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2024年2月26日
石原順
時価総額が一時2兆ドル超え、向かうところ敵なしに見えるエヌビディアに死角はないのか?
米半導体大手エヌビディア(NVDA)の株価が23日、一時、前日比で約5%上昇し、時価総額が初めて2兆ドルを超えた。米国市場に上場する企業としては時価総額ベースでアマゾン(AMZN)を上回り、マイクロソフト(MSFT)、アップル(AAPL)に次ぐ3位に踊り出た。
●米国株式市場の時価総額上位5社(2024年2月23日終値時点) 出所:マーケットウォッチのデータより筆者作成
主要各国の経済規模と比べてみるとその凄まじさがより浮き彫りになるだろう。エヌビディアの時価総額はロシアを上回り、主要7カ国(G7)経済圏であるカナダ、またメキシコとほぼ同水準まで拡大している。もちろん、数値を構成する要素が異なるため、両者(企業の時価総額とGDP)を単純に比較するのは正確ではないが、その規模感は参考になろう。
●世界各国の経済規模とエヌビディアの時価総額出所:マーケットウォッチのデータより筆者作成
マーケットウォッチの2月24日のオピニオン記事「Opinion: Nvidia is the 'Magnificent One' now -- but these rivals are closing in(オピニオン:エヌビディアはいまや「華麗なる1社」だが、ライバルたちが迫りつつある)」は、直近のエヌビディアの利益率が7割を超えていることを指摘した上で、このような利益を上げることができるのは、エヌビディアが頂点に立つ捕食者で、これまでは大規模な競争は存在しなかったからだとしている。
しかし、世界の注目がエヌビディアに集まる中、競合他社による市場参入の動きも見えてきている。例えば、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のリサ・スーCEO(最高経営責任者)は、エヌビディアの高性能GPUに対抗する新製品「MI300」を発表した。こうした動きはエヌビディアの利益率と驚異的な成長を続ける能力に影響を与えるだろうと論じている。
これは顧客にとっても喜ばしいことである。顧客の側からみれば、AI半導体の供給元を一社に依存しすぎることはビジネス上のリスクとなる。マイクロソフトやアマゾン、アルファベット(GOOGL)などの大手ハイテク企業はこぞって独自のAI専用チップの開発を始めている。
AIに使われる電力消費量が社会的な問題としてクローズアップされつつある中、ASIC(特定用途向け集積回路)はGPUより安価で消費電力も少ないことも開発を後押しする要因となっている。エヌビディアが驚異的な決算を発表する一方、企業はリスクをこれまで以上に意識せざるを得なくなっている。
ではそのエヌビディアの決算を確認しておこう。
新たな需要ドライバーとして期待される「ソブリンAI」
エヌビディアが21日に発表した2023年11-2024年1月期決算は、売上高が前年同期比3.7倍の221億300万ドル、純利益は8.7倍の122億8500万ドルと、いずれも過去最高となり、市場予想を上回った。生成AI(人工知能)向け半導体の需要の急速な高まりが業績を押し上げた。
●エヌビディア(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●エヌビディア(週足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●エヌビディアの売上高と純利益出所:決算資料より筆者作成
●エヌビディアの分野別売上高の推移 出所:決算資料より筆者作成
分野別ではデータセンター部門の売上高が前年同期比5倍の184億ドルに拡大した。一方、以前はエヌビディアの主力だったゲーム部門の売上高は56%増の28億6500万ドルにとどまった。一見、伸び率は小さくはない。また、額としても過去最高だった。しかし、データセンター向けと比較すると56%増でさえ見劣りする。売上高全体のうちゲーム部門が占める比率は13%まで低下した。
エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは決算説明会において「年間を通じて需要は供給を上回り続ける」と見通しを示し、供給拡大に努める意向を示した。2024年2-4月期の売上高については240億ドル前後と、市場予想(220億ドル前後)を上回る見通しだ。
懸念すべきは米国政府による規制の影響を受ける中国向けの輸出であろう。しかし、会社側は中国向けの輸出を相殺するようなさまざまな機会が、他のすべての地域にあると強気の姿勢を崩していない。中でも特に注目されているのが「ソブリンAI」向けの需要である。
●エヌビディアの地域別売上高の推移出所:決算資料より筆者作成
