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2023年1月10日

第329回「フルタイム労働者は-10万人、パートタイム労働者は+679万人という米雇用統計の内幕」石原順

石原順 石原順

  • ハイテク企業の雇用削減は、経済への警告なのか?


    米アマゾン・ドット・コム(AMZN)は4日、事業計画の見直しに伴い、全従業員数の1%強にあたる1万8000人超のレイオフを実施すると発表した。昨年11月にアマゾンが人員削減を実施すると伝えられた時点では約1万人を削減すると報じられていたが、景気減速懸念が強まるなか追加の削減を迫られた。

    ●アマゾン(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    米大手ハイテク企業の人員削減が相次いでいる。メタ(FB)は昨年11月に世界で1万1000人超を、セールスフォース(CRM)は全従業員の1割ほどを削減する計画を明らかにしている。アップル(AAPL)は研究開発を除く部門における新規採用を凍結している。このほかにも、ハードウェア大手のシスコ・システムズ(CSCO)、決済会社のストライプ(未上場)など複数のハイテク企業がレイオフを明らかにした。

    ●メタプラットフォームズ(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
    20220110_②.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●アップル(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
    20220110_③.png


    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●セールスフォース(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
    20220110_④.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●シスコ・システムズ(日足)(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
    20220110_⑤.png

    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    世界的に高止まりしているインフレ率が個人消費の重荷となり、景気は今後、減速するとの見方が広がっている。さらにはFRBが異例のペースで金利を引き上げているため、企業は借入コストの上昇という課題にも直面している。企業を取り巻く好環境が後退しつつある中、ハイテク業界における相次ぐ人員削減は他の業種や経済に対する警告なのだろうか。

    コロナウィルスのパンデミックを通じ、ショッピングだけではなく人々の活動の多くがオンラインに移行した。パンデミックという特異な風が吹いていることに加え、企業業績にとっては有利に働く低金利がハイテク企業の業績を押し上げた。他の業種が大打撃を受ける一方、ハイテク企業は活況に見舞われた。

    現在、欧米を中心にパンデミックはすでに克服されつつある。また米国はかつてないピッチで急速に金利を引き上げている。ハイテク株をピークに押し上げた「低金利」と「パンデミック」という2つの要因ははげ落ち、ハイテク企業各社はバリュエーション修正に見舞われている。したがって、ハイテク企業における人員削減は必要かつ予想された調整であると言えるだろう。

    今月1日、米国のCBSニュースの番組に出演したIMF(国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ専務理事は、2023年には世界の3分の1がリセッションに陥る可能性が高いと警告した。ゲオルギエヴァ氏は、米国、EU、中国の経済が失速するのに伴い、2023年は昨年より「厳しくなる」として、「景気後退ではない国でも、何億人もの人が、まるで景気後退のようだと感じることになる」とも述べた。

    「今から数カ月間は中国にとって厳しいものになる。中国の経済成長への影響はマイナスになり、地域への影響も、世界的な成長への影響もマイナスになる」と語り、とりわけ2023年初頭、世界第2の経済大国である中国にとって厳しい時期になるだろうとの予測を述べた。


    ●情報通信セクターの雇用者数の推移
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    出所:セントルイス連銀


    しかし、米国労働省が6日に発表した最新の雇用統計では、情報通信セクター(ハイテクを含む)の雇用者数は11月から12月にかけてわずか5000人しか減少していない。ここ数カ月で何千人もの雇用削減が発表されているにもかかわらずだ。前年同月(291万3000人)と比べると雇用は増加している。

    ただし、雇用の数値は遅行指数であることを考慮すると今後、大きな落ち込みが出てくることも想定される。労働市場は盤石とは言い難く、不安定かつ不透明な状態にある。しかし、一番の問題は雇用の統計数字が実態を表しているとは言い難いことにあろう。次に労働市場のマクロ統計に隠されたからくりを見ていこう。

    マクロ統計に現れない雇用の実態


    米労働省が6日に発表した昨年12月の雇用統計では、非農業部門の就業者数は前月から22万3000人増え、市場予想の20万人増を上回った。失業率は3.5%と予想に反して低下した。これはFOMCメンバーが労働市場の均衡する水準として参考にしている4%を下回っている。

    前述の通り、雇用情勢の悪化を示す個別企業のニュースは増えている。ところが、マクロ統計から見た労働市場は底堅く推移しており、ちぐはぐな状況となっている。ゼロヘッジの記事「Inside The "Strong" Jobs Report: Full-Time Workers -1K; Part-Time Workers +679K(「好調」な雇用統計の内幕:フルタイム労働者は-1000人、パートタイム労働者は+67万9000人)を参考にそのカラクリを探ってみよう。

    今回の雇用統計では、賃金上昇の鈍化が確認された。12月の賃金上昇率は前月比で0.3%増と市場予想の0.4%増を下回った。また、前年同月比では4.6%と2021年8月以来の低い伸びにとどまった。賃金は徐々に現実を反映し始めているようだ。しかし雇用者数は増えている。これは何を意味しているのか。

    ●平均賃金の変化率(前年同期比)
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    出所:セントルイス連銀

    以下は雇用形態別の雇用者数の変化をまとめたものである。内訳を見ると、12月のフルタイムの雇用者数は前月より1000人減少した一方、パートタイム労働者数は2611万5000人から2679万4000人へと67万9000人増加した。

    3月から12月を累計するとフルタイム雇用数は過去10ヶ月で28万8000人減少した一方、パートタイム雇用者の数は88万6000人増加した。つまり、雇用者の数は増加しているものの、賃金の低いパートタイム雇用者の数が大幅に増えたのである。


    ●雇用形態別の雇用者数の月別変化(3月から12月)
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    出所:ゼロヘッジ


    ●労働状況の変化(3月から12月)
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    出所:ゼロヘッジ


    そしてさらに、この10ヶ月の間に複数の職を持つ人が68万4000人も増えた。つまり、インフレが高騰する中で生活を維持するために複数の仕事をすることを迫られている人々が増えている可能性がある。賃金の低下は明らかに雇用の質が落ちていることを示している。12月の雇用増はすべてパートタイム労働者の増加によるものであった。これが現在の米国の労働市場を表す実情なのである。

    マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。



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