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2025年12月29日

第482回 ダグ・ケイシーの2026年予測:最大のリスクとチャンスはどこに?

ファンドマネージャー 石原 順 ファンドマネージャー 石原 順



  • 円キャリートレードの本格的な巻き戻しが起きたらどうなるのか?


    日本銀行(BOJ)は、数十年にわたって続けてきた巨大な金融緩和の正常化を進めようとしている。しかしその道のりはきわめて険しい。日銀は、先週、政策金利を25ベーシスポイント引き上げ、0.75%とした。金利の水準としては他国に比べ依然として極めて低いが、日本にとっては1995年以来の「高金利」であり、 BOJによる前例のない金融実験がいかに長期にわたって続いてきたかを示している。慎重かつ小刻みな正常化であり、日本国債の利回り曲線の大部分はなお実質マイナスとなっている。

     


    ●日本国債の利回り比較(20251222日時点と2024319日時点)

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    出所:WOLFSTREET

    利上げ開始以降、国債の利回り曲線がスティープ化している。グラフの青い線は、2024319日時点における1か月物から40年物までの主要な日本国債(JGB)の利回りを示している。赤い線は、1222日時点の利回りである。2024319日以降、利回り曲線は急傾斜化している。現在のインフレ率を前提とした場合、投資家がプラスの「実質」利回りを得るためには、25年以上の長期債(上図の黄色の線より上に位置する債券)を保有する必要がある。

    12月24日の日本経済新聞の記事「日本は長期金利2%超に耐えられるか くすぶる金融抑圧の誘惑」は、日本の長期金利の指標である10年物国債利回りが2%の節目を超えたことについて、日本の低金利は世界的に見ても「例外的な存在」であったとする英国の金融史研究者エドワード・チャンセラー氏の見方を取り上げている。

     

    日本では1990年代後半以降、長期金利が2%台で定着することはなく、それは長期停滞を象徴してきた。チャンセラー氏は著書『金利』の中で、利息収入が得られない環境が投資家を無理な投機へと駆り立てると記しており、その象徴的な例が17世紀オランダで起きたチューリップ投機だったと論じている。日本の2%という水準は「低すぎる金利」の代名詞であるとし、それがバブルの生成と崩壊を招く温床となってきたと指摘している。

     

    長年にわたり活発に行われてきた円キャリートレードは、米国の資産価格を押し上げ、米国債利回りを押し下げる要因となってきた。日本の大手機関投資家から米国のヘッジファンド、さらには日本の家計に至るまで、低金利の円で資金を調達し、その円を売って米ドルを購入し、米国債、株式、暗号資産などに投資してきた。これは、多層的なリスクを内包したレバレッジ取引にほかならない。

     

    日本国内の借入コストが上昇するにつれ、円キャリートレードの収益性は低下し、リスクは高まっている。ヘッジは可能であるものの、為替リスクは常につきまとう。キャリートレードは典型的なホットマネーであり、状況次第で一気に巻き戻される可能性がある。投資家が外貨建て資産を売却し、米ドルを円に戻して円建て債務を返済すれば、国際的な資本フローは急激に逆転する。

     

    現時点では、日本円のキャリートレードはすでに魅力を失いつつあり、緩やかに解消され始めているように見える。ただし、本格的な巻き戻しはまだ起きていない。そうであれば、国債市場や他の金融市場への影響は、これから本格化することになるだろう。米国の金利や資産価格を含め、世界的に大きなインパクトをもたらすことは避けられない。


    FRBはあらゆる手段を講じて金利を人為的に引き下げるだろう:ダグ・ケイシーの2026年予測


    2025年も残すところ数日となった。2026年はどのような経済、金融環境になることが想定されているのか。米国の作家で投資家のダグ・ケイシーのサイト「インターナショナル・マン」に2026年の予測が掲載されていた。一部を抜粋してご紹介したい。

     

    ケイシーは、ウィリアム・ストラウスとニール・ハウの著書『フォース・ターニング(第四の転換)』を引用し、「米国は今、大きな転換期を迎えており、内戦のようなものに向かっている。南北戦争が起きた1860年代と同じくらい深刻な事態になる可能性はある。おそらく、今後3年間、トランプがまだ大統領である間にそうなるだろう。彼はまさにその完璧な触媒だ」と述べている。

