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「マーケットの最前線」

2021年6月21日

第249回「4人の魔女に翻弄された市場」石原順

石原順 石原順

  • FOMC後の動きとクアドルプル・ウィッチング・ディ(4人の魔女の日)


    FOMCを通過し、米国株式市場の動きが不安定になっている。FOMC(米連邦公開市場委員会)はフェデラルファンド金利の誘導目標レンジを0~0.25%で据え置くことを決定した。利上げについては、経済が回復する中で2023年末までに2回の利上げを見込んでいることを示唆した。

    利上げの時期が1年前倒しされたことで、タカ派的な内容と報道されているが、「意見の相違なく合意するFOMCはシャンシャン総会」と呼ばれているように、おおむね事前予想通りの内容と言えるだろう。今は2021年の6月である。2023年末までに2回の利上げなどと言われても、2023年末とは、全く気の遠くなるような先の話ではないか...。


    FOMC後にバリュー株からグロース株へのシフトが起きている。アマゾン(AMZN)は再び3500ドルを目指す動き、マイクロソフト(MSFT)は260ドル台を回復、さらにはテスラ(TSLA)も600ドル台まで戻すなど、ハイテク株優位の情勢が復活している。


    ●S&P500グロースETF(緑)とバリューETF(赤)の推移
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    出所:ゼロヘッジ


    先週18日(金曜日)の「クアドルプル・ウィッチング・ディ(4人の魔女の日)」は予想通り動きが荒くなった。株式先物指数、株式指数オプション、個別株オプションの3つの取引が同時に清算されることを「トリプル・ウィッチング(3人の魔女)」と呼ぶが、この「トリプル・ウィッチング」に個別株先物を加えた全ての取引の清算が行われるのが「クアドルプル・ウィッチング」である。クアドルプル・ウィッチングは、3月、6月、9月、12月の第3金曜日である。

    ●2兆ドルを超えるオプションが18日(金)に期限を迎えた
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    出所:ゼロヘッジ

    市場ではFOMCの決定を受けて、2013年のテーパータントラムを警戒する声も出ているが、2年先まで利上げはないと明言したことで、むしろ再びハイテク株へと資金が振り向けられている。足元の動揺はクアドルプル・ウィッチングの需給的な影響によるところが大きいと言えるだろう。

    FRBのテーパリングはペーパータイガー?

    米長期債の利回りが低下している。FOMCを受けてのポジション調整もあろうが、米10年債の利回りは再び1.5%台まで下落している。また、30年債の利回りが急落している。この低下を受けて5年債と30年債の利回り格差は去年11月以来の低水準となっている。直近における長期金利と米国のCPI(5.0%)のギャップは3.5%と、1980年以来の高水準を記録している。


    ●実質10年債利回りの推移
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    出所:ゼロヘッジ


    ゼロヘッジの記事「Bank of America: Everyone Knows The Fed Will Stop Tapering As Soon As The S&P Drops 10%(バンク・オブ・アメリカ:S&Pが10%低下するとすぐに、FRBがテーパリングをストップするであろうことを誰もが知っている)」によると、このギャップは、投資家がFRBにはテーパリングをすることができないと見越している現れだとしている。

    記事によるとバンク・オブ・アメリカは、FRBのテーパリングについて市場が「ペーパータイガー(紙の虎)」にすぎないと見ているからだと指摘。投資家は何か市場に混乱が起きれば、FRBがテーパリングをすぐに撤回することを知っているとしている。「ペーパータイガー」は実際の中身は伴わないのに、威力があるような印象を与えることを表す表現である。

    市場では8月下旬のジャクソンホールでのテーパリングの計画に関する発表があるのではないかとも言われているが、労働市場の状況がFRBの利上げを困難なものにしている。労働力不足は特に中小企業において深刻で1974年以来最高となっている。

    ●中小企業の人手不足とインフレは1974年以来の高水準にある
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    出所:ゼロヘッジ


    FOMC後の記者会見でパウエル議長は、「現在は極めて異例の時期であり、このような状況に遭遇する経験のひな形はない」と述べた。FRBの当局者はこれまでコロナ禍を通じて、労働市場が完全雇用に戻るまで、事実上のゼロ金利政策を維持する公算が大きいとの考えを強調してきた。

    ご承知の通り、FRBの政策目標は「物価の安定」と「雇用の最大化」である。物価について思わぬオーバーシュートの懸念もあるなか、遅行指標である雇用をどのように成り立たせていくのか難しい舵取りを迫れている。

    完全雇用とは、インフレの上昇を抑えつつ、就職を希望する人が誰でも職につける状態を示している。遅行指標である労働市場を、何を持って完全雇用であると判断するかだ。コロナ禍における失業手当の州による割増分が徐々に削減される中、一部の州では期限ギリギリの9月まで実行されるとなると、失業率は秋口まで一定水準を下回らない可能性も残る。

    米セントルイス連銀のブラード総裁は、先週18日金曜日に「インフレの予想が米金融当局の2%目標を上回っていることを踏まえ、来年に利上げを開始するのが適切かもしれない」との考えを示した。これを株式市場は嫌気したと言われている。米国債市場で最も注目されている"風見鳥"(権力者の意向を伝える)ブラード総裁だが、最近はMMT的な政策を推進するハト派のブレイナード理事がFRBを束ねている。

    世界的にはテーパリングの波が押し寄せつつある。カナダやニュージーランドなどいち早く方向転換を示した国に加え、17日にはノルウェー中央銀行が9月に利上げをする可能性が高いとの認識を示した。暫定的な利上げサイクルが浸透しつつある中、現在の状態をFRBが持続すると仮定すれば、米国は世界的なサイクルからはかなり遅れることになる。口先ばかりでテーパリングを示したところで市場はそれを見透かしている。


    日経平均株価の売買シグナル(赤=買い・黄=売り)

    ●日経平均CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
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    ●日経平均CFD(4時間足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
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    ●MYダウCFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
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    ●日経平均CFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
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    ●NYダウCFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
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    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wpcomstaging.com/

    を参照されたい。

    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。