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「マーケットの最前線」

2022年8月22日

第310回「世界最大のヘッジファンドの最新動向」石原順

石原順 石原順

  • 中国株のポジションを減らしたブリッジウォーター

    米国株式市場に上場している株式を100億円以上運用する銀行やヘッジファンド、保険会社、年金基金等の機関投資家は、各四半期末から45日以内にどのような銘柄を保有しているのかについて、米SEC(米国証券取引委員会)に対してフォーム13Fと呼ばれる書式で報告する義務が課されている。

    今月中旬、2022年6月末時点のフォーム13Fの提出期限を迎え、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハザウェイやジョージ・ソロスのソロスファンド等、著名ファンドや投資家がどのような株式を保有しているかが話題となった。

    このフォーム13Fに関して注意しなくてはならないことがいくつかある。まず、機関投資家の最新のポジションを表している訳ではないということだ。6月末から1ヶ月半が経過しているため、保有株式に変化が生じている可能性が大きい。前四半期末までに大きなポジションを取ったものの、13Fが出る頃にはポートフォリオからそのポジションが外れていることもある。

    さらに対象となるのは米国株式市場に上場する銘柄に限られている。例えば、バフェットが日本の大手商社株を保有していること等については報告書には記載されていない。また、各ファンドはリスク分散のため国内外の株式や債券、また値動きの異なるREIT(不動産投信)やコモディティ等、投資対象が異なるファンドを売ったり買ったりすることで資産の分散を行っているが、これらはもちろん報告義務の対象外となっているため、このフォーム13Fから明らかになるのは機関投資家の投資活動のほんのわずか一部である。

    とは言え、こうしたことを前提とすれば、最も重要なファンドや著名投資家がどのような投資をしているのか、何をしているのかを知るのは見ているだけで面白いし興味深いのは確かだ。今回はレイ・ダリオが創設した世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの2022年6月末時点の米国株保有状況を見ていきたい。

    以下は2022年6月末時点のブリッジウォータの保有株トップ30(時価評価額順)である。個別銘柄のポジションで最も大きかったのはプロクター・アンド・ギャンブル(PG)で、6月末時点の保有時価は9億7000万ドル、株数にして約675万株を保有している。

    次いでジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)が7億6900万ドル、その他、上位にはコカコーラ(KO)、ペプシコ(PEP)、コストコ(COST)、ウォルマート(WMT)等、安定したビジネスモデルを持ち、高いブランド力を備えた米国のクオリティ株が中心だ。

    ●ブリッジウォーターの保有株トップ30(時価評価順)
    20220822_①.png

    出所:フォーム13F より筆者作成

    この第2四半期に新たに追加されたポジションは、EVのリヴィアン・オートモーティブ(RIVN)を約6万2800株、アマゾン(AMZN)約14万9000株。また、メタ・プラットフォームズ(META) 、アルファベット(GOOGL)、バークシャー・ハザウェイ(BRKK)、マスターカード (MA) については保有を積み増した。

    前回(3月末時点)と今回(6月末時点)とを比較して特筆すべき点は、アリババ (BABA) のポジションを売却したことだ。前回時点で保有していた750 万株近く、保有時価にして約8億1300万ドルをこの第2四半期に全て手放した。

    ●アリババ(日足)
    20220822_②.png

    出所:パンローリングカスタムチャート


    3月15日に安値をつけたアリババの株価は、そこから一時的に戻し120ドル台を回復するところがあったものの、直近では100ドルを下回る水準にある。アリババの大株主であるソフトバンク・グループが保有するアリババ株の売却を迫られる中、アリババ株に対する売り圧力は続いている。

    昨年、ブリッジウォーターは中国投資のためのファンドを立ち上げ、中国株の保有を大幅に増加させる等、中国投資に対して積極的な姿勢を示していた。しかし、マクロ的な観点で中国から発信される経済データは彼らを満足させるものではなかったのだろうか。今回の売却をみると中国に対する姿勢が微妙に変化してきているように思える。

    ブリッジウォーターが手放したのはアリババだけではない。第1四半期に815万株を保有していたディディ・グローバル(DIDIY)、約210万株を保有していたJDドットコム (JD) を売却、その他、ビリビリ (BILI)、ネットイース (NTES) も全て売却した。

    その一方で、テンセント・ミュージック(TME)のポジションについては前の四半期から約3%減少させたものの、約301 万株を継続保有している。さらに、バイドゥ(BIDU)については第 1 四半期末から保有を約1.5%増やし、約114万株保有している。

