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2023年2月 6日

第333回「ハイテク5社の決算比較:AIとクラウドサービスにシフトするマイクロソフト」石原順

石原順 石原順

  • 延滞率の上昇に身構える米金融機関


    米調査会社のトランスユニオンは最新のクレジットレポートで、2022年第4四半期に個人のクレジットカードの負債総額が9306億ドル(前年比18.5%増)に達し、過去最高を記録したと発表した。残高の増加に伴い延滞も増えており、トランスユニオンは要注意な兆候だと指摘している。

    CNBCの2月3日の記事「U.S. credit card debt jumps 18.5% and hits a record $930.6 billion(米国のクレジットカード残高は18.5%増え、過去最高となる9306億ドルに達した)による報道だ。


    インフレと金利上昇が米国の家計にプレッシャーとなりつつあり、消費者はクレジットカードでの買い物を増やしているが、その返済スピードは鈍くなっている。消費者ローン事業の中には、延滞率がコロナ禍前の水準を超えた分野もあると言う。

    ●家計の可処分所得における債務支払いの割合(単位:%)
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    出所:トランスユニオンの資料より筆者作成


    ウォール・ストリート・ジャーナルの1月31日の記事「消費者ローンの延滞増加、身構える米銀」でも具体的な例が取り上げられている。


    金融サービスを手掛ける米アライ・ファイナンシャルでは、自動車ローンの延滞率(延滞日数が60日超のローンの割合)が10-12月期に0.89%となり、前年同期の0.48%から上昇した。また、米クレジットカード大手のディスカバー・ファイナンシャル・サービシズによると、民間学生ローンのうち30日以上延滞しているローンの割合は2%超で、前年から0.5ポイント上昇した。いずれも2019年の水準を上回った。

    ゼロヘッジの記事「We Just Witnessed An Economic Sign That Hasn't Happened Since The Peak Of The Great Depression In 1932(1932年の世界恐慌のピーク以来、かつてない経済的な兆候を目の当たりにした)」では可処分所得の急激な低下を取り上げている。

    この1年余り、物価は人々の所得をはるかに上回るスピードで上昇している。その結果、人々の生活水準は急速に低下している。米国の一般家庭では、毎月の生活を成り立たせることがますます難しくなっており、成人の3分の1以上が、生活費の一部を親に頼っているのが実情だ。

    しかし、それ以上に懸念すべきは、実質可処分所得に起きている。2022年の実質可処分所得の減少額は1兆ドルを超えており、世界大恐慌の影響を最も受けた1932年に次いで、史上2番目の大きさだった。


    ●実質可処分所得が減少している
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    出所:セントルイス連銀

    前述のウォール・ストリート・ジャーナルの記事は、こうした消費者の動向に対し、大規模なクレジットカード事業を手掛ける銀行や地域金融機関が身構えていることを報じている。例えば、米金融サービス大手キャピタル・ワン・ファイナンシャルは昨年10-12月期に前期比33%増となる貸倒引当金、約10億ドルを計上した他、米クレジットカード大手も貸倒引当金を積み増した。

    ハイテク5社の決算比較:未来への投資を続けるマイクロソフト


    米大手ハイテク各社でさえ、金利上昇による需要鈍化への対応を迫られている。アルファベットやメタ等がコスト削減策を急いでいるのは、金利上昇による需要低迷が背景にあるのだろう。2月2日にアップル(AAPL)、アルファベット(GOOGL)、アマゾン(AMZN)の10-12月期決算が発表された。これで、既に発表を行ったマイクロソフト(MSFT)、メタ(META)含めハイテク5社の決算が出揃った。


    アップルの2022年10-12月期決算は、iPhone販売の減少と中国での生産混乱の影響を受け市場予想に届かなかった。アマゾンは需要低迷によって今期の営業利益が減少する恐れがあると表明。また、アルファベットは主力のデジタル広告事業が不振だった。

    ●ハイテク5社の2022年10-12月期決算
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    出所:決算資料より筆者作成



    ●アップル(日足)
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    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●マイクロソフト(日足)
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    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●アルファベット(日足)
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    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●アマゾン(日足)
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    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●メタプラットフォームズ(日足)
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    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    2月3日のロイターの記事「アングル:米大手ハイテク決算、株価の先走りに警鐘」で、アップルのティム・クックCEOがインタビューに答え、中国のロックダウンが生産と需要の双方に悪影響を及ぼしたほか、ドル高も収益を圧迫したと語ったと言う。

    アップルの売上高が前年同期から減少するのは2019年1-3月期以来となる。減収幅は市場予想より拡大、背景にあるのはドル高で、これが全体で8%近い減収要因になったまた、中国のコロナ拡大によって工場の稼働率が大幅に低下し、iPhoneの新機種を十分に出荷できなかったことも影響した。

    各社ともに厳しい決算となったが、減益率が比較的小幅にとどまったのが、マイクロソフト(MSFT)だ。1月24日に発表した2022年10-12月期(2023年度第2四半期)の決算は、売上高が前年同期比2%増の527億ドル、純利益は12%減の164億ドルと増収減益だった。

    部門別では、サーバー製品およびクラウドサービスを扱うインテリジェントクラウド部門の売上高が18%増と好調で業績をけん引した一方、WindowsやXbox等を扱うパーソナルコンピューティング部門は伸び悩み、19%減の142億ドルだった。   



    ●マイクロソフトの売上高と純利益の推移
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    出所:決算資料より筆者作成



    マイクロソフトは先日、米国のAI研究開発を行う「OpenAI」に1兆円規模の投資を行うと発表した。オープンAIは「GPT-3」などの大規模言語モデルを手がけるAI(人工知能)の研究開発を行う非営利団体で、ピーター・ティールやイーロン・マスク氏等の出資を受け起業家のサム・アルトマン氏らが2015年に設立した。

    マイクロソフトは2019年の段階で既に10億ドルを出資、また2021年にも資金を提供しており、今回は再追加投資となる。この投資を通じて最も人気が高い最先端のAIシステムの一部にアクセスできるようにするのが狙いだ。一方のOpenAIもマイクロソフトとの提携を強化すると発表。手掛けるモデル全てのトレーニングにおいてマイクロソフトのクラウド、アジュールを利用するとしている。

    マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは今後10年で最も重要な技術としてAIを挙げている。

    ZDNET Japanの1月26日の記事「マイクロソフトのナデラCEO、「技術スタックの全階層にAIを搭載」と語る」によると、決算発表後に行われたカンファレンスコールで、OpenAIに対する出資についてナデラCEOは、コンピューティングの次なる波を構成するものだと語り、AI機能への投資を続けると述べたという。

    「次なる大きなプラットフォームの波は、これまでにも述べたようにAIであり、その波をつかむことができただけで、多大な企業価値が創出されるとも、われわれは強く確信している。その波は、われわれの技術スタックのすべての部分に影響を与えるとともに、新しいソリューションと新しい機会を創出する」



    ●マイクロソフトの手元キャッシュ
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    出所:決算資料より筆者作成



    マイクロソフトはこれまでにも多数の事業買収を重ね、事業を拡大してきた。OpenAIへの巨額の追加投資は、マイクロソフトが従来のOSやオフィスアプリがメインだった収益構造を、AIおよびクラウドサービス中心のものへとシフトさせていくという姿勢を表したものなのだろう。



    ●マイクロソフト(月足)
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    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ユーロ/ドル(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ポンド/ドル(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。




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