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「マーケットの最前線」

2023年9月25日

第366回「日本は過去30年にわたり金融政策の異常値であり続けている」石原順

石原順 石原順

  • 今や日本円は先進国のトルコリラ!?

    日本円の対外的な購買力が低下している。BIS(国際決済銀行)が21日に発表した円の総合的な実力を示す8月の実質実効為替レートは73.19と、1970年以来、53年ぶりの低水準となった。これは円が1ドル=360円の固定相場制だった当時と同じ水準だという。これまで過去最低だったのは1970年8月の73.45だったが、これを半世紀ぶりに下回った形となった。


    ●円の実質実効為替レートの推移
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    出所:BIS

    円安が止まらない大きな要因は、日本の大規模緩和策の出口が全く見えていないことにある。日本とは対照的に主要国の中央銀行は金利を引き上げることで、市場に出回った資金を吸収しつつある。米国において地方の金融機関が破綻したり、IPO数が激減したりしている背景には急ピッチでの引き上げが理由だ。世界中の多くの中央銀行が利上げサイクルを終了させる中で、日本は過去30年にわたり、金融政策の異常値であり続けている。

    9月9日付の読売新聞朝刊で植田日銀総裁は目標達成に確信が持てるならマイナス金利政策の解除も選択肢だとしたうえで、「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」と語った。市場では、年内にもマイナス金利解除に向かう可能性も含めて先週の金融政策決定会合を見守ったが、蓋を開けてみれば全くの無風となった。こうした状況が抜本的に変わらない限り、いくら日本の財務省と日銀が為替介入を行ったところで、円安基調は継続することになるだろう。

    ●ドル円相場の推移
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    出所:筆者作成

    今や日本円は先進国のトルコリラとも呼ばれている。日銀は利上げが後手に回る可能性よりも、早すぎる引き締めのリスクを重視していと述べてきた。この「リスク管理」の傾向に変更はないようだ。ただし、今回の日銀の声明文には、7月にはなかった以下の文言が追加されている。為替市場の動向によっては政府・日銀が再び介入を発動し、短期的には市場が大きな動きになることもありそうだ。

    「リスク要因をみると、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価 格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、 金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある」

    大きな混乱を引き起こすが、仕事も成し遂げるイーロン・マスクの「悪魔モード」

    米テスラ(TSLA)のCEO、イーロン・マスク氏にとって初となる公式伝記『イーロン・マスク』が日本を含む世界で同時発売された。著者であるウォルター・アイザックソン氏は米『タイム』氏の編集長などを歴任した伝記作家で、2011年に発売されたアップル(AAPL)創業者のスティーブ・ジョブズ氏の伝記『スティーブ・ジョブズ』の著者としても知られている。

    アイザックソン氏は3年間にわたりマスク氏に密着し、本人をはじめ家族や友人、またビジネスパートナーたちへのインタビューを行ない、それらを通じてテスラや宇宙開発事業「スペースX」のトップとしての日々、ツイッターの買収、さらには幼少期を含むマスク氏のプライベートについても詳らかにしている。上下巻合わせて95章まである超大作だ。

    著者のアイザックソン氏は伝記の中で、大物実業家であるイーロン・マスク氏の成功と挫折の背後にある彼の気質的衝動を取り上げ、それを「悪魔モード」と説明した。悪魔モードという表現は、マスク氏の11人の子供のうち3人の母親であるアーティストのグライムスさんがインタビューの中で使ったものである。彼女は悪魔モードについて、マスク氏が暗闇に入り、頭の中で吹き荒れる嵐の内側に引きこもっている状態のことだと表現している。そしてこの悪魔モードは「多くの大混乱を引き起こすが、仕事を成し遂げることにもつながる」という。

    アイザックソン氏はその様子をまるでジキル博士とハイド氏のようだと表現している。彼の暗黒面が現れるとトランス状態に入り、冷酷なまでに厳しくなるのだという。その悪魔モードが出現した具体例として、テスラが破綻寸前に追い込まれた際や2018年にマスク氏がテスラのセダン「モデル3」の生産拡大に苦戦した時のことを取り上げている。


    最近はそんなマスク氏の悪魔モードが出現する機会はあまりないかもしれない。モルガン・スタンレー証券が今後12カ月のテスラの目標株価を従来の250ドルから400ドルに引き上げた。テスラが自社開発するスーパーコンピューター「Dojo(ドージョー)」の活用によって、時価総額を最大5000億ドル上乗せできると強気の見通しを示した。

