「マーケットの最前線」
2023年1月30日第332回「世界の債務は約500兆ドル!?景気後退と実質金利の上昇の組み合わせは非常に危険」石原順
石原 順
商品価格は株式に対して9倍まで上昇する余地がある?
「2022年に世界的なシステミックイベントが発生しなかったのは非常に幸運で、その点は評価できるが、金利は依然として上昇し、リスクは高まり続けている。景気後退と実質金利の上昇の組み合わせは非常に危険だ」国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストでハーバード大学のケネス・ロゴフ教授はこのように述べ、経済に対する警告を発した。
テレグラフ紙のインタビューに対しロゴフ氏が答えた内容が、英国のデイリーエクスプレス1月18日の記事「Global financial crash warning as world's major central banks risk economic 'earthquake' (世界の主要な中央銀行が経済的な「地震」のリスクを伴う世界的な金融クラッシュの警告)」の中で取り上げられていた。
ロゴフ教授によると米国政府が今年後半に債務不履行に陥る可能性もあり、このことは他の主要経済国、ひいては世界に混乱をもたらす可能性があるとしている。世界の債務はかつてないレベルにまで膨張している。
●世界の負債の内訳
(青:シャドーバンキング、水色:銀行、赤:中央銀行、ピンク:公的な金融機関)出所:ゼロヘッジ
ゼロヘッジの記事「Von Greyerz: As West, Debt, & Stocks Implode; East, Gold, & Oil Explode(フォン・グレイヤーズ:西洋、債務、株式が崩壊し、東洋、金、石油が爆発するとき)」によると、世界の債務は約500兆ドルに及んでいるという。
そのうちシャドーバンキングシステムの債務が46%を占めている。年金基金やヘッジファンドなどを含むシャドーバンキングシステムは通常の時価評価ルールの適用を受けない。したがって、実際のポジションや損失がどのようなものかは不明だ。さらに世界のデリバティブの総額がどの程度あるのかも把握できていない。つまり中央銀行がシステムの真のリスクを評価することは不可能である。
日本の債券は今や自国以外にほぼ買い手がいない状態で、すでに日銀が国債の50%以上を保有している。歴史を振り返れば、あらゆる帝国の最終段階は常に、過剰な赤字と負債、インフレ、通貨の崩壊、戦争だ。そして、米国はこれらすべてのカテゴリーにおいてその資格を満たしつつある。放漫な財政政策をしてきた国が頼るべき延命薬は通貨のインフレで、2番目は戦争である。どちらも一時的な繁栄をもたらすが、永久的な破滅をもたらす。
●日本10年国債金利(日足)
マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●米国10年国債金利(日足)
マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター米国の覇権が終焉を迎えつつあるなか、西側の支配は東側と南側にしつつある。商品を経済的な基盤とする国々が、今後数十年、あるいはもっと長い間、支配的な地位を占めることになるかもしれない。石油とガスがこのベースとなるが、ゴールドも同様であろう。
次のグラフは株式に対するS&P商品指数を示したものである。2000年の安値から2011年にかけて商品価格は株式に対して7.5倍まで上昇した。直近では2021年、商品は株式に対して50年ぶりの低水準まで落ち込んだ。平均値が4倍であることを考慮すれば、商品価格にはまだ上昇する余地がある。
●株式に対するS&P商品指数
出所:ゼロヘッジ
長期的サイクルを見れば、歴史的な安値から上昇に転じるときは、より高くより長いトレンドになる傾向がある。従って、1990年につけた9倍まで上昇する可能性もないとは言い切れない。この指数の動きは、不健全で負債にまみれたシステムを基盤とする西洋から、商品を経済の基盤とする東洋と南半球への覇権の移行を裏付けるものだと指摘している。世界3大デバイスメーカーが3000億ドル以上の設備投資計画を発表している
米半導体大手インテル(INTC)が26日に発表した2022年10-12月期(第4四半期)の決算は純損益が6億6400万ドルの赤字と、市場予想の2億7800万ドルの赤字から4億ドル近く赤字幅が拡大した。●インテル(日足)
マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
売上高で見れば、インテルは米国の半導体メーカーとして最大手の地位を維持しているものの、半導体市場の低迷や在庫調整、競争激化が響き、売上高も低下傾向が続いている。第4四半期の売上高は前年同期比32%減の140億ドルにとどまった(アナリスト予想は144億9000万ドル)。
同時に発表した2023年1-3月期(第1四半期)の売上高見通しは105億-115億ドル程度になりそうだとしている。これは市場予想の139億ドルを下回る水準だ。インテルは2023年のパソコン出荷台数が同社の予想レンジ(2億7000万~2億9500万台)の下限になるとの見方を示した。
半導体に関連するセクターがいずれも低迷しているかと言えば決してそうではない。インテルが決算発表をした前日(25日)、半導体製造装置を手がけるオランダASML(ASML)は、先端半導体製造装置に対する強い需要を背景に1-3月期の売上高見通しが61億-65億ユーロ(約8700億-9200億円)と、市場予想の60億7000万ユーロを上回る見通しだと発表した。
●ASML(日足)
マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
なお、同時に発表した2022年10-12月(第4四半期)の売上高は64億ユーロと、アナリストの予想平均とほぼ一致、純利益は18億ユーロと、アナリストの予想平均(16億8000万ユーロ)を上回った。粗利益率は51.5%だった。
しかし、ASMLを取り巻く事業環境に一点の曇りもないかといえばそうではない。米国による対中輸出規制の影響だ。ブルームバーグによると、半導体製造装置の主要サプライヤーを抱える日本とオランダは、バイデン米政権が主導する対中半導体輸出規制に近く加わる見通しだと言う。
ただし、ASMLは強気の姿勢を崩していない。ロイターの記事「蘭ASML、今年の対中輸出は規制下でも前年水準維持へ=CEO」によると、決算発表後行われた会見において、ASMLのピーター・ウェニンクCEOは、今年の中国本土への輸出は昨年の水準を維持する可能性が高いと述べた。最先端の半導体の製造に使われるEUV(極端紫外線)露光装置はASMLがほぼ市場を独占しており、この最先端のEUV露光装置については2019年以降、中国の顧客への販売を制限されている。しかし、最先端以外の装置についての中国輸出は続いている。
昨年(2022年)の対中国売上高は約21億6000万ユーロと、一昨年(2021年:21億7000万ユーロ)からわずかな減少にとどまった。ウェニンクCEOは、今年の中国向け売上高もほぼ同水準になると語り、400億ユーロある受注残のうち中国企業からの受注が約15%を占めていることも明らかにした。
●世界3大デバイスメーカーが3000億ドル以上の設備投資計画を発表している
出所:ASML決算資料
デバイスメーカーが設備投資を行う際、まずASMLの露光装置へどの程度支出するかが決められ、その後、他の製造装置への予算の割り振りが行われると言う。決算発表資料の中でASMLは、投資家へのキーメッセージの一つとして、2025年の年間売上高は約300億-400億ユーロ、売上総利益率は約5456%、2030年の年間売上高は約440億-600億ユーロとなる見込みだと明らかにした。
世界中で半導体工場への設備投資が行われる中、パソコン需要の低迷と設備投資が先行し業績へのプレッシャーがかかっているインテルとその設備投資の追い風を受けるASMLの立ち位置の違いが際立つ決算内容だったと言えるだろう。マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●NYダウCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●S&P500CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ナスダック100CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ドル/円(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター●ユーロ/ドル(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ポンド/ドル(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ゴールドCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。