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「マーケットの最前線」

2024年1月29日

第383回「営業利益率が急低下したテスラの苦境とその将来」石原順

石原順 石原順



  • 営業利益率が急低下、テスラは成長の踊り場を迎えたのか?

    米テスラ(TSLA)が24日、2023年10-12月期決算を発表した。売上高は前年同期比3%増の251億6700万ドル、純利益は一時的な税関連利益の計上により79億2800万ドルとなり、前年同期比2倍超となった。



    ●テスラ(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター




    ●テスラの売上高と純利益の推移
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    出所:決算資料より筆者作成


    今回の決算で懸念されたのは、営業利益の低下である。営業利益は20億6400万ドルと、前年同期に比べ47%減少、4四半期連続の営業減益となった。大きな要因は2つ。一つは値下げによる採算悪化の影響を受けていること、もう一つは新型車「サイバートラック」の量産に難航していることも重荷になっている現状が示された。

    テスラは2022年秋以降、販売水準を維持するため主力市場の米国や中国で値下げを断行してきた。他メーカー、特に中国メーカーとの競争が激化しており、値下げの「負の側面」である採算悪化が現れた形だ。



    ●テスラの営業利益率の推移
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    出所:決算資料より筆者作成



    値下げの影響で、今四半期(2023年10-12月期)の営業利益率は8.2%となり、前年同期の16%から7.8ポイント低下した。前の期(23年7-9月期)(7.6%)からは改善したが、ピークだった22年1-3月期の19.2%と比較するとその半分以下の水準だ。

    2024年1月25日の日本経済新聞の記事「踊り場迎えたテスラ EV市場の成長減速、BYDにも後手」は次のように指摘している。

    テスラの稼ぐ力の低下は、EV市場の構造的な変化を映し出している。筆頭は中国勢の台頭だ。特に23年10~12月期のEV世界販売でテスラから最大手の座を奪ったBYDが攻勢に出ている。一貫しない価格戦略の背景にあるのが、BYDを筆頭とする中国勢の絶え間ない低価格攻勢だ。EV市場を切り開いたテスラだが、中国では追随的な価格引き下げを強いられている。新車販売に占めるEV比率が約2割となった中国市場では、価格主導権を握る「プライスリーダー」ではなくなりつつある。


    自動運転ソフトウェアのプラットフォーマーとなる可能性、株価2000ドルも夢ではない!?

    ブルームバーグの2024年1月27日『テスラ株いずれ1200ドルに到達へ、急落でも強気のファンドマネジャー』によると、バロン・フォーカスド・グロース・ファンドのファンドマネジャーであるデビッド・バロン氏は、テスラがやや足踏みした後に再び驚異的な値上がりを見せると見込んでいると伝えている。

     

    バロン氏はインタビューで「会社が考えていたような年間50%の成長は実現できないかもしれないが、厳しい環境にある今年に販売台数がなお年15-20%のペースで伸びつつあり、1台当たり7000ドルの粗利益を上げている」と指摘、テスラの強力なブランド力を理由に、株価は2030年までに現在の水準から約550%上昇し、1200ドルに達すると予想している。


    テスラに対する強気姿勢を崩していない運用者がもう一人いる。アークのキャシー・ウッド氏である。ウッド氏は昨年を通じてテスラ株を売却していたが、今年になり主要なファンドでテスラ株の購入を再開している。アークはテスラについて、2027年の株価予想を2000ドルとしており、強気の場合は2500ドル、弱気の場合は1400ドルと想定している。



    ●テスラのキャッシュフロー
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    出所:決算資料より筆者作成



    ●テスラは現金も潤沢に持っている
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    出所:決算資料より筆者作成



    筆者は今回の決算において、営業利益率よりもキャッシュに注目した。莫大な設備投資を行なっているにもかかわらず、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローともに高い水準を維持している。マスク氏は決算発表後におこなわれたアーニングスコールの中で次のように語っている。


    2023年のキャッシュフローは、将来のプロジェクトに対する支出が記録的だったにもかかわらず、約44億ドルと好調を維持しています。つまり、過去最高の設備投資、費用、そして過去最高の研究開発費があったわけです。これで2024年の成り行きが見えてきました。

    2024年には楽しみなことがたくさんあります。テスラは現在、大きな成長の波の間にあります。私たちは、次世代自動車、エネルギー貯蔵、完全自動運転、その他のプロジェクトによる次の成長の波を可能な限りうまく実行することに集中しています。


    テスラは昨年、3億ドルにも及ぶAIコンピューティングのクラスターを立ち上げた。エヌビディアのH100 GPUを1万個採用した世界でも有数の高性能なスーパーコンピューターである。この新しいスパコンのクラスターを導入することで、自動運転技術をこれまで以上に早くトレーニングするための計算能力を大幅に強化することになる。このことは、テスラが他の自動車メーカーよりも競争力を高めるだけでなく、世界最速のスーパーコンピューターの1つを所有することを意味している。


    昨年世界で同時発売された伝記『イーロン・マスク』の著者であるアイザックソン氏は、米『Time』誌に寄稿した記事「Inside Elon Musk's Struggle for the Future of AI(AIの未来をめぐるイーロン・マスクの闘いの内幕)」の中で、マスク氏によるさまざまな新興企業への投資や事業は一見バラバラに見えるが、「人工知能(artificial general intelligence)」、つまりAGIに向けた新時代を切り開こうとするマスクの広範な計画の一部であると述べている。


    過去10年にわたり、マスク氏は、テスラ、スペースX、ニューラリンク、X社(ツイッター)そしてxAIなど、技術革新の最前線にあるさまざまな企業の経営に携わってきた。X社(ツイッター)には長年にわたって投稿された1兆以上のツイートがあり、毎日5億件が追加されている。それはいわゆる人類の集合知であり、現実の人間の会話、ニュース、興味、トレンド、議論、専門用語の世界で最もタイムリーなデータセットである。



    また、テスラ車の走行を通じて受信した1日あたり1600億フレームのビデオを持っている。それは、現実世界の状況でナビゲートする人間の映像データである。これらは物理的なロボットのためのAIを作成するのに役立つ情報の宝となる。今後、自動運転ソフトウェアの性能がデータ量とそれを処理するスパコンの性能に依存することになれば、この分野の投資で先行しているテスラの競争優位が確立することになる。このことは、テソフトウェアな自動運転ソフトウェアを提供するプラットフォーマーとなりうる可能性を秘めていることを意味している。



    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。