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「マーケットの最前線」

2022年11月 7日

第321回「バフェットのバークシャーの決算と戦争段階にあるレイ・ダリオのビッグサイクル」石原順

石原順 石原順

  • オクシデンタルの収益が計上されるのは第4四半期から


    ウォーレン・バフェット率いる米バークシャー・ハザウェイが5日、第3四半期(2022年7-9月)の決算を発表した。FRBによる異例のペースでの利上げが継続する中、市場が混乱したのに伴い、保有している上場株の評価損益が悪化、最終損益は26億8800万ドルの赤字に転落した。(前年同期は103億4400万ドルの黒字)

    最終損益には保有する上場株の評価損益を反映する必要がある。上場株を多く保有するバークシャーの最終損益はブレが大きくなる。このため、バフェットはしばし、最終損益には意味がないと語っている。前の期の4-6月には437億ドルを超える最終赤字を計上した。

    なお、事業の収益力を映す営業利益は前年同期比20%増の77億6100万ドルだった。保有する株式のパフォーマンスばかりが注目される傾向にあるが、バークシャーは傘下に鉄道、保険、公益事業など持つコングロマリットである。こうした事業から得られる利益が増えており2割の増益となった。今回はとりわけ、金属の精密加工事業が航空宇宙分野の需要増により好調だったと言う。


    ●バークシャーが持つ上場株式の保有割合(6月末時点のフォーム13Fより)
    20221107_①.png


    出所:筆者作成


    バークシャーが9月末で保有する株式の時価評価は3061億ドルと、6月末時点に比べて214億ドル減少した。上のグラフはバークシャーが保有する上場株式の割合を6月末時点のフォーム13Fをもとに示したものである。アップル、バンカメ、コカ・コーラ、シェブロン等を含む上位10銘柄でほぼ9割を占めている。

    自社株買いについては継続しており、7-9月期には10億5000万ドルの自社株買いを行った。9ヵ月間の累計は52億5000万ドルとなった。一方、9月末の現金ポジションは約1090億ドルと、6月末の1054億ドルに対し、若干増加した。


    ●バークシャーの現金ポジショントNYダウの推移
    20221107_➁.png


    出所:筆者作成

    ●バークシャーハサウェイB株(日足)
    20221107_③.png

    出所:筆者作成

    今後、バ―クシャーの収益に貢献すると期待されるのが、買い増しを続けてきたオクシデンタル・ペトロリウム(OXY)の業績だ。バークシャーが保有するオクシデンタル株は20.9%、約140億ドル以上の価値がある。そのオクシデンタルの株式について、バークシャーは持分法を採用した。これによりバークシャーは第4四半期から、オクシデンタルの業績を1四半期遅れで自社の業績の中に含んで発表することになる。


    ●オクシデンタル・ペトロリウム(日足)
    20221107_④.png

    出所:筆者作成


    ロイターの記事「Berkshire Hathaway could boost earnings after Occidental accounting change(バークシャーハサウェイは、オクシデンタルの会計変更後に収益を押し上げる可能性がある)」によると、アナリストは平均してオクシデンタルが今年100億ドル以上の利益を計上すると予想している。


    オクシデンタルによる利益貢献がどの程度なのか?これが確認できる第4四半期からの業績にも注目したい。

    世界は既に戦争段階に突入している!?


    世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターアソシエイツの創設者であるレイ・ダリオ氏が2日、自身のリンクトインに「The Changing World Order Is Approaching Stage 6 (The War Stage)

    変化する世界秩序は第6ステージ(戦争段階)に突入」と題するコラムを掲載した。

    ダリオ氏は約2年半前から、「ビッグサイクル」、つまり、世界は大きな循環の中で動いており、金融・経済危機、一種の内戦に近い大きな内乱、国際戦争につながる大きな外乱に至るというサイクルを示していた。今回、想定以上にサイクルが急速に進行しており、既にダリオ氏が示したサイクルの中のステージ6(内戦・戦争段階)に移行する確率が不快なほど高くなっていると述べている。一部を抜粋してご紹介する。

