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2023年10月 2日

第367回「レイ・ダリオ:米国の政治的分断が続けば景気悪化はさらなる内部抗争を引き起こす」石原順

石原順 石原順




  • 米国の債務問題は危険な状況にあり、現金は(債券と比較して)ゴミではない(レイ・ダリオ)

    世界最大規模のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者であるレイ・ダリオ氏は9月28日、米CNBCのインタビューに答え、米国の債務問題に関して「危険な」財政状況にあると指摘、「(危機が)どの程度のスピードで起こるかは需給問題に左右されるだろう」と述べ、米国の債務危機に警鐘を鳴らした。


    ダリオ氏は今年6月に開催されたブルームバーグのカンファレンスにおいても、「現在は債務をつくり過ぎている一方で買い手が不足しており、米国は後期ビッグサイクルの債務危機の始まりにある」と述べていた。金利はこの先、大幅には上昇しないものの、経済は悪化するだろうとした上で、米国の政治的分断が続けば景気悪化はさらなる内部抗争を引き起こす恐れがあると話した。



    ●米国帝国の背後にある典型的なビッグサイクル
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    出所:リンクトイン(レイ・ダリオ)



    経済の悪化とさらなる社会的分断が加速することが想定される中で、ダリオ氏はこれまでの「現金はゴミのよう」としていた自身のスタンスを転換し、債券などではなく、今は一時的に現金を保有したいと述べている。

    ダリオ氏による9月30日のリンクトインへの投稿「The Thinking Behind Why Cash Is Now Good (and not Trash)なぜ今、現金が(ゴミではなく)良いのか?」を簡約したものを一部、抜粋して紹介しよう。

    ここ数カ月、私が「現金は良いものだ」と発言したことは、2020年初頭に「現金はゴミだ」と発言したこととは正反対である。私が2回とも伝えようとしたのは、その時の金利に基づいて現金がいかに魅力的かということである。2020年当時は「ゴミのような」(1%未満)金利で、最近では「かなり良い」(5%半程度)金利である。現金が良いこともあれば、悪いこともある。


    現金と債券が魅力的か魅力的でないかを評価する、単純で不正確だがかなり優れた方法を紹介しよう。私の実際のプロセスは、これから説明するものより少し複雑だが、このシンプルなバージョンは私の考え方を説明するのに役立つはずだ。

    最も重要なことは、現金(そして債券)の魅力を評価するために、私は次の点に注目する:

    1) 将来のインフレ率(すなわち実質金利)に対する金利水準

    2) FRBが金利を引き締める可能性が高いか緩和する可能性が高いかは、インフレ率と成長率がFRBの望む水準よりも高い(引き締めにつながる)か低い(緩和につながる)かに基づいて判断される

    3) 見込みリターンに基づく他の投資の魅力と比較した、期待される現金リターンの魅力

    4)現金と債券の需給状況

    原則として、私が現金に投資したいのは以下のような場合である:

    a) 金利が上昇し、無リスク金利がインフレ率を1%以上上回っているとき(1%以上であればあるほど投資したくなる)

    b)実質金利が経済の実質成長率以上である場合

    もちろん、リスクの高い負債にはより高い金利を望むが、どの程度高いかはその負債がどの程度リスクが高いかによる。私が「現金」(オーバーナイト満期から2年満期までと考えている)を好むのは、元本を失うリスクなしにかなり良い金利を獲得しているからである。


    また、国債の需給にも目を向けて試算している。というのも、売却される国債の供給見込みは大きく(政府の赤字が大きいため)、需要見込みは低いと思われるからだ(国債の外国人買い手、銀行、中央銀行が大量に保有し、不良債権を抱えているため、彼らは米国の政治的、社会的、経済的に何が起こるかを懸念している。

    また、海外の米国債券保有者の中には、「制裁」を受けるかもしれない、つまり米国債を現金に換えられないかもしれないと心配している人もいる。こうした理由から、(価格変動リスクがなく、利回りが上昇すればより魅力的になる)現金は債券に比べて相対的に魅力的に見える。

    株式に対してはどうか。精度は低いが、それでもかなり良いシンプルな見方を紹介しよう。私のアプローチはかなり複雑で、個々の企業/銘柄の利益利回り、配当利回り、価格に対する利益/成長見通しを見る。また、個々の企業の需要と供給にも目を向ける。そして、これらをまとめて、市場全体(例えばS&P500)も確認する。