    2026年の中間選挙が近づくにつれ、米国国内の文化的、経済的な亀裂はどのように発展していくと予想しているのか。これについては次のように述べている。

    【動き出したトレンドは、そのまま動き続ける傾向がある。企業、エンターテインメント業界、学界、そしてメディアは、常軌を逸したレベルの「ウォーク主義」から距離を置いているように見えるが、この問題は依然として疑問視されている。「ウォーク主義」への潮流は数十年にわたって勢いを増しており、この国は何世代にもわたって教え込まれてきた。一夜にして消えるものではない。

    トランプは意図的に、そしてあからさまに分断を煽っている。彼は自身をキンキナトゥス(共和政ローマ前期に登場する伝説的政務官)と見なしているかもしれないが、むしろシーザーに近い。彼は今後も物事をかき乱し続けるだろう。それは、自分が大統領職を去った後に敵対勢力が自分に何をするかを知っているからだ。賢明な人々の多くは彼の反ウォーク主義を好んでいるが、彼の経済、国際介入主義は大きく裏目に出るだろう。彼は中間選挙で敗北し、下院民主党は再び彼を弾劾するだろう】

     

    新たなFRB(米連邦準備理事会)の誕生に伴い、中央銀行の政策に対する影響力が強まると予想される。そうした中、2026年の金融環境はどのようになるのか、また、2026年最大のリスクとチャンスはどこにあるのか、ダグ・ケイシーは次のように答えた。

     

    【トランプ大統領とFRBがさらに1兆ドルを発行すれば、ドルは本来の価値に近づくだろう。これは混乱を招く方程式だ。トランプは重商主義的な経済学を強く信奉しており、米国は輸入よりも輸出を多くしなければならないとしている。彼は何らかの為替管理によってこの問題を強制しようとし、さらなる歪みを生み出そうとするだろうと私は考えている。

     

    トランプのビジネスにおける成功の大部分は、借入によるものであることは疑いようがない。レバレッジ、低金利、そしてインフレが彼を成功に導いた。トランプ氏のこれまでの経歴と経済に対する誤った理解から判断すると、FRBはこれまで以上に政府債務を買い入れ、あらゆる手段を講じて金利を人為的に引き下げるだろう。短期的には、2026年には株価が上昇する可能性がある。しかし、これはハイリスクな賭けだ。

     

    金が4,000ドル、銀が60ドルを超えている今、他の資産と比較すると「あるべき」水準だと言えるだろう。しかし、世界情勢が不安定な中、独自の強みを持つ金は、さらに高騰している。賢明なのは鉱山会社の株への投資することだ。鉱山会社の株は非常に割安で出遅れている。過去50年間で、鉱業株は強気相場を数回経験した。もうすぐ、もう一つ大きな強気相場を迎えるだろう。

     

    さらに、コモディティの買い持ちは重要だ。穀物は基本的に生産コストとほぼ同水準で取引されている。石油、ガス、石炭、ウランも同様だ。これらの商品のいずれか、あるいは全てに関しては、一度投資して後は放っておくだけという資産配分もありだろう】

     

    米国が覇権を維持して生き残る唯一の方法は、何兆ドルもの紙幣を印刷することだった。市場をポンジスキームに変え、持続不可能で急速に増大する国家債務を管理していた。だが、そんな時代は終わりに近づいている。

     

    持続不可能なまでに増え続ける負債、そして崩壊しつつある軍事力は、帝国の終焉を招く完璧なレシピである。そして、まさに今、米国が置かれている状況だ。繁栄する帝国には非常に強力で効率的な経済、堅実な通貨、そして管理された一定レベルの負債が必要となる。今日、米国にはこうした必須条件が備わっていない。

     

    資産運用の究極の目的はインフレヘッジだ。現金が紙くずになってしまってはどうにもならない。我々はこの大変化の始まりのなかで何をすればいいのであろうか?インフレヘッジ運用に正しい答えはないのかもしれない。しかし、その中で取りうる戦略が一つだけある。それは「分散投資」である。

     

     

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    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

     

     

    ●NYダウCFD(日足)
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    ●S&P500CFD(日足)
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