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2026年6月22日
ファンドマネージャー 石原 順
半導体生産の国内回帰が追い風、米政府によるインテルへの投資リターンは6倍に
米半導体大手インテル(INTC)は、直近の株式市場において最も力強い復活劇を遂げた1社であろう。かつて世界の半導体業界の覇者でありながら、近年、ライバルたちに遅れをとり、競合他社の株式評価額が国家レベルの水準に達する中、インテルの株価は2025年中頃には20ドル前後まで落ち込み、経営危機や財務基盤の悪化、相次ぐリーダーシップの交代など、投資家から敬遠される厳しい状況にあった。
ところが、1年足らずで株価が数倍に膨らみ、時価総額は6700億ドルを突破、かつての停滞からは想像もつかなかった高値水準で取引されている。年初に40ドル近辺だった株価はわずか数ヶ月で急騰し、直近(6月18日)では最高値となる133.99ドルを記録、上昇率は240%を超えた。
●インテル(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●インテル(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
株価の上昇を勢いづけたのは、米ドナルド・トランプ大統領によるSNS(Truth Social)への投稿だ。18日、トランプ大統領は「米IT大手のアップル(AAPL)がインテルと協力し、米国内で半導体の設計および製造を進めることで合意した」という旨の投稿を行った。インテルがもはや単なる一民間企業ではなく、米国の「国家プロジェクト」であることを象徴する内容だ。
半導体生産の国内回帰(オンショアリング)を最重要政策のひとつに掲げるトランプ政権にとって、インテルは米国内に自前の工場施設(ファウンドリー)を持つ貴重な存在だ。トランプ政権は昨年8月、経済安全保障と国内製造業の復活を目的に、旧バイデン政権下で定められたCHIPS法などの枠組みを活用してインテル株の約10%を取得し、筆頭株主となった。
●トランプ大統領の投稿出所:Truth Social
「世界が頼りにしている技術は、アメリカで発明されたものだ。「Intel Inside」を覚えているだろう。愚かな大統領たちは、台湾などに半導体工場を奪われてしまった。彼らは、関税で産業を守ることを忘れていたのだ。私が2期目(実際には3期目!)の当選を果たしたとき、アメリカの半導体産業を米国に呼び戻す必要があることは明らかだった。我々はあらゆるものを設計しているが、今こそ、ここで製造しなければならない!そこで私は、チップの設計と製造をここアメリカで行う必要があるため、インテルを支援することを決めた。まず、NVIDIAの誘致を支援し、同社はインテルと共同で第一世代のチップを製造することに合意した。次に、イーロンは、インテルの技術チームと共同で設計した世界最大のチップ工場「TerraFab」を建設することに同意した。そして最後に、アップルもインテルと協力して、アメリカでチップを設計・製造することに合意した。我々は、インテルの株式の10%を対価として、同社を支援することを決めた。我々がオファーを出した時点で、同社の時価総額は約1000億ドルだった。現在、その価値は6000億ドルを超えている。わずか9ヶ月で、その価値は5000億ドル以上も上昇した。米国が保有する持分の価値は、現在600億ドルを超えている」
このとき米国政府が投じた資金は約89億ドル、1株あたりの購入株価は20.47ドルだった。インテルの株価が130ドルを超えたことで、米国政府が保有するインテル株の価値は570億ドル以上へと膨れ上がっている。大統領自身が巨大企業のサプライチェーン提携を仲介し、それをSNSで誇示するスタイルの是非については議論の余地はあるものの、政府による投資は元本の6倍以上に達する驚異的なリターンとなっている。
アップルとの提携がファウンドリー事業におけるTSMC一強状態を崩す契機になるのか!?
半導体市場における劇的な変化により、潮目は変わった。それを如実に表している企業がもうひとつある。日本のキオクシアホールディングス(285A)だ。キオクシアは経営不振に陥った東芝の半導体メモリ事業が2017年に分社化され、2018年に米ファンドのベインキャピタルが主導し、競合の韓国SKハイニックスも含む企業連合へ約2兆円で売却された。2019年に社名を「東芝メモリ」から「キオクシア」に変更した。
日本経済新聞の12日の記事「キオクシア、上場前の「迷走4年間」から逆転劇 時価総額で国内首位に」は、苦戦していたキオクシアの状況を一変させたのがAI(人工知能)需要だと指摘している。上場前に赤字だった業績は急速に改善し、2026年4〜6月期の連結純利益は8690億円と前年同期比48倍となる見通しだ。株価は上場時の初値から直近で50倍以上に跳ね上がった。
●キオクシア(日足)
AIの活用が、膨大なデータを読み込ませる「学習」段階から、日常のシステムで実際に回答や処理を行う「推論(運用)」段階へと本格的にシフトしている。推論を瞬時に行うには、データをためておくSSD(ソリッドステートドライブ)の読み出し速度が重要となる。データセンターではHDD(ハードディスクドライブ)からより高速で大容量のエンタープライズ向けSSDへの置き換えが進んでいる。
同様にAIの高度な推論を安定的かつ効率的に運用するためには、大量のGPU(画像処理半導体)を効率よく制御し、システム全体の司令塔となる高性能なサーバー用CPU(中央演算処理半導体)が不可欠だ。インテルは歴史的にサーバー向けCPUのグローバルシェアで優位性を持っており、この従来型データセンターインフラの拡張がAIブームの余波としてインテルに向かっている。
世界中で最先端のAIデータセンターが建設される中、最先端のチップを物理的に製造できるファウンドリーのキャパシティは世界的に逼迫している。インテルは自社で設計するだけでなく、オハイオ州などの国内工場で他社の半導体も製造する「ファウンドリー事業」の大規模拡張を進めており、直近では最先端プロセスの本格始動も迫っている。
供給網の地政学的リスク(台湾有事リスクなど)を背景に、世界中のハイテク企業が「米国内で製造されたクリーンなチップ製造枠」を奪い合っている。かつてのコモディティ化したメモリのように価格競争に巻き込まれるのではなく、AIという絶対的な需要を背景に、製造ラインそのものがプラチナ化している。
●インテルの売上高と最終損益の推移出所:決算資料より筆者作成
ただし、業績は依然として本格的に回復したとは言い難い。2021年に参入を表明したファウンドリー事業の立ち上げコストの負担が続いており、2026年第1四半期も37億ドルの最終赤字だった。経営混乱を受けて多くの優秀な技術者が流出したとの指摘もある。アップルとの提携が確定すれば、台湾TSMC(TSM)に極集中していた最先端ファウンドリー市場においてインテルが「信頼できる代替選択肢」として認められたことを意味する、極めて重要な通過点となるだろう。
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●SOX指数CFD(日足)
●日経平均CFD(日足)
●TOPIXCFD(日足)
●NYダウCFD(日足)
●S&P500CFD(日足)
●ナスダック100CFD(日足)
●ドル/円(日足)
●ゴールドCFD(日足)
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。