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2023年11月 6日

第372回「アップルは生成AIへの取り組みをどのように収益化できるのか!?」石原順

石原順 石原順



  • 4四半期連続の減収、アップルの売上低迷にも大きく影響した為替相場

    米国のメガハイテク5社の中では最後となる米アップル(AAPL)が2日、2023年7-9月期決算を発表した。売上高は前年同期比1%減の894億9800万ドル、純利益は11%増の229億5600万ドルだった。

    各種報道は、パソコン市場の低迷や中国での需要鈍化が響き、4四半期連続での減収となったと一方、利益率の高いアプリや音楽配信などを手がけるサービス部門は好調で、2四半期連続の増益となったと伝えている。



    ●アップルの売上高と純利益の推移
    20231106‗①.png

    出所:決算資料より筆者作成



    ●アップル(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
    20231106‗➁.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●アップル(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
    20231106‗➂.png
    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    今回の決算発表において特に注目されたポイントは2点。一つは主力マーケットの一つである中国での販売動向。もう一つはサービス部門の売上の堅調さである。

    11月3日のブルームバーグの記事「アップル、4四半期連続の減収-ホリデー商戦含む今期も停滞か」は、今回の決算について、アップルにとっての中国市場が懸念されていた以上に減速していることを示唆する。中国政府は一部の職場で米国のテクノロジーの使用を禁止しているほか、華為技術(ファーウェイ)の新型スマホが新たな競合製品となっている。中華圏の売上高は151億ドルと、前年同期から小幅に減少したほか、一部のアナリスト予想の170億ドルを大きく下回ったと指摘している。

    しかし、実際には価格が高い機種を前面に押し出す戦略が奏功し、7-9月期の中国におけるiPhoneの売上高は四半期ベースで過去最高となった。決算説明のアーニングス・コールの中で、中国での需要環境についての質問を受けたクックCEOは次のように述べている。

    「7-9月期には中国におけるiPhoneの販売台数記録を更新した。長期的に見れば、中国は非常に重要な市場であり、私は非常に楽観視している。中国における当四半期の業績は、売上高ベースでマイナス2だった。しかし、ここでひとつ留意していただきたいのは、為替の影響が6ポイント近くあったということだ。つまり、為替変動の影響を除いたベースでは成長したことになる。」と述べた。

    地域別売上高の前年同期比を見ると、中国以上に日本での販売が落ち込んでいることがわかる。市場規模は中国には及ばないまでも日本もアップルの主要な販売市場の一つである。



    ●アップルの地域別売上高の前年同期比
    20231106‗④.png

    出所:決算資料より筆者作成

    日本円は最近では「リラ円」と揶揄されるほど価値が毀損している通貨である。つまり、ドル高、特に円安が進んだ日本の売上げが大きく減少している。

    次に2つ目のポイントとなるのがサービス部門の動向だ。3ヶ月前と同様、今期も明るい兆しが見られている。アプリ販売や音楽配信などのサービス部門の売上高は前年同期比16%増の223億1,400万ドルと過去最高を記録し、予想の214億ドルを上回った。売上高全体に占める割合は前年同期から4ポイント上昇し、約25%に達した。



    ●アップルのサービス部門の売上高の推移
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    出所:ゼロヘッジ



    なお、年末商戦と重なる10-12月期の売上高については、前年同期並みにとどまる見通しを示した。ルカ・マエストリCFO(最高財務責任者)は、アーニングス・コールにおいて、「iPhone」の売上高は増加するが、全体の売上高は前年同期並みになるとの予想を示した。ドル高が続くことが想定される中、慎重な見通しを示した。

    ティム・クック氏の決算に関するコメント


    その他、2日に開催されたアーニングス・コールの中からティム・クックCEOの発言のいくつかをご紹介しよう。まず、決算全般に関するコメントは以下の通りである。

    9月期も引き続き、為替の逆風を含む不安定なマクロ経済環境に直面しているが、私たちはこれまでと同じやり方で、こうした難局を乗り切った。私たちは将来への投資と長期的な経営を続けてきている。支出については思慮深く慎重を期しながら、自分たちの力ではどうすることもできない状況にも絶えず適応してきた。

