「マーケットの最前線」
2022年12月 5日第325回「すべての市場の下落は米連銀のバランスシートの増減と一致している!?」石原順
石原順
静かに着実に進んでいるQT(量的引き締め)
FRBの11月末時点のバランスシートが公開された。それによると、FRBが保有するバランスシートの総資産は4月にピークをつけて以降、3810億ドル減少し、8兆585億ドルと、2021年11月3日以来の低水準となった。1ヶ月前と比較すると、総資産は920億ドル減少した。
●連銀のバランスシートの推移
出所:FRBWOLFSTREETの記事「Fed's Balance Sheet Drops by $381 Billion from Peak: December Update on QT(FRBのバランスシートはピーク時から3810億ドル減少:QTについての12月のアップデート)」を参考に確認してみよう。
FRBが保有する米国債は、月半ばと月末に満期を迎え、その時点でFRBのバランスシートからロールオフされる。6月上旬のピーク以降、米国債の保有残高は2550億ドル減少し、5兆516億ドルとなり、2021年10月27日以来の低水準となった。11月3日のバランスシート以降、過去4週間で、FRBの保有する財務省証券は590億ドル減少した。
●連銀が保有する米国債残高
出所:WOLFSTREET
●過去の危機における連銀の総資産の推移
出所:WOLFSTREET
●米国株市場は連銀の総資産と連動している
出所:リアルインベストメントアドバイス量的引き締め(QT)が確実に進んでいる。その影響は直接的には目には見えないものの、静かにしかも着実に経済に広がっていく。量的緩和(QE)は資産価格の大幅なインフレ引き起こした。QT は QE とは逆の作用をもたらす。債券や株価が 1 年前より大幅に下落し、暗号が崩壊し、住宅価格が下落し始めるなど、すでにその影響が現れている。
●連銀の総資産の増減とビットコイン相場は連動している
出所:ゼロヘッジモルガン・スタンレーのストラテジー・チームは、「QTは、緩やかな金利正常化が始まると予想される2023年12月の前後で終了する可能性がある。QTは2つの理由で突然終了する可能性もある」と予測している。
① 景気後退によりFRBが100bp以上の利下げを検討せざるを得なくなる場合
② 2020年3月や最近のギルト(英国債)市場に見られるような市場の機能不全。
いずれにせよ、QT(量的引き締め)の解除はまだまだ先だ。
直近の2つの弱気相場を参考にすると、インフレが一段落し、金利の休止期を経て、FRBがいよいよ利下げに入ると、株式市場はさらに18~22カ月間下落を続けることになる。米国株式市場の<長期の買い場>の答えはもう出ているのかもしれない。それはおそらく「QE5」となるだろう。
アナリストが米国企業の業績予想を大幅に引き下げ
2022年12月に入り、今年も残すところあと1ヶ月となった。米国の株式市場は先行きの景気後退懸念をにらみつつ不安定な動きが続いている。株価は最終的にファンダメンタルズに収れんする。企業が将来生み出す価値がどうなるのか、それを見極める必要がある。
●S&P500CFD(日足)
ファクトセットがまとめたデータによると、アナリストはS&P500種構成企業の第4四半期のEPS予想を通常より大幅に引き下げていることがわかった。第4四半期のボトムアップEPS予想(インデックスに含まれる全企業の第4四半期のEPS予想の中央値を集計したもの)は、9月30日から11月30日までに57.79ドルから54.58ドルと5.6%引き下げられた。
●S&P500種構成企業の第4四半期のEPS予想出所:ファクトセット
過去5年間(20四半期)のボトムアップのEPS予想の平均下落率は2.1%、過去10年間(40四半期)のボトムアップ予想EPSの四半期前半2ヶ月間の平均下落率は2.7%、過去15年間(60四半期)のボトムアップ予想EPSの四半期前半2ヶ月間の平均下落率は3.5%、過去20年間(80四半期)のボトムアップ予想EPSの四半期前半2ヶ月間の平均下落率は2.9%だった。
つまり、今回の第4四半期に記録されたボトムアップEPS予想の下落率(5.6%)は、5年平均、10年平均、15年平均、20年平均よりも大きい。
セクター別では11セクター中9セクターで2022年第4四半期のボトムアップ予想EPSが減少した。減少率が大きかったのは、素材(-21.3%)、一般消費財(-12.2%)、通信サービス(-11.4%)セクター。一方、同期間にボトムアップ予想EPSが上昇したのは、「エネルギー」(6.2%)と公益事業(2.5%)の2セクターのみだった。
●セクター別2022年第4四半期のボトムアップ予想EPSの変化率
出所:ファクトセットアナリストは第4四半期のEPS予想を大幅に減少させるとともに、2023年度のEPS予想も引き下げている。2023年度のボトムアップ予想EPSは3.6%低下した(241.22ドルから232.52ドル)。 セクター別では、通信サービス(-9.4%)、素材(-8.1%)、一般消費財(-6.8%)を筆頭に9セクターの2023年ボトムアップ予想EPSが引き下げられた。一方、2023年のボトムアップ予想EPSが引き上げられたのは、エネルギー(4.4%)を含む2セクターだった。
●セクター別2023年度のボトムアップ予想EPSの変化率
出所:ファクトセット米企業の利益の悪化はまだこれからかもしれない。米株式市場は企業利益の伸びが高い期待に届かないとしばらく苦戦するだろう。
日経平均とナスダック100の売買シグナル(赤=買い・黄=売り)
●日経平均CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
●日経平均CFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
●ナスダック100CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
●ナスダック100CFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。