    約2週間前の2月27日、SVBのCEOであるグレゴリー・ベッカー氏は、360万ドル相当(11%)の株式を売却した。


    ●CEOのGregory W. Becker氏はSVBの株式を売却していた
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    出所:ゼロヘッジ


    CFOのDaniel Beck氏は、保有株の32%(約60万ドル)を売却した。


    ●CFOのDaniel Beck氏のトレード
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    出所:ゼロヘッジ

    ●そして最後に、CMOのMichelle Draperミシェル・ドレイパーが28%分を売却した。
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    出所:ゼロヘッジ

    よりリスクの高いニッチ市場で地位を確立したSVB


    SVBの立ち位置について、JPモルガンのレポートを参考に確認してみよう。このレポートを見ると超緩和的な金融環境から引き締めへと変わる中、こうした環境変化に弱い体制であったことがわかる。

    ●SVBの預金者内訳
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    出所:JPモルガン


    SVBの資金調達(円グラフ)をさらに見ると、企業及びVCからの資金調達に対する依存度が異常に高く、個人預金の割合(赤)はわずか7%となっている。アーリーステージのテクノロジー企業とテクノロジー企業を合わせた割合は49%、さらにライフサイエンス関連の企業を含めるとその割合は6割に達する。

    このようにSVBは、預金全体に占める粘着性の高いリテール預金への依存度が極めて低いという、独自の特徴を有していた。資料によると、SVBは他の銀行とは異なる、よりリスクの高いニッチを開拓し、金利上昇、預金流出、資産売却の際に、大きな資本不足に陥る可能性があることを自らに課していたと指摘している。

    2019年第4四半期から2022年第1四半期にかけて、SVBの預金は5.4兆ドル増加したものの、融資需要の低迷により、貸出は低水準にとどまり、残りは証券ポートフォリオへの投資や現金として保管された。銀行は通常、これらの証券を「売却可能」(AFS)または代わりに「満期保有」(HTM)ポートフォリオに指定することができる。


    ●2019年から2022年にかけてSVBのバランスシートは大きく増加、無保険の預金割合も高い
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    出所:JPモルガン証券


    SVBは、増加する証券ポートフォリオに対してHTMに広く依存した銀行の1つであり、2019年以降、AFSの残高が140億ドルから270億ドルに増加した一方、HTMの残高は14億ドルから990億ドルに増加した。HTM証券の売却は、ポートフォリオのより大きな部分が突然時価評価されることになり、その後、資本調達の必要性をもたらす可能性がある。

    ●未実現損益の推移
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    出所:JPモルガン証券


    歴史的な金利に転換期において、ファストマネーのVC企業やその他の企業口座から預金が殺到したことは、祝福よりもむしろ呪いだったかもしれないとレポートはまとめている。

    アップデイト:FRB、TSY、FDICが銀行システム救済を発表

    財務省は、ニューヨーク州の規制当局がニューヨークの大手銀行であるシグネチャー銀行を閉鎖すると発表し、シグネチャー銀行と現在破産しているシリコンバレー銀行の預金者は月曜日にすべてお金を手に入れることができると付け加えました。

    新たな小規模銀行の破綻(おそらくJPモルガンはさらに大きくなる)の衝撃を受けながら、FRBは声明を発表した。「アメリカの企業と家計を支援するため、連邦準備理事会は日曜日、銀行がすべての預金者のニーズを満たす能力を確保できるよう、適格預金取扱機関に追加資金を提供することを発表しました。

    FRBはまた、流動性の圧力が生じた場合に対処する用意があると述べ、その結果、新たな危機の最初の救済措置であるBank Term Funding Program(BTFP)という略語が発表されました。もう少し詳しく。

    この資金調達は、銀行、貯蓄組合、信用組合、その他の適格な預金取扱機関が、米国債、政府機関債、住宅ローン担保証券、その他の適格な資産を担保として、最長1年の融資を提供する、新しい銀行期間資金調達プログラム(BTFP)の創設によって実現されます。

    出所:(『FRBのパニック: FRB、TSY、FDICが銀行システム救済を発表』 3月13日 ゼロヘッジ)

    この救済措置を受けて、ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、ニコラス・ベロン氏は、「これは救済で、米国制度の設計意図や動機付けとは大きく異なる。銀行サービスを使う全ての人にコストが転嫁されることになる。銀行の預金が保護されるならばなぜ銀行が必要なのだろうか。これは中銀デジタル通貨に関する議論にもつながる可能性がある」と述べた。

    この救済は米国の資本主義が変容し、社会主義経済に向かっていることの証左である。既に市場は世界金融危機(リーマンショック)以降、ルールのない国家管理相場となっている。すべての預金をカバーすることは、モラルハザード(マネーハザード)を拡大させ、結局、そのツケは国民が払うことになる。

    シリコンバレー銀行の破綻は、【政治的意図によるリスク蓄積の問題の大きさ】を浮き彫りにしている。

    SVBが破綻したのは、無謀な経営によるものではなく、ケインズ主義者や金融介入主義者が望んだとおりのことを行ったからだ。

    かなりのリスクがあると思われる資産にリスクを蓄積する銀行はない。銀行がリスクを蓄積する唯一の方法は、リスクがないと認識した場合である。なぜリスクがないと思い込むのか。政府、規制当局、中央銀行、そして専門家がそう言うからだ。次は誰の番だろう?

    多くの人は、金融政策や規制によって生み出された逆インセンティブやバブル以外のすべてを非難し、問題解決のために利下げや量的緩和を要求するだろう。

    それは悪化させるだけだ。バブルの結果を、さらなるバブルで解決することはできない。

    出所:(『シリコンバレー銀行は、規制が推奨するとおりに行動しました』 3月13日 ゼロヘッジ)

    いずれにせよ、FRBの利上げサイクルは終わり、また次の大規模な流動性注入が始まるらしい。なんでもバブルの波に乗り、政府の政策が民間企業の成長を妨げると揶揄していた無謀なVCやハイテク企業、キャシーウッドなどは、今や連邦政府に救済を懇願している。金融危機以来、何一つ学んでいないということだ。

    インフレが問題になっていても、FRBがそれに対してできることは何もない。しかし、彼らは、市場を落ち着かせるために、かなりのショーを行っている。それは、タイタニック号が沈むときのオーケストラの演奏を少しだけ思い出させる。

    個⼈投資家がバブル相場につぎ込んでいいのは失ってもいいお⾦だけである。相場で一番大切なことは、大きな損をしないことだ。大きな損をすると、投資効率が死んでしまうからだ。だから、相場とは何かといわれれば、ストップロスが全てである。

    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。

    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。

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