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2024年3月11日
石原順
高レバレッジ経済は息切れ、われわれは金融危機の始まりを見ている!?
米シリコンバレーバンクの破綻から1年が経過し、水面化でくすぶっていた銀行危機の火種が再燃しつつある。米国は紙幣を大増刷することによって、なんとか対面を保ってはいるものの、高レバレッジ経済は息切れをし始めているようだ。 特に大都市における商業用不動産は大打撃を受けている。中でもニューヨークはそのホットスポットになりつつある。コロナ禍を経て、ホワイトカラーを中心としたプロフェッショナルな管理職クラスの大部分は、突如、自宅で仕事をすることを余儀なくされた。毎日の通勤習慣が以前のように戻ることはないだろう。ハイブリッド・ワークでは、以前のような複数フロアの賃貸契約は必要ない。その結果、多くの企業がオフィス面積を縮小している。
地銀持ち株会社ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)の株価が先週、一時5割近く急落した。今年に入り、貸倒引当金が予想以上に膨らみ、配当を削減していた。さらに直近では、CEO(最高経営責任者)を交代させた他、大手金融機関数社が10億ドルを拠出して救済策を講じ、事態の収拾を図った。
●ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
注目すべきはスティーブン・ムニューシン元財務長官率いるリバティ・ストラテジック・キャピタルがこの増資を主導したことだろう。また、新たなCEOにはOCC(通貨監督庁)の元長官が就任した。連鎖を防ぐための総力戦を展開している。これは裏を返せば事態が非常に深刻であることを意味している。
FRB(米連邦準備制度理事会)と米財務省はこの事態を収拾することができるだろうか?可能性は低いと見る。金融危機はいずれやってくるだろう。現在はその先送りをしているに過ぎない。いくら救済策を講じようが根本的な問題を解決することはできない。特にボストン、ニューヨーク、シカゴといった大都市における商業用不動産の問題は深刻だ。
2月28日のブルームバーグの報道によると、あるカナダの年金基金がマンハッタンのオフィスタワーの株式をわずか1ドルで売却したという。
【カナダの年金基金は世界有数の不動産投資家として知られ、その動きは世界中の年金基金にも影響を与えてきた。しかし同国最大の年金基金は今、不動産分野で最も苦境に立たされているオフィスビルに対するエクスポージャー削減を進めている。
カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)は3件の不動産持ち分を割安な価格で手放した。バンクーバーのタワー2棟、南カリフォルニアのビジネスパーク、マンハッタンの再開発プロジェクトだ。このうちマンハッタン物件はわずか1ドル(約150円)という驚くべき価格での売却となっている。懸念されるのは、商業不動産市場の混乱から脱出したい他の大口投資家がこうした取引に追随しかねないことだ】
(『オフィス不動産を1ドルで売却、年金基金が映し出す投資家の不安』 2月28日 ブルームバーグ)
FRBのパウエル議長は、7日に開催された議会証言において、「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が強まるのを待っている」と発言、「その確信を得た時点で、今から遠くないその時点で、景気抑制の度合いを巻き戻し始めるのが適切になるだろう」と述べ、利下げを始めるのに必要な確信に近づいているとの見方を示唆した。
依然としてインフレ率が高水準にあるにも関わらず、なぜFRBは利下げを口にするのか。おそらく、FRBは市場に対していつでも輪転機を回す用意があることを示しておきたいのだろう。FRBは金融システムの崩壊を防ごうと必死だ。しかし、その努力は早かれ遅かれ徒労に終わる可能性が高い。一つの疑問はどのような経路で展開するかだろう。今、その始まりを見ているに過ぎない。
1936年以降、銀行が破綻しなかった年は5年間のみ
2023年、米国において5つの銀行が破綻した。1989年には500以上の銀行が破綻した。歴史を振り返ると、1936年以降、銀行が破綻しなかった年は5年しかないという。2024年にもいくつかの銀行が破綻する可能性がある。
WOLFSTREETのブログ記事「The Banks: "Unrealized Losses" in Q4, Securities Held by Banks, Bank Failures, and the Dropping Bank Count(銀行:第4四半期の「含み損」、銀行が保有する証券、銀行の破綻、銀行数の減少)」から一部を抜粋してご紹介したい。
●銀行が保有する有価証券の未実現損益
出所:WOLFSTREET
FDICが7日に公表した四半期銀行データによると、2023年第4四半期の「未実現有価証券評価損益」は前期から2,060億ドル(30%)減少し、累積損失は4,780億ドルとなったことがわかった。銀行が保有する有価証券の大半は米国債券と政府保証のMBSである。
未実現損失は2つに分類されている:
HTM(グラフでは赤で表示):2兆5,000億ドルの満期保有(HTM)証券の未実現評価損は、前四半期から1,160億ドル減少し、累積損失は2,740億ドルとなった
AFS(グラフでは青で表示):売却可能有価証券(AFS)2兆9,300億ドルの含み損は、前期から900億ドル減少し、2,040億ドルとなった
前期に比べて損失が減少しているから安心かといえば、決してそうではない。FDICのデータを振り返ると、1936年以降、銀行が破綻しなかった年は5年しかないと言う。ちなみに、コロナ禍において流動性を大量に供給し続けたフリーマネーの年、2021年と2022年には、銀行の破綻はゼロだった。その他は2006年、2005年、2018年だった。
残りの88年間は、それぞれいくつかの銀行が破綻した。例えば、1989年、S&L危機のピークと石油不況を経て531の銀行が破綻した。2010年の金融危機では155の銀行が破綻した。しかも1989年当時と比べて銀行の規模がはるかに大きくなっていたことは打撃となった。
●銀行の破綻件数の推移
米国における地銀ショックは終わっていない。現在進行形である。米国の商業用不動産市場の動向には注意が必要だ。さらに調整が進めば、米銀の経営の足元は大きく揺らぎかねない。延命治療を続けている米国経済にとっては強い逆風になるだろう。
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●NYダウCFD(日足)
●S&P500CFD(日足)
●ナスダック100CFD(日足)
●ドル/円(日足)
●ゴールドCFD(日足)
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。