「マーケットの最前線」
2023年1月16日第330回「次のQEはQE4よりはるかに大規模になるだろうという債券王ガンドラックの相場見通し」石原順
石原順
2023年はエキサイティング、債券のダウンサイドは株式より小さい
ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラックが最新のウェブキャストで2023年のマーケット見通しを披露した。今回のタイトルは「What's Going On(「何が起きているのか?」)。マーヴィン・ゲイの1971年の曲から取られたタイトルだ。
ガンドラックは以前より、FRBは後一回、2月に25bpsの利上げを行うだろうが、その後は利上げを停止せざるを得なくなると述べている。景気後退が迫っており、約75%の確率で景気後退に陥るとの予測だ。また債券市場については「インフレがピークに達し、後退していくことを完全に織り込み済みだ」とも指摘している。では、ウェブキャストでどのような見通しが示されたのか。一部を紹介していこう。●急上昇する米国の利払い
出所:ダブルライン・キャピタル
ガンドラックはFRBが次に行うQEがどのようなものになるかについては、「QE4よりはるかに大規模になるだろう」との見通しを示している。そして、もしQEが行われるなら、「環境が十分に悲惨な場合であろう、例えば景気後退だ」と述べている。彼の推計によれば、米国の財政赤字はさらに10兆ドル増え、金利が4%と仮定すれば、返済額は年間1兆2500億ドルになる。景気先行指標は「確かに」不況の様相を呈している。ISM購買担当者調査も、米国が「不況の前兆」に向かっていることを示唆している。また、イールドカーブの反転も不況が近いと強い警告を出していることを忘れてはいけないとガンドラックは言う。
●イールドカーブと景気後退(1978年1月1日から2023年1月6日)
出所:ダブルライン・キャピタル金利の急ピッチな上昇を背景に、株式が売られたとしても、債券市場は株式市場よりはるかに割安だと彼は述べている。「債券のダウンサイドは株式より小さい」と。その結果、伝統的な60/40(株式/債券)のポートフォリオに代わって、「債券60%、株式40%」の配分を推奨した。あるいは、60対25対15のポートフォリオで、15%を「その他」の投資とするのがより良いだろうと述べている。
2023年は「とてもエキサイティング」だとガンドラックは指摘。何故ならば1年前は債券も株式も「絶望的」だった。そしてその先は「ホラーショー」が起きるのでは考えていた。しかし、今は債券でリスクを平準化したりヘッジしたりする方法があるからだと語った。
TSMCの熊本進出はアップルの要請だった!?
ファウンドリ世界最大手のTSMCは12日、熊本に建設している新工場に続き、日本で2番目となる半導体工場の建設を検討していると明らかにした。オンラインで開催した2022年12月期決算の業績説明会において魏哲家CEOが述べたものだ。
また、欧州に自動車部門向けに特化した工場を設置する可能性についても顧客やサプライチェーンのパートナー共に検討していることも表明した。「建設を検討中だが、まだ決定はしていない」と述べ、工場の立地場所については言及しなかったが、ドイツが有力視されていると言う。
●TSMCの売上高、営業利益、営業利益率の推移
出所:決算資料より筆者作成●TSMC(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●TSMC(週足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
半導体市場全体の業況は悪化しているもののTSMCの業績は好調だ。2022年10-12月期の決算で、売上高は前年同期比42.8%増の6255億台湾ドル、純利益は78%増の2959億台湾ドルと、四半期として過去最高を更新した。ただし、米ドルに対しての台湾ドル安がプラス寄与しているため、米ドルベースでは第3四半期に比べると減収だった。
半導体市況は、自動車向け等一部を除いて在庫調整期に入っている。ただし米アップルの新型スマートフォン「iPhone14」向けや高性能パソコン、サーバー向けの先端半導体の出荷は好調でTSMCの業績を支えた。業界全体が低迷し、より安価な半導体が打撃を受ける中、先進半導体の好調を背景にTSMCがどこまで好業績を維持できるかが今後の焦点となる。
●TSMCの2023年第1四半期のガイダンス
出所:TSMC2023年第1四半期の売上高は167億-175億ドルを見込んでおり、4年ぶりの減収となりそうだ。会社側の資料によると、為替の前提は1ドル=30.7台湾ドル、売上総利益率53.5-55.5%、営業利益率41.5-43.5%と予想している。
●TSMCの設備投資の推移
出所:決算資料より筆者作成
2023年の設備投資は320-360億ドルとし、2022年の363億ドルからの減額する見通しだ。魏は2023年には「業界全体はやや低迷するが、当社は小幅ながら成長するだろう」と述べている。日本に2つ目の工場建設を検討という話題が示すように、TSMCは今後もハイペースでの設備投資を継続する見通しだ。
TECH +の記事「TSMCの熊本進出決定はAppleの要請によるもの、台湾メディア報道」は、昨年12月17日に台湾で開催された「The New Challenges in the Semiconductor Industryフォーラム」においてTSMCの魏CEOが講演した内容を取り上げている。
魏は、日本に工場を建設する理由について、「日本は低コストで製造できる場所ではない」と認めつつも、ファブ建設を決定したのは顧客ニーズを優先することが常にファウンドリの中核的な考慮事項であり、主に最大顧客からの要請があったためだとしている。「当社の重要なサポートしなければならない顧客が日本におり、またその顧客は、当社の重要な顧客のサプライヤでもある」と魏は述べたという。具体的な企業名は出さなかったが、重要な顧客は米アップルで、アップルをサポートしなければならない日本にいる顧客とはソニーを指しているものと見られている。日本における2つ目の工場が建設される場所も熊本ということにとなるのだろうか。
マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●NYダウCFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●S&P500CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ナスダック100CFD(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ドル/円(日足)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。