    市場全体の利回りを見ることで、精度は落ちるが、よりシンプルな判断ができる。株式市場の期待リターンは約5~5.5%であり、債券利回りとの比較ではかなり低い(特に債券利回りは上昇する可能性があり、株価を下落させる傾向があるため)。

    このため、実質的に価格変動リスクのない現金リターンは、株式市場の期待リターンに比べても、債券の期待リターンに比べても、かなり良く見える。これらはいずれも正確ではない。例えば、債券利回りが5.5%や6%になり、株式利回りがさらに上昇することもあり得るし、債券と株式が相応に下落することもあり得る。

    現時点では、現金は価格リスクのない優れたリターンを提供してくれる。また、私の資金をドライ・パワーとして維持してくれるので、現金は私にとって「かなり良い」ものに見える。繰り返しになるが、この種の計算には正確さがないため、推定値との乖離が大きくなることが多い。金利が底を打ち、私が現金はゴミだと言ったときのように、リターンの見込みの差が比較的極端なときに、私は行動を起こしたいと思う。



    DRAM復活の鍵を握るのはAI向け需要

    日本経済新聞は9月29 日、経済産業省が米半導体メモリー大手であるマイクロン・テクノロジー(MU)の広島工場の設備投資に最大1920億円を補助することが明らかになったと報じた。マイクロンは2026年頃に広島工場において最先端の半導体メモリーDRAMを量産する計画で、支援資金については、半導体の微細な回路を形成するのに必要なEUV(極端紫外線)の露光装置を導入するなど製造ラインの新設に充てると見られている。

    経産省はすでにマイクロンの広島工場に約465億円の補助を決めているが、国内で最先端の半導体メモリーを量産することが出来る体制を整えるのは経済安全保障の面からも重要だと判断し、さらに支援を積み増すと言う。

    マイクロンが9月28日に発表した2023年6-8月(2023年第4四半期)の売上高は前年同期比39%減の40億1000万ドル、最終損益は14億3000万ドルの赤字だった。売上高は2023年第2四半期を底に微増傾向にある。最終赤字となるのは4四半期連続だが、赤字幅も少しずつ減少しつつある。




    ●マイクロン・テクノロジーの売上高と最終損益の推移
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    出所:決算資料より筆者作成




    ●マイクロン・テクノロジー(3時間足)2022年~2023年(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    パソコンやスマートフォンなどの需要低下に伴い、同様にメモリーを手がける韓国サムスン電子やSKハイニックスも業績低迷から抜け出せていない。部品の過剰在庫の整理もまだ道半ばのようだ。マイクロンが同時に発表した9-11月期の見通しでは、1株当たりの赤字幅が最大1.14ドルと、市場予想(96セントの赤字)を上回る見通しだ。一方、売上高は42億から46億ドルとなりそうだ。

    サンジェイ・メロートラCEOはメモリーチップ市場について、2024年に持ち直し、2025年に再び記録的な水準に達すると見ている。背景にあるのはA Iシステムにより高額で新しいタイプのメモリーチップが必要とされているためだ。マイクロン・テクノロジーのHPによると、7月にサンプル出荷を始めた先端メモリーのHBM(High Bandwidth Memory)3型DRAM「HBM3 Gen2」は、現在出荷中の製品と比較して50%の高速化が図られると言う。

    さらに、24ギガバイト(GB)の大容量化を実現し、前世代製品と比較してワット当たりの性能が2.5倍向上し、人工知能(AI)向けデータセンターに求められるメモリー指標(性能、容量、電力効率)で新たな基準を達成するとしている。こうした改良により、GPT-4やこれに続く大規模言語モデル(LLM)の学習時間を短縮できるだけでなく、AI推論向けにも高効率なインフラを構築できるとして期待されている。



    ●拡大が続く世界のAI市場
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    出所:各種データより筆者作成




    米調査会社のMarket.USのレポートによると、世界のAI市場は2032年に2兆7450億ドルまで拡大すると試算されている。年平均成長率は約36%だ。市場の成長を受け、AIの性能を最大限に発揮できるAI半導体チップの開発競争が加速している。マイクロンが手がけるDRAMは、AIデータセンター等を支える先端半導体に必要とされるキーデバイスの一つである。

    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)





    ●日経平均CFD(日足)

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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター




    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター



    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター





    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター





    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター





    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。



    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。