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「マーケットの最前線」

2021年4月26日

第241回「過剰流動性が覆い隠す2300兆ドルの時限爆弾を抱える市場」石原順

石原順 石原順

  • レバレッジは株式市場のセルオフを加速させる

    スイスの金融大手クレディ・スイスは22日、2021年第1四半期の税引き前損益が75700万スイスフラン(82597万ドル)の赤字だったと発表した。米アルケゴス・キャピタル・マネジメントに関連した損失計上を強いられたことが大きく影響した。ただ、先に発表していた見通しの約9億フランに比べ赤字額は小幅にとどまった。

    ロイターの報道によると、投資損失などで計上した費用は44億スイスフラン。これがなければ、税引き前利益は36億フランと、過去10年で最高益となるはずだったという。すでにアルケゴス関連の97%のポジションを解消しているとのことであるが、第2四半期にもアルケゴス問題は約6億スイスフランの影響を残すと予想されている。

    アルケゴス・キャピタルをめぐる一連の出来事は、改めてレバレッジの影響がいかに大きいかを教えてくれる出来事になったであろう。ファミリーオフィスという当局の監視の目をかいくぐり、無謀なレバレッジをかけ、投資家、スワップを仲介した銀行、対象となった株式の保有者に莫大な損失を与える結果となった。

    市場のレバレッジのほとんどは破裂してからその深刻さが明らかになる。現在、株式市場でどの程度のレバレッジがかけられているのか、その参考になるのがマージンデット(証拠金負債)である。マージンデットは、個人や機関投資家が保有する株式を担保に借り入れた金額で、市場全体のレバレッジの傾向を示すものである。米国の金融取引業規制機構であるFINRAが公開している。

    FINRAの最新の発表によると、3月のマージンデット残高は8225億ドルと前年比72%の増加となった。昨年から増加傾向は続いており、2021年の3ヶ月間だけでも239億ドル増と、とてつもない大きさとなっている。


    ●マージンデットの増減額(前年比)
    20210426①.png
    出所 WOLFSTREET


    ●マージンデットの残高とS&P500の推移
    20210426②.png

    出所:ADVISOR PERSPECTIVES


    上記のチャートはマージンデットの残高にSP500指数をオーバーレイしたものである。1995年以降、相場の大きなクラッシュは2度あった。①2000年のドットコムバブルの崩壊と ②2000年代後半の世界金融危機である。そしてそれらの前には、マージンデットが大きく膨らんでいた。レバレッジはセルオフを加速させる特徴を持っている。

    ①のケースでは、マージンデットが20002月にピークに達する。その6ヶ月後の20008月に株式市場はピークアウトし、2年ほど下落を続ける。

    ②のケースにおいては、20076月にマージンデットがピーク達し、株式市場は同じ年の10月、すなわち4ヶ月後にピークアウト、株式市場の調整は2009年まで続いた。

    現在、過去最大に膨らんだマージンデットと歴史上最長の強気相場という危うい組み合わせが続いている。誰もがいつまでこの市場が続くのか疑心暗鬼になりつつも、負債を膨らませながら市場へ参入している。

    現在、マージンデットは②のケースの5倍の水準にまで拡大している。もし株式市場が調整局面へと入った場合、①や②のケースのように市場は1年半から2年で底を打つのだろうか。繰り返しになるが、レバレッジはセルオフを加速させる。それが特徴だ。


    2300兆ドルの時限爆弾を抱える市場と「売り」の効用

    マージンデットだけではない。今や世界は債務でまみれている。ゼロヘッジの記事「The $2.3 Quadrillion Global Timebomb2300兆ドルのグローバル時限爆弾)」は、世界の債務、デリバティブ、未積立債務の合計が2300兆ドルと見積もっている。


    ●グローバルが抱える時限爆弾
    20210426③.png

    出所:ゼロヘッジ

    この負債に対し、これまで生産されたゴールドの在庫は198,000トン。金価格を1オンスあたり1,750ドルとした場合、価値にすると約11兆ドルと見積もることができる。

    ●世界におけるゴールドの在庫(198000トン)
    20210426④.png

    出所:ゼロヘッジ

    中央銀行(③)と一般の投資家(②)が保有するゴールドの合計は、77,000トン、額にすると4.3兆ドルとなる。負債全体の2,300兆ドルに対してわずか0.2%に過ぎない。金本位制ではないものの、世界の負債を支えるには明らかに少なすぎるのではないだろうか。例えば、負債総額の20%のゴールドが必要とすれば、それは0.2%の100倍、つまり金価格は175,000ドルになる。

    市場に対して長期的に強気になれない理由を数え上げたらキリがない。世界的な低成長、長期にわたる金融緩和、一部のハイテク企業を除いて企業収益は上がっていないことなど、将来のリターンは過去10年間に比べて明らかに低くなることを様々な要因が示唆している。

    レポートで時折引用しているリアル・インベストメント・アドバイスは「"This Is Nuts!" - Is BofA Right About A Market Drop To 3800?(「こんなことは狂っている」マーケットが3800まで下落するとしているBofAは正しいのか?)で、売りと利益確定を開始したことで、将来に向けて3つのメリットが得られたとしている。ここで改めて「売り」の効用を考えてみたい。

    ①株式のリスクが減り、キャッシュレベルが上がることで、ポートフォリオのボラティリティが下がり、投資資金を守りながら調整局面を乗り切ることができる

    ②現在保有しているポジションに、より良い価格で再投資するための資金を得ることができる

    ③価格が修正された新しいポジションを購入する

    市場がいつ急落するのか、そのタイミングを言い当てることは不可能だ。リスクは急にやってくる。買い一辺倒になっているからこそ「売り」について考えておくべきであろう。前述の記事からメッセージとして次の一文を引用する。

    「売る時には感情的にならないことが大切である。その代わりに、自分の投資規律と戦略に基づいて行動するべきだ。重要なのは、ポートフォリオ管理プロセスをできるだけシンプルに保つことだ。」

    日経平均株価の売買シグナル(赤=買い・黄=売り)

    ●日経平均(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
    20210426⑤.png

    ●日経平均(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
    20210426⑥.png

    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wpcomstaging.com/

    を参照されたい。

    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。