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マーケットレポート

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「マーケットの最前線」

2021年1月18日

第263回「非常にまれな市場のシグナルを発見!・アルマナックのサイクルレポート」石原順

  • 短期的にはこの先の株式投資におけるリターンは極端に低くなる!?


    米国議会下院は13日、トランプ大統領の弾劾訴追に関する決議案を可決した。トランプ大統領は退任を約1週間後に控え、米国史上で初めて2度にわたり弾劾訴追された大統領となった。ワシントンDCにおける政治のスッタモンダをよそに、株式市場はいいとこ取り相場が繰り広げられている。はや「ブルーウェーブ」は買いだ、バイデン政権による経済対策は2兆ドル規模になるのは買いだと、自ら進んで買うための理由を見つけ、かつてないほどの陶酔感に包まれている。

    果たしてブルーウェーブは本当に買いなのか。過去のデータを振り変えるとブルーウェーブとなった場合、株式市場のリターンは単年で見れば確かにプラスになる傾向を持っている。1951年以降でブルーウェーブとなった年は18年あり、その平均リターンは約9%であった。リターンがマイナスとなったのが4年、プラスのリターンが14年、プラスの割合は77%である。大統領、連邦議会の上下両院が同じ政党で占められていることから、政権与党の政策実行力が高まることが背景にあると考えられる。


    ●民主党が大統領と議会上下両院を占めた場合のS&P500指数のリターン
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    出所:各種資料より筆者作成


    しかし今回のバイデン政権の場合、政党内における穏健派と急進左派との対立はくすぶっており、決して一枚岩とは言えない。例えば、バイデン政権の主要ポストの顔ぶれが明らかになっているが、AOC(アレクサンドリア・オカシオ・コルテス)を含む急進的かつ進歩的な非白人かつ女性の4人の下院民主党新人議員は、彼女たちが推薦した人物が採用されていないとして請願書を回覧するなど、既に対立の構図も浮かび上がっている。

    バイデン大統領はこうした民主党の急進的な左派メンバーとどのように折り合いをつけていくのか、政権運営はスタート早々厳しいものになると思われる。また、新政権が発足した直後の時間をトランプ大統領の弾劾に伴う手続きに費やされることになり、新政権の発足からすぐに取り組まなければならない優先課題がおざなりにされてしまう可能性がある。その上、政権は株式市場が歴史的な高値圏にあるところからのスタートとなる。

    モルガン・スタンレーによると、短期的にはこの先の株式投資におけるリターンは極端に低くなることが指摘されている。ゼロヘッジの記事「Morgan Stanley Spots An Extremely Rare Market Signal Which Precedes Selloffs(モルガン・スタンレーは、セルオフが起こる前の非常にまれな市場のシグナルを発見)」によると、S&P500銘柄の92%が200日移動平均線の上にあり、この割合が現在の水準にある場合のフォワード・リターンは短期的に低くなると言う。


    ●S&P500銘柄の90%以上が200日移動平均線を上回って推移している
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    出所:ゼロヘッジ

    ●200日移動平均線を上回る銘柄が現在の水準(92%)を超える場合のS&P5005日後、1ヶ月後、3ヶ月後のリターン(青)と他の場合のリターン(黄)
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    出所:ゼロヘッジ


    20日に開催される予定のバイデン次期大統領の就任式には、歌手のレディ・ガガが国家を独唱するという。またジェニファー・ロペスも公演を行うことが決まっている。また就任式の夜には俳優のトム・ハンクスを司会に特別番組が計画されているとのことで、華やかな就任式の一日となりそうだ。しかしそれとは裏腹に、短期的には相場の洗礼を受ける可能性が高いことも頭に入れておきたい。


    救命措置で生きながらえている相場:ガンドラック

    毎年恒例となったバイロン・ウィーン氏の「びっくり10大予想」では、S&P500指数が2021年前半に20%近く下げ、そこから4500まで上昇すると予測されている。また、米成長率は6%を上回り、10年債利回りが2%に上昇するとの見方を示した。


    では、債券王のジェフリー・ガンドラックは今年の経済をどのように見ているのだろうか。市場と経済に関する年間予測をウェブキャストライブで公開した。一部を抜粋してご紹介する。

    今年のテーマは「アクアラング」、投資家たちは株式市場に投入された救命措置の刺激策によって支えられており、中央銀行からの流動性が常に押し寄せているなどの恩恵があるからこそ生き延びているという状況を表している。

    ガンドラックは昨年12月、「金融市場のトレンドの多くが静かに逆回転をしている。今後、数週間以内にそれに向き合うことになるだろう」と語った。常にブームとバストを繰り返す株式市場であるが、膨大なマネーサプライを考えれば、まだブームは継続するのかもしれない。


    世界的なマネーサプライは2020年の一年だけで、約20兆ドルと爆発的に増えている。バイデン政権が誕生しバラマキが加速することを考慮すると、このマネーサプライは2021年にはさらに増殖することが想定される。

