「マーケットの最前線」
2023年3月 6日第337回「AI(人工知能)ブームは単なる流行で終わるのか!?」石原順
石原順
資本主義が機能しているのであれば、今後、株価は調整する!?
主要各国政府とその中央銀行が積極的な財政及び金融政策を断行した結果、「資本主義」はほぼ壊れた。確かに中央銀行が直接市場に手を入れたことで、市場は本来持っていた価格発見機能を失っている。ただし、リアル・インベストメント・アドバイスの記事「過去最高の利益率を更新することがなければ、資本主義は崩壊している」では、いくつかの理由からまだ資本主義は機能しており、そして機能しているとすれば、今後、企業収益の減少に伴い過去の業績推移を大幅に上回って取引されている株価は修正を余儀なくされると論じている。
●NIPA(国民所得・生産勘定)企業利益の推移
出所 リアル・インベストメント・アドバイス
機能している理由の一つとして挙げられているのが、2020年以降のインフレ率の急上昇と企業の収益性だ。もし、資本主義が完全に崩壊していたとしたら、莫大な財政出動が行われたことに対して、現在のような急激なインフレにはならなかっただろう。また、経済が停止し、「フリーマネー」による無機的な需要の急増によって供給が制限された商品の販売価格が上昇した。需要と供給という経済の基本機能が働いたと言うことは、資本主義が正常に機能していることを証明していると述べている。経済のシャットダウンに伴い、企業の人件費は大幅に削減された。人為的な需要喚起によって価格が上昇したことで、企業の利益は急増した。
株式市場はその企業利益の増大を追い求める結果になった。このことも、資本主義がわずかに機能していることの表れだとしている。資本主義的な市場環境では、投資家は利益が増加した企業に対して高い評価を下す。2020年と2021年、投資家は企業の利益に対して過大な評価をし始めたのである。
今後数年間は、これまでとは明らかに投資を取り巻く環境は異なる。需要を支える人為的な刺激はなく、景気は後退のリスクを伴う低成長環境に戻りつつある。金利が大幅に上昇し、消費に影響を及ぼしている。消費者は貯蓄を激減させ、負債を増加させている。
資本主義は崩壊していないということに同意するのであれば、今後、企業利益は経済成長の鈍化に対応するために平均回帰する可能性がある。とりわけ企業収益が長期的な指数関数的成長トレンドからほぼ記録的に乖離している現状は、強気の投資家にとって大きな問題となるだろう。
しかし、資本主義が壊れてしまったとの意見も確かに理解できる。以下の企業利益と賃金推移のグラフがその論拠となる。
●企業の利益は増えているのに給与は増えていない
(黒線:利益率に対する給与 水色:企業の税引後利益の水準)
出所 リアル・インベストメント・アドバイス経済にかかわる主体として3つの選択肢がある。
1.労働者であること
2.生産手段の提供者となる
3.株式市場を通じて上場企業に投資する
単に労働者であることだけを選択していては適正な富を受け取ることができなくなっている。
現在、S&P指数は過去の業績推移を大きく上回る水準で取引されている。企業収益が減少すれば、現在の収益予想も減少するだろう。株式市場が根本的な収益性から切り離されていることは、投資家にとって将来的に悪い結果をもたらす可能性がある。
AIブームで盛り上がる株式市場
Chat GPTの登場をきっかけに株式市場においてもAI(人工知能)ブームが起きている。株市市場は常に流行に敏感で、かつ飽きっぽい。このため、その流行は瞬く間に過ぎ去る一過性の微熱のようなものであることが多い。しかし、今回のAIに関してはインターネットと同様、長く続く革命的なトレンドとなりうる可能性も指摘されている。(こうした議論が出て時点でピークとなるケースも多いが)AI関連銘柄に関しても数多く取り上げられてはいるが、ここではマーケットウォッチの記事「These 20 AI stocks are expected by analysts to rise up to 85% over the next year(アナリストが今後1年間で最大85%の上昇を見込んでいる20のAI銘柄)」を参考に、AIをテーマにした以下の5つの上場投資信託(ETF)がどのような銘柄を組み込んでいるのかを探りつつ、ロボティクスや人工知能の活用が進むことで恩恵を受けると期待されている銘柄を改めて確認してみたい。
●AIをテーマにした各ETFの組込み銘柄上位10社(2023年3月3日時点)
出所:各種資料より筆者作成各ETFの特徴は次の通りである。
*The Global X Robotics & Artificial Intelligence ETF(BTOZ)
2016年9月に設定されたBTOZは42銘柄を保有し、運用資産額は約16億ドルと5つの中では最も資産運用額の大きなETFである。
*iShares Robotics and Artificial Intelligence Multisector ETF(IRBO)
ロボティクスやAIの関連産業に大きなエクスポージャーを持つ企業119銘柄を保持しており、資産額は約2億7000万ドル、2018年6月からスタートした。
*First Trust Nasdaq Artificial Intelligence & Robotics ETF(ROBT)
111銘柄をポートフォリオに組み入れ、運用資産額は約2億1000万ドル。
*The Robo Global Artificial Intelligence(THNQ)
2020年5月に設定されたTHNQの資産額は2400万ドルで、69銘柄を保有している。
*WisdomTree Artificial Intelligence and Innovation Fund(WTAI)
5つのリストの中で最も新しいのが去年12月に設定されたWTAIで、資産額は180万ドル、76銘柄を保有している。
それぞれのETFが組み込んでいる銘柄のうち、組入比率の高い上位10社をまとめたのが上記の表である。日本株のキーエンス(6861)、オムロン(6645)、SMC(6273)、安川電機(6506)も含まれている。記事では、これらのETFが保有するすべての銘柄を集計し、少なくとも2つのファンドが保有する96銘柄を絞り込んだ。さらに、FactSetの調査を元に5人以上のアナリストがカバーしている88社を絞り込み、そこから、アナリストのコンセンサス目標株価に基づき、今後1年間に最も上昇する可能性があるとされている20銘柄をリストアップしていた。
その中から、日米の株式市場で取引されている銘柄を抽出したのが以下である。
●日米の株式市場で取引されているAI関連銘柄
出所:マーケットウオッチのデータより筆者作成
AIの性能を上げるためには最先端の半導体が必要になるためTSMCも関連として挙げられている。さらにはその最先端の半導体を作るためには、最先端のEUV露光装置が必要になるためASMLもリストアップされている。日本企業ではソニーやデンソー等も取り上げられている。マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
●NYダウCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●S&P500CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ナスダック100CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ドル/円(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ゴールドCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。