    一方で、ブリッジウォーターは欧州株のショートで利益を上げたようだ。

    「規制・監督当局への届け出に基づきブルームバーグ集計したデータによれば、同社が開示した欧州株のショートポジションは8億4500万ドル(約1140億円)相当と、6月時点の105億ドルから急減した。ショートにする欧州企業の数は一時28社に上ったが、フランスの工業用ガスメーカー、エア・リキードとスペインのサンタンデール銀行、INGグループの3社に減らした。ブリッジウォーターのショートポジションが株価の下落から直接利益を得ることを意図したものか、ポートフォリオの他の部分のヘッジ目的かについては明らかでない。ファンドの開示義務は主要なポジションに限られるため、全体のショートポジションはより大きい可能性がある。非公開情報を理由に関係者1人が匿名を条件に語ったところでは、ブリッジウォーターの旗艦ファンド【ピュア・アルファⅡ】は今年1~7月の運用成績がプラス21.5%だった。ブリッジウォーターの担当者はコメントを控えている」

    『欧州株ビッグショート、10億ドル未満と大半解消-ブリッジウォーター』(8月18日 ブルームバーグ)

    レイ・ダリオは2017年にブリッジウォーターのCEOの座を退き、その年に初の著書となる「PRINCIPLES(プリンシプルズ)人生と仕事の原則」を出版した。ブリッジウォーターを創設してから経験したいくつかの重要な局面を振り返りつつ、そこから得た普遍的な教訓をまとめ、自らの投資の基本原則を公開したものである。ベスト・プラクティスからプロセスを導き出すことは、リスク管理にとっても、コミュニケーションにとっても示唆に富んでいる。ダリオ氏がブリッジウォーターで成し遂げてきたことの根底には、彼独自の人生哲学がある。

    レイ・ダリオとブリッジウォーターは、自分たちが何をしているのかを明確に知っており、現在の市場全体とは異なる考え方で動いているようだ。

    「インフレ問題に対処するためには金利を上げる以外に答えはなかった」というポール・ボルカー


    「インフレファイター」として名を馳せたFRBの元議長、故ポール・ボルカーは、1927年、東部ニュージャージー州で生まれ、民間銀行のエコノミストなどの経験を経て、財務次官、ニューヨーク連銀総裁を歴任します。カーター政権下の1979年8月にFRB議長に就任、その後、レーガン政権になった1987年までの2期、FRB議長の職を務めた。

    2019年12月に92歳で亡くなったが、高齢になってもバスに乗ってオフィスに通うなど質素な生活をし、「公共」のために尽くす姿は、広く尊敬を集めたと言う。身長は2メートル、名実ともに偉大なパブリックサーバントだったと言われている。

    ボルカーがFRB議長に就任した当時、米国は2桁のインフレと失業率が続くいわゆるスタグフレーションの時期にあり、物価上昇をいかに抑えるかという難しい政策課題に直面していた。ボルカーはこの悪性インフレを抑えるために、世間からの反発を受けながらも、金融引き締め策を果敢に実行する。

    亡くなる年の2月に収録されたレイ・ダリオとの対談動画がyoutubeにアップされている。ダリオはボルカーについて最も偉大なヒーローの一人と紹介、当時の経済と米国政府の現状について、また、ボルカーのキャリアを導いたプリンシパル(原理)について取り上げている。

    インフレを抑えるための決意とリーダーシップ、当時どのような反発があったのかも含め、ボルカー自身が語っている。以下に一部簡約したものを掲載させていただく。

    レイ・ダリオ)金融政策をコントロールするという点で、あなたは国内、いや世界で最も強力な人物だった。1980年3月、14.8%のインフレに見舞われ、あなたは金融政策を引き締めた。M1の目標を5.5%に設定し、結果、金利は20%まで上昇した。

    金融を引き締め、失業率が10%まで上昇、大恐慌以来となる最悪の景気後退を引き起こした。反発があり、怒りがあり、あなたはそれらを受け止め、実行に移した。その結果、インフレに歯止めがかかり、1983年にはインフレ率が3%にまで下がった。そして、低インフレで力強い成長を続ける繁栄の10年間が始まった。

    どのようなビジョンが必要であり、そのビジョンを通じて、あらゆる反対にもかかわらず、戦い続けなければならなかった。今振り返ると素晴らしい成果だったと言われるリーダーシップの一例だ。しかし、当時、それは非常に困難なことだったに違いない。優れたリーダーシップの資質について教えてほしい。