    ビッグサイクル

    歴史的に見ると、国内および世界の秩序を変えるような内戦や国際戦争は、段階を踏んで起きることがわかっている。その段階は、歴史の中で論理的な理由によって起こってきた大きなサイクルの中で起こる。私は、典型的なビッグサイクルがどのように機能し、現在どの段階にあり、次に何が起こるかを検討することが、今特に重要だと考えている。それは、私たちが内戦や国際戦争の瀬戸際にいることを示す証拠があるからだ。また、こうしたサイクルがどう起こるかを理解しなければ、十分な備えも予防もできずにただニュースで出来事を傍観することになる。

    私が「われわれは内戦や国際戦の瀬戸際にいる」と言うとき、必ず戦争に突入するとか、突入するとしてもすぐに戦争が起きると言っているのではない。私が言っているのは、国内および国際紛争のさまざまな側が戦争の準備をしているということであり、もし事象が通常通りに進行するならば約5年以内に、両方ではないにしても少なくともどちらかの戦争に突入する可能性が危険なほど高い。(最もリスクが高いのは2025-26年)その確率は1/3程度である。

    私たちが今置かれているサイクルの部分は、私たちが生きている間に起こったことはないものの、過去に何度も起こっており、最近では1930年から45年にかけて起こった。だから今こそ、循環的な因果関係によって、ビッグサイクルを構成する事象がどのように進行しているのか、そして、進行する現実に対して、個人として、集団として、何をすべきなのかを考える時だと思う。

    良い点は、恐ろしい現実が数年前よりずっと広く認識されるようになったことだ。悪い点は、a) 予想以上に早く状況が悪化していること、b) 原因と結果の関係やそれがどう進むのかということがよく分かっていないこと、c) その進行を止めるのに対してあまりに世の中が何もしていないという現実、である。

    ビッグサイクルの仕組みと今起きていること

    おさらいすると、ビッグサイクルは3つの大きなサイクルから構成されていることが最も重要である。


    1)長期債務-貨幣-経済サイクル、
    2)内部的な(国内政治の)秩序-無秩序サイクル、
    3)対外的な秩序-無秩序サイクル


    これらは、金融安定性、国内安定性(国内)、国際安定性(国際間)のレベルを決定する。これらの水準は、互いに補強しあいながら、改善と悪化のサイクルを繰り返し、「大きな循環」を形成している。例えば、富や権力、価値観をめぐる内外の大きな対立と同時に金融問題が発生すれば、それはパーフェクトストームとなる。これらの3つのサイクルとそれらの合流は、通常、人々を驚かせる。なぜなら、この3つのサイクルは通常、人間の一生より長いサイクルなので、人は通常、一生に一度だけ、その一部を経験する、もしくは全く経験しないからである。

    この3つのサイクルの中で、今、我々がどこにいるかというと:

    1) 長期的な債務-通貨-経済のサイクル


    ほとんどの国、特に主要な基軸通貨国は、この長期サイクルの収縮・再構築の段階に差し掛かっている。収縮/再編段階は、1930~45年期(およびそれ以前の多くの時期、拙著で紹介)に似たような形で、すなわち当時と金額と債務の水準が同レベルで、成長が持続不可能になったときに発生する。より具体的には、資産と債務の両方が非常に高い水準まで上昇し、債権者が保有するインセンティブとなる金利が、債務者が債務支払義務を果たすには耐えられないほど高くなったときに発生する。このような場合、これらの資産は、保有するのに十分な高いリターンが得られないか、デフォルトのリスクが大きくなるため、売られることになる。そうなると、中央銀行は、資産価格や景気を押し下げる金利の上昇を容認するか、貨幣の価値を下落させる大量の貨幣を印刷して債務資産を買い取るか、どちらかをしなければならないという難しい立場に立たされることになる。

    現在、ほとんどの国でこのような動きが見られ、中央銀行がどのように対処しているかは様々である。例えば、この現象が最も顕著に現れたのは、英国の借入問題であり、それほど顕著でなかったのは、日本の貨幣増刷と円の下落である。この2つのケースでー実際にはすべての国のケースでー金融資産の保有者は、価格の低下と貨幣価値の低下が混在することによって、資産価値が大きく下落することになった。中央銀行が金利引き上げと流動性引き締めに積極的に動いているケースでは、金融資産価格が低下し、経済の中で金利に敏感な部分に打撃を与え始めている。一方、中央銀行が大量の紙幣を印刷しているケースでは、通貨価値がより急速に低下していることが分かる。