マーケットウォッチの記事「Nvidia says future growth will come from 'sovereign AI'(エヌビディア、将来の成長は「ソブリンAI」からもたらされると語る)」は、一つの国や地域が独自のAI能力を確立し、そのAIが自国のニーズに応えられるようにする動きが起きており、ソブリンAIが新たな需要ドライバーとなっているとする会社側の見方を取り上げた。
決算説明会において、ジェンスン・ファンは、「各地域の言語、知識、歴史、文化は異なる。それぞれの国でデータを所有している。自分たちのデータを使い、それを訓練して自分たちのデジタル・インテリジェンスを作る」と述べ、日本、カナダ、フランス、その他多くの地域において、独自のソブリンAIシステムが構築されていると語った。
世界中の国々が、国内のデータを使って自国語で大規模な言語モデルを構築し、地域の研究や企業のエコシステムをサポートしようとAIのインフラに投資を行っている。大手ハイテク企業向けへの販売と同じように国全体への販売が可能になれば、エヌビディアの売上の伸びはさらに加速するだろう。
AIブームにもいずれ終わりがくる・・
注意しなければならないのは、AIブームにもいずれ終わりがくることだ。今の株式市場の上昇はエヌビディアの上昇がけん引している。エヌビディア株は年初来で約60%上昇。好決算が買い手掛かりとなり、過去1週間だけでも8.9%上昇した。
米国株式市場がこれほど特定の銘柄に集中したのは過去に一度だけだ。
●上位10%の銘柄と米国株式市場全体との比較出所:ドイツ銀行
ウォーレン・バフェットは、米国内外の株式相場の高騰は「カジノ」だと警鐘を鳴らした。バークシャー・ハサウェイが2月24日に発表した2023年の財務報告によると、株式は年間で242億ドルの売り越しで、保有する現金は1632億ドルと、2022年末の1250億ドルから382億ドルも増加している。
バフェットは24日に公表した年次株主書簡の中で、「米国には、バークシャーの針路を真に動かすことのできる企業がほんの一握りしか残っておらず、それらは当社や他の企業によって際限なく摘み取られてきた。米国以外では、バークシャーの資本展開の選択肢として意味のある候補は基本的に存在しない。全体として、われわれが目を見張るような業績を上げる可能性はない。私が若い頃とは比べものにならないほど市場はカジノ的な振る舞いを見せる。カジノは多くの家庭に浸透し、人々を日々誘惑している」と説明した。
現在の市場が長期的な成長トレンドから乖離していることを考えれば、株式が経済成長を上回る成長を続けることはより困難になるだろう。
●S&P500実質価格とゼロの収益率の長期化
「何が市場の反転を引き起こすかは未知数である。しかし、現在の市場が長期的な成長トレンドから乖離していることを考えれば、株式が経済成長を上回る成長を続けることはより困難になるだろう。特筆すべきは、このような乖離は歴史的に極めて低い収益率からゼロの収益率の長期化につながってきたことである」
出所:リアルインベストメントアドバイス
●投資のサイコロジカルサイクル「史上最高値を恐れることはない。ただ、それは高揚感の副産物であることを理解してほしい」
出所:Hofstra University
●S&P500実質価格(黒)とサイコロジカルサイクル(赤)1980~現在出所:リアルインベストメントアドバイス
現在の高いバリュエーションを合理化することは、将来的に失望を招く可能性が高いと考える。しかし、短期的には強気心理が伝染し、「史上最高値更新」が続く可能性が高くなっている。
株式市場が上昇し続ける不労所得の栄光の日々に慣れ親しんだ人々は、手遅れになるまで下げ相場に抵抗し、相場観を変更できないだろう。
●S&P500実質価格と強気相場出所:リアルインベストメントアドバイス
バブルは崩壊し、破産が行き過ぎを清算する。相場から早めに脱出した人々は、早急に行動したことを喜ぶだろうし、下降や衰退に巻き込まれた人々は、もはや手の届くものでも持続可能なものでもない高コストのシステムを信じていたことを後悔するだろう。
株式市場では本質的に、大きな強気相場の後には必然的に大きな弱気相場がやってくる。これは過去の例から明らかだ。市場サイクルの前半でもうけるのは簡単だ。後半にそれを維持するのが難しい。
メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
●日経平均CFD(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●NYダウCFD(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●S&P500CFD(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ナスダック100CFD(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ドル/円(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
●ゴールドCFD(日足)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。