    そして、画期的なイノベーションの道を切り開き、すべての段階において卓越したものを提供してきた。その中にはApple Vision Proも含まれている。Apple Vision Proは、現在素晴らしいアプリを制作しているデベロッパーから素晴らしい反響を得ている。来年早々には、この魔法のような製品をお客様の手に届けることができるのを楽しみにしている。また、今週初め、M3、M3 Pro、M3 Maxという素晴らしいM3チップファミリーを搭載した次世代アップル半導体を発表することができた。

    私たちは驚異的なスピードで革新を続けている。業界をリードするパーソナルコンピュータのラインナップも、さらに充実した。新しいMacBook Proのラインナップは、私たちのProユーザーに最先端のテクノロジーをお届けする一方で、世界で最も売れているすべての機能が一つに詰まっているiMacは、より速く、より高性能になりました。Student Monitorの最新データによれば、大学生の3人に2人がMacを選んでいます。私たちは、未来に関して、これ以上ないほどの期待を寄せています。

    生成AIへの取り組みをどのように収益化できるかとの質問に対しては次のように述べている。

    AIや機械学習に関して何を行ってきたか、そしてそれをどのように使ってきたかを見てみると、われわれはAIや機械学習を基本的なテクノロジーとして捉えており、出荷するほぼすべての製品に不可欠なものであると考える。

    つい最近、iOS 17をローンチした際にも、Personal VoiceやLive Voicemailといった機能が搭載された。これらの機能の中心にはAIがある。さらに、落下検知、衝突検知、腕時計の心電図など、携帯電話のローンチエンドに搭載された人命救助機能に至るまで、AIなしには実現できない。これらはAIなしでは不可能である。

    消費者にとってどのようなメリットがあるのかを元にすると、その背後にある基本的な技術はAIと機械学習だ。生成AIに関しては、明らかにまだ開発中途中である。ご存知の通り、私たちはそのような技術を発表していない。しかし、われわれは生成AIに投資しており、しかもかなりの額を投資しており、必ず製品化を行うつもりだ。これらの技術を核とした製品を必ず市場投入するだろう。

    半導体を自社開発することはアップルにとって経済的に有益だったのか、また戦略的なものなのか。消費者体験のために製品に不可欠なものなのかという質問に対しては以下の通り答えている。

    自分たちでやらなければ作れなかったような製品を作ることができるようになった。そして、ご存知のように、私たちは出荷する製品の主要技術を自社で所有したい。間違いなく、シリコン(半導体)は主要技術の中心にある。元に戻ることはない。私は昔より今の方がそのような変革を行ったことに満足しているし、毎日、その恩恵を感じている。

    サプライチェーンに関してどこを優先しているのか。世界に張り巡らされたアップルのサプライチェーンについてどう思うか。特に、米国へのさらなる投資についてはどう考えているのかという質問がなされた。

    われわれのサプライチェーンは真にグローバルであり、米国を含む世界中に投資している。私たちは米国の先端製造業に非常に力を入れており、コーニングとのガラスやFace IDモジュール、半導体に関するベンチャーなど、米国でさまざまなプロジェクトに取り組んできた。これらはすべて先進的な製造業であり、まさに米国が得意とする分野だと思う。そして、これらすべてが先進的な製造業であり、まさに米国が得意とする分野だと考える。

    私たちは世界の他の地域にも投資し、サプライチェーンの最適化を続けている。そして、何かうまくいかないことがわかった時点で、それを微調整している。これからもそうしていくつもりだ。しかし、最終的にはグローバル・サプライチェーンであることに変わりはない。



    ●アップルが保有する現金及び現金同等物の残高
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    出所:決算資料より筆者作成



    ティム・クック氏は、「生成AI 計画にかなりの額を投資している」と投資家に期待を持たせているが、具体的に何をやっているのかの詳細はわからない。

    アップルが保有する現金は2023年9月末時点で1621億ドルだった。前の四半期(6月末)時点の1665億ドルからわずかに減少した。保有する現金が低下傾向にあることは懸念材料の一つではあるものの、日本円にして20兆円以上の現金をどのように使っていくのか、クック氏がアーニングス・コールで言ったように将来への投資を意識した経営を期待したい。



    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)




    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。