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2026年4月 6日
ファンドマネージャー 石原 順
物理的な世界経済のチョークポイント「ホルムズ海峡」が絡んだイラン石油危機
3月の米消費者物価指数(CPI)が10日に発表される。米国の消費者が直面しているガソリン価格の急騰が今回のこのインフレ指標に反映されてくる見通しだ。ブルームバーグの5日の記事「【焦点】米インフレ率、ガソリン高で急伸へ-イラン戦争で物価圧力」は、エコノミストの予想として3月のCPIは前月比1%上昇するとの予想を取り上げている。イラン戦争を受けてガソリン価格が上昇していることが背景で、単月の上昇率としては2022年以降で最大となる見込みだ。
4月3日のリアル・インベストメント・アドバイスのコラム記事「Oil Shocks & Recessionary Outcomes(石油ショックと景気後退の影響)」によると、第二次世界大戦後、世界経済を大きく変えるほど深刻な原油価格危機が幾度となく発生した。これらの危機には表面的に共通点がある。価格が急騰し、メディアの見出しが騒々しくなり、政治家が激怒する。しかし、そうした共通点を除けば、根本的な原因と経済的な影響は大きく異なっていると指摘している。一部を抜粋してご紹介したい。
●WTI原油価格の推移
出所:リアル・インベストメント・アドバイス
●NY原油CFD(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●北海ブレントCFD(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
1973年のOPEC禁輸措置(第一次オイルショック)において、約4ヶ月で原油価格は1バレル3ドルから12ドル近くまで300%高騰した。インフレ率が3.4%と既に過熱していた米国経済は、この打撃を吸収することができず、1974年のGDPは0.5%縮小し、失業率は1975年5月までに4.6%から9%に上昇した。FRBは政策金利を1972年の5.75%から1974年には12%に引き上げたが、それでも物価上昇を抑えることはできなかった。結果、高インフレ(9%超)、高失業率、そして低成長という3つの要素が同時に発生するという、経済学上最悪の組み合わせが生じた。
1979年のイラン革命は、最初の革命で傷ついた経済に二度目の衝撃を与えた。世界の石油供給量はわずか4%しか減少しなかったが、原油価格は12ヶ月で倍にまで上昇した。1980年に始まったイラン・イラク戦争は、この混乱をさらに悪化させた。米国は再び景気後退に陥り、連邦準備制度理事会(FRB)議長のポール・ボルカーは最終的にインフレのスパイラルを断ち切るために金利を20%まで引き上げざるを得なかった。
1990年の湾岸戦争による影響はより深刻ではあったものの期間は短かった。原油価格は2ヶ月で1バレル15ドルから42ドルへと75%急騰した。米国は軽度の景気後退に陥り、S&P500指数はピークから約21%下落した。重要なのは、この混乱がわずか数ヶ月しか続かなかったことである。連合軍がイラクを押し返し、クウェートの油田が生産を再開すると、価格は急落し、経済的損害は限定的となった。
2007年から2008年にかけての原油価格は1バレルあたり約50ドルから2008年7月のピーク時には147ドルまで、ほぼ100%上昇した。その主な原因は供給途絶ではなく、中国の10年にわたる爆発的な経済成長と、前例のない規模の資源備蓄による需要の高まりだった。S&P500指数はその後、ピークから底値まで55%下落した。この壊滅的な状況は主に原油価格の高騰に起因するものではなく、金融システムの崩壊だったが、あらゆる経済的ストレス要因を増幅させた。
2022年のロシア・ウクライナ間の石油ショックにより、ブレント原油は3月までに1バレル139ドルまで高騰した後、下落した。米国は公式には景気後退には陥らなかったものの、大きな調整局面を迎えた。重要な違いは、米国が当時すでに石油製品の純輸出国となっていたため、以前のショックの直接的な影響が緩和されたことである。
ある環境では深刻な景気後退を引き起こすような原油価格の急騰も、別の環境ではほとんど影響を及ぼさない可能性がある。ショックを取り巻く状況がその結果を左右する。景気後退を引き起こすショックと経済が吸収したショックを区別するのは、混乱の期間と持続性、ショック前のインフレ状況、金融政策の役割とそのタイミング、経済のエネルギー集約度、米国のエネルギー収支などがある。
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランの指導部、治安部隊、ミサイル施設を標的とした協調攻撃を開始した。1日あたり約2000万バレルの原油と精製製品が通過し、世界の海上石油貿易の約20%を占めるホルムズ海峡、事実上通常の航行が停止した。ブレント原油は4週間足らずで60%以上急騰した。IEA(国際エネルギー機関)加盟の32カ国は、同機関の52年の歴史の中で最大規模の戦略備蓄の緊急放出を行なった。
今回はこれまでとは異なるのか。具体的には、米国のGDPに占める石油依存度は、1973年以降、約70%低下した、米国は石油の純輸出国である、インフレ期待は高いものの1970年代後半のような底なしの水準ではない。
一方で、今回の事態がより危険なショックであるという主張も捨てがたい。ホルムズ海峡は他のルートや制裁回避策で迂回できない物理的な世界経済のチョークポイント(戦略的に重要な海上水路)となっている。今回のショックは、規模においては1990年よりも大きく、速度においては1973年と同程度であり、構造的には2007年の需要主導型ショックよりも1979年の物的供給ショックに近く、また、ある面ではより強固な防波堤を備えているものの、別の面では既にストレスを抱えている経済の中で発生している。
政府によるインフレで資産が目減りしないように守ろう!