    ●グローバルマネーサプライの推移
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    出所:ゼロヘッジ


    続いては1996年以降のナスダック対S&P500のチャートである。現在、90年代後半から2000年にかけてのドットコムバブルの最高値を突破し、過去最高水準まで上昇している。ナスダックはテスラやその他のハイテク株によってこれでもかと言うまでに上へと引き上げられているが、相場を主導してきたそうした一部銘柄のトレンドが変化し下落に転じると、10年あまりにわたって続いてきたトレンドも転換点を迎える可能性がある。


    ●ナスダック100 VS S&P500
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    出所:ゼロヘッジ


    また、ガンドラックはFRBによる超低金利政策がゾンビ企業をなんとか生きながらえさせていることを可能していると語った。ゾンビ企業の割合はテックバブルの頃と同様の水準まで上がってきている。超低金利という救命措置が外れた場合にはこの割合はさらに急上昇することが容易に考えられる。


    ●ゾンビ企業の割合
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    出所:ゼロヘッジ


    独アリアンツの主任経済顧問であるモハメド・エラリアン氏はヤフーファイナンスのインタビューで「マーケットバブルが弾けるきっかけはなにか?」と聞かれ、「1つはFRBによる政策転換、2つは大規模な経営はたん、3つ目は何かしらのマーケットのアクシデント、4つ目は金利がさらに20ベーシスポイント上がった場合、それは悪いニュースになる」とコメントしている。

    足下では米国債金利がじわじわ上昇し不穏な動きを示している。世界的なリスク資産の上昇を損なう利回り水準は果たしてどの程度になるのだろうか。エラリアン氏が指摘するようにここから20ベーシスポイントが転換点となるのか。FRBのパウエル議長は14日、利上げや量的緩和の縮小について「当面ない」と強調し、現在の政策を継続していくことを示した。政策転換への道のりはまだまだ先であることには間違いないが、マーケットにはまさかがつきものである。金利の静かな上昇がブラックスワンの羽音に聞こえなくもない。


    アルマナック(ジェフリー・ハーシュ)のサイクルレポート

    先週のレポートで取り上げたジェフリー・ハーシュの株式相場アノマリー分析の最新号をいただいたので、紹介したい。ハーシュの「シーズナリーサイクル」は、有料レポートなのですべてをお伝え出来ないが、「テクニカル分析」と併用することで効果を発揮する。

    ジェフリー・ハーシュの最新コメント:

    【季節性周期の再来により、来週の1月後半から 1月の残りの期間中、そして 2月に波及する可能性もるが、市場の弱さが見られても不思議ではない。以下の 1月のシーズナルパターンのチャートは、 DJIA、 S&P500、 NASDAQ、ラッセル 1000、 2000の過去 21年間のデータと右の縦軸に

    プロットした 2021年 1月から今日の終値までのデータである。

    過去21年間では、ナスダックが月中までリードしてきましたが、今年はラッセル 2000がリードして いる。それ以外の主要なインデックスは、その歴史的なパターンをかなりうまく追跡している。序盤は強さがあり、その後は横ばいで推移している。現在のトレンドが歴史的なパターンに沿ったものであれば、第 11取引日( 1月 18日)以降、市場は弱気になる可能性がある。弱気になった場合は、「ベスト月間」の半分以上がまだ残っているため、既存のポジションを追加 するか 、新たな資金を投入するチャンスと考えることができる。

    短期的には、市場が一時的に停止したりプルバックしたりするきっかけとなるいくつかの要因がある。バリュエーションは、 過去の状況から見てかなり割高にあるため、潜在的な懸念材料の一つだ。株価の上昇は、業績の大幅な回復への期待に後押しされてきた。その反発が予想ほど強くない場合は、簡単に売りが発生する可能性が高まる】

    ●1月のシーズナルパターンのチャート
    DJIA、 S&P500 NASDAQ、ラッセル1000、 ラッセル2000の過去 21年間のデータ
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    出所:ジェフリー・ハーシュの・アルマナックレポート(2021114日)ジェフリー・ハーシュおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載。

    *ジェフリー・ハーシュ

    マグネット・AE・ファンドのチーフ・マーケット・ストラテジストであり、ハーシュ・オーガニゼーションの社長である。また、ストック・トレーダーズ・アルマナックの編集長であり、コモディティ・トレーダーズ・アルマナックの共同執筆者でもある。20年以上、創業者のイェール・ハーシュと共に働き、2001年にその仕事を引き継いだ。CNBC、CNN、ブルームバーグ、FOXビジネスなど、多くの内外のテレビにたびたび出演して、市場の周期性、季節性、トレードのパターンや予測、歴史の推移について解説をしている。また、投資家へのアラートや市場データ、リサーチ用ツールを含む、オンライン版の会員制アルマナック・インベスターの編集も行なっている。

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wpcomstaging.com/

    を参照されたい。

    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。