    ●テスラ(4時間足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●テスラ(日足)(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター


    ドージョーは自動運転を実現するためにテスラが独自に開発している専用のスパコンだ。路上を走行する車両から送られてくる大量の動画データを取り込み、処理を行っている。自動運転技術という特定の目的のために開発が進められており、自動運転がどうあるべきかの機械学習を過去5年にわたり続けてきている。

    モルガン・スタンレーは、テスラ車は単なる乗り物であるということにとどまらず、予測不可能な環境や状況下で生死の決断を下す、センサーに包まれたロボットであると指摘。価格が決まっている(売り切りの)自動車の販売にとどまらない新たな市場開拓が可能になるとし、自動運転サービスのソフトウェア収入が利益率を大きく高める可能性があると分析した。


    AWSがアマゾン(AMZN)にとっての成長ドライバーになったのと同様の力がテスラにも働き、ここからのテスラにとっての最大のバリュードライバーはソフトウェアとサービスの収益になるだろう。ドージョーは視覚データを処理するように設計されているため、長期的には自動車産業以外にも応用範囲が広がる可能性がある。例えば、ロボット、ヘルスケア、セキュリティなどの分野において視覚ベースのAIモデルのプラットフォームとなるかもしれない。

    マスク氏は2024年末までにドージョースパコンに10億ドル以上を投じる計画を明らかにしている。今後、自動運転ソフトウェアの性能がデータ量とそれを処理するスパコンの性能に依存することになれば、この分野の投資で先行しているテスラの競争優位が確立することになる。このことは、テスラが高性能な自動運転ソフトウェアを提供するプラットフォーマーとなりうる可能性を秘めている。

    テスラが広告宣伝費に一銭もお金をかけていないと言う話は聞いたことがおありだろう。その代わりにテスラはどこに資金を振り向けているのか。テスラは「持続可能なエネルギー社会を構築すること」を使命として、そのために企業として持てるあらゆる資本を研究開発に投資している。

    企業にとって資本をどのように配分するのかは重要な事業戦略である。研究開発費や広告宣伝費にどの程度の資本を振り向けるのかについては業種によっても企業によっても異なるが、資本配分のバランスにはその企業が何を志向しているのかが見事に表れる。

    ●テスラのキャッシュフロー
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    出所:決算資料より筆者作成



    ●テスラは現金も潤沢に持っている
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    出所:決算資料より筆者作成

    2023年第2四半期の決算発表時に開催されたアーニングス・コールにおいてイーロン・マスク氏は自動運転とドージョーについて次のように語っている。

    自動運転を構築するためには、何百万台もの車から得たデータでニューラルネットを訓練する必要がある。トレーニングデータが多ければ多いほど結果は良くなる。つまり、ニューラルネットでは、100万の訓練例では機能せず、200万ではわずかに機能し、300万では、「わぁ、なるほど、何か見えてきたという感じ」だが、1000万の訓練例を得ると、信じられないような結果になる。

    大量のデータに代わるものはない。このデータを収集するために道路を走っているテスラのEV車両は他の企業の合計よりも一桁多い。全体の90%、あるいは非常に大きなシェアを有していると思う。これまでにFSD (Full Self Driving:完全自動運転)のベータ版を使って3億マイル以上を走行した。この3億マイルという数字はすぐに小さく感じられるようになるだろう。すぐに数十億マイル、そして数百億マイルになるだろう。そして、FSDは人間と同程度の性能から、人間よりもはるかに優れた性能へと進化していくだろう。完全自動運転は平均的な人間のドライバーよりも10倍安全であるという明確な道筋が見えている。

    アイザックソン氏は9月6日、元々編集長を務めていた米『Time』誌に「Inside Elon Musk's Struggle for the Future of AI(AIの未来をめぐるイーロン・マスクの闘いの内幕)」と題する記事を寄せた。

    その中で、アイザックソン氏は、マスク氏によるさまざまな新興企業への投資や事業は一見バラバラに見えるが、「人工知能(artificial general intelligence)」、つまりAGIに向けた新時代を切り開こうとするマスクの広範な計画の一部であると述べている。

    メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)

    ●日経平均CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●NYダウCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●S&P500CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ナスダック100CFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ドル/円(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    ●ゴールドCFD(日足)
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    出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。



    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のディーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。