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2025年12月 8日
ファンドマネージャー 石原 順
スペースXだけではない、相互に技術を高めあうイーロン・マスク帝国
宇宙開発の米スペースXが株式売り出しを実施すると報じられた。評価額は8000億ドルと、生成AI(人工知能)開発のオープンAIを抜いて米国の非公開企業のトップに立つ見通しだ。スペースXは人工衛星や有人宇宙船の打ち上げなど、米政府にとって不可欠なサービスを提供する企業へと成長を遂げてきた。8000億ドルという評価額は、前回実施された株式売り出し時の評価額4000億ドルの2倍に相当する。ウォール・ストリート・ジャーナルの12月6日の記事「スペースX、評価額8000億ドルに照準 来年のIPO視野に」は、スペースXのブレット・ジョンソン最高財務責任者(CFO)がここ数日、投資家に売り出し計画を伝えていた他、複数の幹部が2026年の新規株式公開(IPO)の可能性を検討中だと述べたことを取り上げている。イーロン・マスクは今年6月、2025年の売上高が約155億ドルになる見通しだとXに投稿していた。
少し古い記事になるが、2020年6月のStatistの記事「Why SpaceX Is A Game Changer For NASA?(スペースXはなぜ、NASAにとってゲーム・チェンジャーなのか?)」は、2019年に行われたNASAの調査を元にスペースXの打ち上げコストは過去の米国政府の宇宙計画プログラム等と比べて著しく費用対効果が高いことを示したものである。アポロ計画の座席単価は3億9000万ドル、スペースシャトルは1億7000万ドルであった。NASAの監査では、スペースXのクルー・ドラゴンの座席単価は5500万ドル、ボーイングのスターライナーは9000万ドルと推定されている。
その記事を引用し「スペースXは収益の大部分を政府契約に依存していないばかりか、競合他社よりもはるかに低コストであることで、実際に米国政府に数十億ドルの節約をもたらしている」との投稿(12月7日付)に対し、イーロン・マスク自身が「その通り」とコメントしている。
●イーロン・マスクのXへの投稿
出所:X
そして同じ日の別の投稿で次のように述べている。
「スペースXが8000億ドルで資金調達していると主張する報道がたくさんあったが、それは正確ではない。スペースXは長年にわたりキャッシュフロー黒字を達成しており、従業員と投資家に流動性を提供するために、年2回定期的に自社買いを行っている。評価額の増加は、スターシップとスターリンクの進捗、およびグローバルなダイレクト・トゥ・セル(スターリンク衛星を直接繋いで通信環境を提供するサービス)の関数であり、これによりアドレス可能な市場が大幅に拡大する。そして、はるかに最も重要なもう一つのことは・・」
出所:X
「来年はNASAが私たちの収益の5%未満を占めることになる。収益への貢献という点では、商用スターリンクが圧倒的に最大だ。一部の人々は、スペースXがNASAから「補助金」を受け取っていると主張しているが、これは全くの誤りだ。スペースXチームは、最高の製品を最も安い価格で提供したからこそ、NASAの契約を勝ち取った。最高の製品と安価なコスト、両方だ。宇宙飛行士の輸送に関しては、スペースXが現在、NASAの安全基準を満たす唯一の選択肢だ」
●イーロン・マスクのXへの投稿出所:X
アルファベット(グーグル)がイーロン・マスクの SpaceX の約7%を所有している。つまり、SpaceX が8000億ドルの評価額だった場合、アルファベットのSpaceXにおける株式は約560億ドルの価値があることになる。
●アルファベット(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●アルファベット(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
イーロン・マスクはこのスペースXだけではなく、EV(電気自動車)やエネルギーを手がけるテスラ(TSLA)、脳とコンピュータ・インターフェースをつなぐニューラリンク、X(旧Twitter)の他、2023年には生成AIのGrokを開発するxAIなどを運営している。こうしたいくつかの企業から成る独自の帝国を築きあげ、相互に協力しあうことによってさらに技術を高め合っている。
最も高い知能密度を持つテスラはAIの真のリーダーとなり得る!?
テスラの直近の決算2025年度第3四半期(2025年7-9月期)を振り返っておきたい。売上高は前年同期比12%増の280億9500万ドルと市場予想の265億ドルを上回った。純利益は13億7300万ドルとなり、前年同期比で37%減少した。
米国でのEV(電気自動車)購入支援策が終了する前の駆け込み購入が追い風となり、納入台数は約49万7100台と過去最高だった他、非自動車部門であるエネルギー部門とサービス部門の売上が好調だったことから売上高は過去最高を記録した。一方で、AI(人工知能)を含めた自動運転への投資を積極的に行なっていることから、営業費用がかさみ営業利益、純利益ともに減益となった。
●テスラの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成
利益が低下した背景にあるのは、これまでテスラにとってドル箱であった他の自動車メーカーへの規制外クレジット収入が減少したことが大きい。米国の自動車メーカーは規制によってゼロエミッションの車を一定の割合で販売することが義務付けられていた。販売が規定数に達しない場合、自動車メーカーは違反金を支払うか、他のメーカーから余剰クレジットを購入する必要があった。今四半期の規制クレジットからの収入は4億1700万ドルに落ち込み、この2年間で最低となった。トランプ政権は7500ドルのEV税額控除を10月1日に終了するとともに、CAFE(企業平均燃費基準)を遵守しない自動車メーカーへの罰則を改正したため、トランプ政権の期間中は引き続き減少することが見込まれている。
●テスラの営業利益率
●テスラ(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●テスラ(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
決算発表後に開かれた投資家とのアーニングス・コールの中でイーロン・マスクは次のように述べた。
「AIを現実世界に導入していく中で、テスラと今後の戦略にとって重要な転換点を迎えている。テスラが現実世界のAIの真のリーダーであることを強調しておくことが重要だと思う。私たちが現実世界のAIで実現できることは、誰にも真似できない。テスラは、現在市販されているどの車にも搭載されているAIの中で最も高い知能密度を誇り、その知能密度は今後さらに向上していくだろう」
●テスラは現金も潤沢に持っている(現金残高の推移)出所:決算資料より筆者作成
テスラが積み上げてきた莫大なキャッシュの残高を見れば、今後も新技術に対する積極的な投資が可能であることがわかる。自動運転やヒューマノイドロボットなど、新技術への投資はテスラに利益をもたらす源泉である。それらのベースにはAIが欠かせない。テスラの成長ストーリーにおける最も重要な章は、今まさに到来しつつあるAI時代にある。
「私は息をしている限りあきらめない」
(イーロン・マスク)
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日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
を参照されたい。