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2023年2月20日

第335回「ウォーレン・バフェットの盤石なポートフォリオ」石原順

石原順 石原順

  • 前四半期から大きな変動はなかったバークシャーの10-12月期の株式ポートフォリオ


    米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)は14日、SEC(米証券取引委員会)に2022年12月末時点のフォーム13Fを提出した。以下は前回11月に公開された2022年9月末時点とのポジションを比較したものである。

    ●バークシャーハサウェイの保有する米上場株式
    20230220_①.png

    出所:フォーム13Fより筆者作成



    2022年12月末時点のポートフォリオは、評価額が前回の2960億ドルから2990億ドルへと小幅に上昇、銘柄の入れ替えはなかった。10-12月期にバークシャーは新規のポジション追加を行わず、既存の保有株数をいくつか増減させただけであった。

    今回増やしたポジションは3つ。バフェットのポートフォリオの中核であるアップル(AAPL)については、保有株を33万3856株増やし、12月末時点で8億9513万6000株を保有している。アップルはバークシャーの最大の持ち株で、2022年第4四半期時点で全体の39%を占めている。また、メディア企業のパラマウントグローバル(PARA)の株を240万株増やし936万株に、住宅用建材を扱うルイジアナ・パシフィック(LPX)の株を124万株増やし210万株となった。

    バフェットは「理解できないものには投資しない」として、長きにわたりテクノロジー株への投資を避けてきた。しかし、アップルが消費者から非常に高いロイヤリティを集めるライフスタイルブランドであると見なすようになってから姿勢を転換している。ある時、バフェットはアップルを「100%所有したい」とまで言った。バフェットがアップルをいかに重要な投資対象として見ているかをよく表しているエピソードだろう。

    バフェットは2016年にアップル株を買い始めたが、このアップルからの配当収入が膨らんでいる。オンラインメディアの9TO5Macの記事「Warren Buffett's Berkshire Hathaway buys even more AAPL stock, ditches most of its TSMC(ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイはAAPL株をさらに買い増し、TSMCの大半を捨てる)」によると、バークシャーのアップルからの配当収入額は2022年第4四半期に2億1060万ドルになる計算だという。

    一方、保有を削減したのはシェブロン(CVX)、ゲーム会社のアクティビジョン・ブリザード(ATVI)、金融のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)やUSバンコープ(USB)などだった。

    中でも特に注目すべきは世界最大のファウンドリーTSMC(TSM)のポジション削減である。

    9月末にバークシャーによる保有が明らかになってからわずか3ヶ月で、6006万株保有していた株式を86.2%減らし、829万株と大幅に減少させた。9月30日時点でTSMC株の41億ドル相当を保有し、バークシャーの保有株式トップ10にも入ったばかりだった。

    TSMCはアップルの最も重要なサプライチェーン・パートナーだ。TSMCは、iPhone、Mac、iPadに使われているシリコンチップを製造するファウンドリーである。2月15日のロイターの記事「Berkshire dumps shares in TSMC, banks; increases Apple stake(バークシャーはTSMCと銀行の株を処分し、アップルの株を増やす)」によると、バークシャーはTSMC株を約68.5ドルで購入し、74.5ドルで売却したとのことだ。

    TSMCの最大の功績はファウンドリーと呼ばれるビジネスモデルを確固たるものにしたことである。いち早くファウンドリービジネスを展開したTSMCには長年にわたる生産技術の蓄積がある。半導体製造は多くの工程を必要とするだけではなく、細心の注意が求められる。設計が正しくても、実際の製造の場面においては、設計通りに製造できるとは限らない。半導体製造にはコツが必要だ。このコツの積み上げがTSMCの持つ製造技術であり、他社との違いを際立たせている要因だ。

    しかし、主力となる最先端の半導体工場の立地は台湾に集中しており、台湾が抱える地政学リスクはTSMCにとっても大きなリスクである。米中の緊張やサプライチェーンの多様化によって業界の勢力図が揺れ動いている。

    ロイターの2月16日の記事「TSMC株、バークシャー以外の投資会社も大量に手放す」によると、

    投資会社のタイガー・グローバル・マネジメントやGQGパートナーズ、キャピタル・グループのほか、米資産運用大手ブラックロック、米金融大手JPモルガン&チェースなどが昨年第4・四半期にTSMCの株式を大量に手放していたということだ。



    ●TSMC(日足)
    20230220_②.png


    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    不透明感の高まりに備えた盤石なポートフォリオ

    改めてバークシャーの12月末時点の保有ポジションの上位10社を確認してみよう。最大のポジションはアップルで、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、シェブロン、コカ・コーラ(KO)、アメリカン・エキスプレス(AXP)などである。またシェブロンに次で、エネルギー株のオクシデンタル(OXY)も上位に入っている。

    バークシャーのポートフォリオはアップル、銀行株、そしてエネルギー株が大半を占めており、この3つに集中投資していると言える。バフェットは集中投資だが、ポートフォリオは分散が効いていて、実はバランスが取れている。

    今後、地政学リスクが高まり、インフレが加速した場合、エネルギー株を保有するバフェットにとっては有利であり、一方、ディスインフレになり、金利が低下した場合はハイテク株有利となる。アップルを持っているバフェットにとっては大きなプラスだ。

    要は、アップル株と石油株の両建てで、これから金利が上がろうが下がろうが、何とかなるような運用になっているのである。

    一方、もし相場の急落や大暴落が起きるようなことがあれば、それに対する備えとして現金も豊富に持っている。2022年9月末の現金ポジションは約1090億ドルと、6月末の1054億ドルに対し、若干増加している。


    ●バークシャーが持つ上場株式の保有割合(12月末時点のフォーム13Fより)
    20230220_➂.png

    出所:フォーム13Fより筆者作成


    ●バークシャーの現金ポジションとNYダウの推移 (2022年9月末時点)
    20230220_④.png
    出所:筆者作成



    ●バークシャー・ハサウェイB株(日足)
    20230220_⑤.png

    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    今後、バ―クシャーの収益に貢献すると期待されるのが、買い増しを続けてきたオクシデンタルの業績だ。バークシャーは保有するオクシデンタルについて持分法を採用した。これによりバークシャーは2022年第4四半期から、オクシデンタルの業績を自社の業績の中に含んで公表することになる。

    去年11月のロイターの記事「Berkshire Hathaway could boost earnings after Occidental accounting change(バークシャー・ハサウェイは、オクシデンタルの会計変更後に収益を押し上げる可能性がある)」によると、アナリストは平均してオクシデンタルが今年100億ドル以上の利益を計上すると予想しているとのこと。オクシデンタルによる利益貢献がどの程度なのか、このことが確認できるバークシャーの第4四半期業績にも注目したい。


    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
    20230220_⑥.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●NYダウCFD(日足)
    20230220_⑦.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ユーロ/ドル(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ポンド/ドル(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。



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