    2)長期的な内部秩序-無秩序のサイクル


    程度の差こそあれ、ほとんどの国、特にほとんどの西側民主主義国、そして特に米国は、現在、このサイクルの危険な内部対立のポイントに近づいている。これは主として、1930-45年以降で最大の貧富の差、価値観の差、政治的な差が生じているためである。米国では、誰がどのようなお金をどこから得るか、学校で子どもたちにどのように教えるべきか、警察は犯罪に強く対処すべきか、それとも甘く対処すべきか、誰が選挙に正当に勝利するか、(ますます暴力的になっているこの国で)銃所持をどうするか、中絶をどうするか、薬物、財政赤字、などあらゆることについて人々が争っている。そして、われわれの指導者たちは、これらのことを知的かつ大多数の米国人が満足するような方法で解決する見込みはないようだ。

    それが今、右派と左派のポピュリズムの増大と、これらポピュリスト間の対立の激化という形で現れているのだ。ポピュリストとは、何が何でも勝つために戦う人々であり、長年民主主義が機能してきた方法で統治するためにルールに従って相手側と妥協しようと働く人々ではない。メディアは、歪んだセンセーショナリズムの方が刺激的で、よく売れ、自分たちの側のために戦う手段となるので、客観的な報道による真実の追求を放棄し、火に油を注いでいる。このため、優秀な指導者、とりわけ最も役に立ちそうな人たちが手を引くようになった。例えば、党派を超えて多くの人々にとって何が最善かを知的に判断する傾向がある最も賢明な上院議員、下院議員、知事は辞任し、その地位を過激派に取って代わられている。別の言い方をすれば、米国は明らかにサイクルの第5段階後半(無秩序と激しい対立があるとき)にある。

    3)長期的な秩序-無秩序の外部サイクル


    世界の主要国は明らかにステージ5の後半にあり(すなわち、ライバル国間の激しい対立を抱えている)、ステージ6(軍事戦争)の瀬戸際にある。これは古典的には1930-45年とそれ以前の多くの時代に類似しており、富と力の差をめぐって強力なライバル国と戦っていることに起因している。また、これらの国が物事を解決しようとするよりも、戦うことに傾倒するポピュリスト/ナショナリストの手に委ねられていることも要因である。これは、1)ロシアとウクライナやNATO諸国との対立、2)米国と中国との対立、3)北朝鮮の近隣諸国への脅威、4)イランとイスラエルやサウジアラビアとの対立に顕著に現れている。また、あまり知られていないが、ギリシャと対立するトルコ、パキスタンや中国と対立するインド、UAEやサウジアラビアと対立するイエメン、イスラエルと対立するパレスチナなど、多くの国が紛争を抱えている。また、ほとんどの国で、国内紛争が大幅に増加するか、国内の反対勢力が強く抑圧されている。

    このような紛争では、現在、どちらの側であれ、だんだん明確に(社会は)分断されつつある。このようなサイクルの常として、紛争が激化すると、すべての当事者はどちらかの側に立って戦わなければならないという大きな圧力がかかる。なぜなら、これらの国々は互いにひどく傷つけ合うことができる方法がたくさんあるからだ。例えば、現在、いくつかの国が核兵器やその他の大量破壊兵器を保有しているので、世界大戦のような連鎖的な戦争が起こる可能性は、まだありえないと思うが、完全には否定できない。

    大国は古典的な軍事戦争(ステージ6)の瀬戸際にあるが、まだその瀬戸際を越えてはいない。拙著で詳しく説明したように、ステージ6への移行は、互いの国土と国民への攻撃と、人命の大きな損失によって示され、どちらかが他方に降伏しなければ解決できない全面戦争に移行する。ウクライナではロシア人がウクライナ人を攻撃し殺し、ウクライナ人がロシア人を殺しているが、米国とNATO諸国は互いの土地でロシア人と軍事的に戦っておらず、互いの国民を殺しておらず、戦争は今のところ通常兵器に限定されている。米国と中国の間では、サーベルを振りかざし、戦争の準備は行われているが、軍事的な衝突は起きていない。

    ●アメリカ帝国のビッグサイクル

    変化する世界秩序は第6ステージ(戦争段階)に突入する!?

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    出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)

    日経平均とナスダック100の売買シグナル(赤=買い・黄=売り)

    ●日経平均CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
    20221107_⑥.png

    ●日経平均CFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
    20221107_⑦.png

    ●ナスダック100CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
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    ●ナスダック100CFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
    20221107_⑨.png

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wpcomstaging.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。



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