投資家で作家のダグ・ケイシーは、インフレについて、人々の倫理基準を蝕む要因になるとして次のように述べている。
「経済学とは、人間が生き残るためにどのように生産し消費するかを研究する学問である。一般の人々は経済学についてあまり理解していないかもしれないが、道徳については直感的に理解している。通貨の価値が下がると、人々は盗まれたと感じる。特に、政府や大企業のトップといった「エリート」が富を蓄積しているのを見ればなおさらだ。エリートは国の道徳的規範を定める存在であり、インフレから利益を得る立場にもいる。魚は頭から腐ると言われるが、国も同じである。通貨インフレは、暴力、革命、そして市民社会そのものの転覆につながる」
インフレが深刻な社会的、文化的衰退につながった歴史的な事例として次の事例を挙げ、またそこからの教訓として、以下を指摘している。
「通貨の破壊は必ず社会的な混乱を引き起こす。なぜなら、生産に携わる人々は通常、貯蓄を自国通貨で保有しているからだ。しかし、自国通貨が破壊されると、彼らが生涯をかけて築き上げてきたものの大部分も失われてしまう。インフレは文明社会の根幹を揺るがす。
第二次世界大戦後、蒋介石政権が崩壊した大きな理由の一つがインフレだった。そして、中国共産党が通貨管理において比較的有能であったのも、まさにこのインフレが大きな理由である。第一次世界大戦後のドイツのワイマール共和国はマルクを完全に崩壊させ、インフレが引き起こした社会不安は1920年代を通じてナチスと共産主義者の間の街頭暴動につながり、その後1933年の民主的な選挙を経てナチスが勝利を収めた。
一部の国では慢性的なインフレに悩まされており、その結果、政府転覆の試みが絶えず行われている。真の富を生み出すことが困難になると、ある種の人々が政治の世界に引き込まれる。彼らは、モノを生産するのではなく、政治権力によって富を得られることに気づくのだ。通貨が不安定な国が、社会的、経済的、政治的に不安定になるのはそのためである」
インフレによる金融、経済への影響から身を守る方法として、ケイシー氏は以前からゴールドやその他の実物資産を活用することを議論してきた。一方で経済的な影響以外に、インフレの負の社会的、文化的、政治的影響から人々はどのように身を守ることができるのについて、次のように述べている。
「最も重要なことは、スキルを身につけることだ。幅広く、かつ深く、多くのスキルを習得することで、どんな状況になっても、人々が求めるものを生み出すことができるようになる。では、何をすべきか?という問いに対しては、困難な時期に備えて、知的、精神的、肉体的、経済的、そして技能的な準備をすることだ。消費量よりも生産量が多い状況を作り出そう。余剰分は貴金属で貯蓄し、その資金を使って投資や投機を行う方法を学ぼう。政府によるインフレで資産が目減りしないように守ろう」
ロビン・ブルックスは、「私は石油価格に関して「油断(complacency)」という言葉を耳にし続けている。確かにそうかもしれない。でも本当の油断はグローバル債券市場にある。私たちはインフレショックと財政政策を抱えていて、特にヨーロッパと日本では制御不能である。これが本当の油断だ」と債券市場に警鐘を鳴らしている。
●主要各国の金利
出所:Robin Brooks
日本は、ケイマン諸島(その資金の多くは、日本から借り入れたヘッジファンドによるもの)に次いで、米国政府に対する最大の海外債権国である。米国債の入札購入額の約40%はケイマン諸島からのものであり、日本の低金利を背景に、最大100倍に達することもある高レバレッジの取引が行われている。日本の10年物国債利回りは現在2.39%を上回り、1999年以来の最高水準となっている。
さて、次は何が起こるのか・・?
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)
●NYダウCFD(日足)
●S&P500CFD(日足)
●ナスダック100CFD(日足)
●ドル/円(日足)
●ゴールドCFD(日足)
●NY原油CFD(日足)
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
を参照されたい。
石原順 プロフィール1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。