    ポール・ボルカー)だいたい50年前のことで、全てインフレとの戦い、インフレそのものだった。私と同年代の人たちはほぼ亡くなり、当時、体験した雰囲気を覚えている人はいなくなっている。インフレ率は高く、10年以上にわたって、インフレに対処するための弱々しい取り組みが行われてきた。フォード政権時代、金融政策を引き締めすぎると失業者が出てしまう、という対立が常に存在していた。

    10年ほどそうした状態が続いた。さらにインフレと失業が進んだ。私がFRBを引き継いだのはカーター政権の時だった。カーター大統領は何も主導権を握れず苛立っていた。インフレが裏目に出て、予算で何もできず、エネルギー政策で何もできず、やりたいことがあっても、インフレへの恐怖で停滞しているようだった。

    FRBの議長にならないかと誘われた。既存の政策が機能していないのは明らかだった。私はアプローチを変えなければならないと思った。いつまでも失業率が上昇することを心配することはやめて、このインフレに対処しなければ、ますます悪化していくだろうと思った。年率15%近くになると、インフレは加速度的に進行する。そして、もし長くおろおろしていたら、20%になりそうだった。

    失業率が上昇するまでには実は時間がかかった。失業率は非常に頑固で、インフレ率も非常に頑固だった。私は、真っ向からぶつかっていく以外に、この問題に取り組む方法はないと思っていた。1982年に失業率が上昇し、インフレ率も下がらず、マネーサプライも思うように減らないため、ずいぶん心配になった。しかし、もう後戻りできない、そうでなければせっかくの努力が水の泡になってしまうと思った。

    幸いなことに1982年の夏にはマネーサプライが下がり、インフレ率も下がり、不況になった。その年の終わりには、不況が終わるか、少なくとも悪化は止まりそうな雰囲気になった。そして、不況はかなり早く収束した。最後の1年間は、仕事をするために粘り強さが必要だった。

    さて、不人気だったという話だが、その通りだ。農民たちの団体はFRBのビルの外でトラクターで走り回ったり、デモがあったりした。ある下院議員は2年間毎日、私の弾劾を求め続けた。しかし、国民全体、インフレが我々を追い詰めていることを理解していて、私が攻撃すべき問題に取り組んでいると考えて、あまり攻撃的にならずに、じっと我慢していたと感じていた。そして、私はより多くの支持を得たと思うし、実際そうだったと思う。その証拠に、このプロセスの最後に、私の再任が決まった。私は最初に指名され、満場一致だった。

    これは、当時は状況が良くなってきており、インフレ問題に対処するために必要なことを人々が容認していたということを公平に表していると思う。率直に言って、これ以外の答えはなかったと思う。大変な時代だったと私は自分を慰めた。他に答えがあったのか、どう思うか。

    レイ・ダリオ)当時、ポール・ボルカーは何を考えているのだろうと考えていた。インフレが14%になっているのだから、金利は上がらないとダメだった。そういう時代だった。その時代がどれほど困難なものであったかを、今の人々は理解していない。私たちは2008年を思い浮かべるが、1982年に失業率が10%に上昇した失業率が10%に上昇し、経済が急落したこと、それらすべての状況が2008年よりも悪かった。だから、金利の変動という点でもより劇的な時代だった。

    出所:「Ray Dalio & Paul Volcker on How Volcker Broke the Back of Inflation in the 1980's」 Principles by Ray Dalio(Youtube)

    インフレに対処するために非伝統的な政策を段階的に廃止し、政策金利を引き上げれば、大規模な債務危機と深刻な不況を引き起こすリスクがある。

    しかし、緩い金融政策を維持すれば、二桁台のインフレに陥り、次の負の供給ショックが発生したときに深いスタグフレーションに陥るリスクも高い。インフレについて過小評価している投資家は一段の波乱に直面するかもしれない。

    資産運用の究極の目的はインフレヘッジである。一方、デフレというのは現金のバブルであり、極端なことを言えば、資産運用は必要ない。投資家が直面している一番の問題はインフレだと思う。

    インフレはすべての人をより貧しくする。インフレが一時的なものではないことは明らかだ。それは金融市場にとっておそらく最大の脅威であり、一般社会に対してもそうだろう。

    日経平均とナスダック100の売買シグナル(赤=買い・黄=売り)

    ●日経平均CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
    20220822_③.png

    ●日経平均CFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
    20220822_④.png

    ●ナスダック100CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
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    ●ナスダック100CFD(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
    20220822_⑥.png




    日々の相場動向については、

    ブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wpcomstaging.com/

    を参照されたい。



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