マーケットレポート

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「マーケットの最前線」

2020年8月31日

第243回「給付金バブルが生み出した米国株式市場の2つの錬金術・ラリーの日経平均予測」石原順

石原順 石原順

  • 錬金術その①:一夜で上場企業に変身できる空の箱

    電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)のトラック開発を手がける米ニコラ社が6月4日、ナスダック市場に上場した。米EVメーカーのテスラの株式が登り歩調を強めていた中、同様にEV関連とされるニコラの株価も活気に沸き、一時、フォードモーターの時価総額を上回るところもあった。

    ニコラは2014年に創業、自動車業界における経験とは無関係のエンジニアを中心に採用し、従来の概念に囚われない技術開発を推し進めている。独ボッシュなどからも投資を受けており、市場では「第2のテスラ」と評され注目を浴びている。

    上場の際に明らかにした計画によると、2021年にバッテリー式電気トラックを、そして2023年には水素燃料電池トラックを生産する予定で、既に約1万4000台の受注を獲得しており、納車を完了すれば100億ドルの売上が見込めるとしている。現在、米アリゾナとドイツ南部のウルムに工場を建設している。

    工場を建設している?そう、つまりニコラは現在、まだ製品を生産しておらず、売上をあげていない。8月4日に発表した2020年第2四半期の決算によると、本業とは直接関係のない「Solar revenues(ソーラー関連の売上)」が3万6000ドルあるのみで、純損益は8664万ドルの赤字だった。

    投資家は、ニコラの製造、販売計画が予定通りに進むと信じ込んでいるようだが、果たして計画は想定通りに進むのだろうか。そしてそもそもなぜ、本業での売上のないような会社がナスダック市場に上場しているのか。そのカラクリがSPAC(Special Purpose Acquisition Company=特別買収目的会社)である。

    今回、ニコラは既にナスダック市場に上場していたSPACと合併することによって、短期間での上場を果たすことに至った。SPACは上場の時点で事業の実体を持たず、有望な会社をみつけて将来的に買収することを目的としている。買収先を特定していないことからブランクチェックカンパニー(白紙の小切手)と呼ばれている。投資家は箱だけの会社であるSPACによる買収の選別眼だけを信じて資金を託す。SPACは、買収した企業と統合することで単なる箱から実体のある企業へと変わる一方、買収された企業は一夜で上場企業に変身するのである。

    今年に入り、このSPACの上場が急増している。今年7月末の時点で51社のSPACが上場し、215億ドル(前年同期比145%増)を調達した。2019年は年間で51社が132億ドルを調達、さらにその前年(2018年)には35社が93億ドルを調達していた。


    ●米国SPACの資金調達が年初来、急増している
    ①米国SPACの資金調達 20200831.jpg
    出所:ゼロヘッジ

    日経新聞の記事「米で上場相次ぐSPAC 買収目的の「空箱」、2兆円調達 審査経ず、バブルの懸念も」によると、新型コロナの影響によってIPOの手続きが進みにくい中、上場を目指す企業はSPAC経由の上場に期待を寄せていると言う。その一方、SPACとの合併には「裏口上場」との批判があり、不正の温床になっているイメージもある。

    本来、上場する企業は収益の実績や事業計画、企業統治を整え、厳しい審査を受けなければならない。しかし、SPACとの合併によってその上場審査をスキップすることが出来る。このため、上場に値しない企業が交じる可能性もあり、市場の信頼を損なうことにもつながりかねないわけである。

    過去、同様にSPAC上場が急増したのは2007年だった。当時の米国は住宅ブームにわき、株式も高値圏にあり、陶酔感で満たされていた。その後、2008年には市場の崩壊とともにSPACブームも崩れ去ったが、それから10年あまり、当時と同様、あらゆる資産が過大に評価されている中で、SPACブームが再燃している。


    ●株式、債券、ゴールドを均等配分したポートフォリオは2008年以来で最も過剰評価されている
    ②株式、債券、ゴールドを均等配分 20200831.jpg
    出所:ゼロヘッジ


    錬金術その②:賭博に誘い込む初心者向けビジネス

    スマートフォンを使って株式取引をすることが出来るアプリを提供している「ロビンフッド」のバリュエーションが初めて100億ドルを超えた。新型コロナウイルスで外出が制限され、自宅で売買する個人投資家が急増する中、ロビンフッドに対する成長期待が高まっていることが改めて示された。

    ロビンフッドが今月実施した資金調達において2億円を集め、想定時価総額は112億ドルとなり、約1年前に比べて5割増となった。この水準は、米ネット証券大手Eトレード・フィナンシャル(118億ドル)に並ぶ規模で、日本の野村ホールディングス(約1兆8900億円)を数千億円下回るものの、日本のSBIホールディングス(約5700億円)を大きく上回っている。

    ミレニアル世代を中心に好まれているロビンフッドでは、この第1四半期だけで300万の新規口座が開設された。日経新聞の記事『米、スマホで株取引急成長、ロビンフッド、企業価値1兆円、20~30代の初心者中心、「高リスク」のひずみも。』によると、3月以降、インターネット証券における個人投資家の取引が急増していると言う。米ネット証券大手のTDアメリトレードの4月以降の1日の平均取引量は前年同期に比べて約3.3倍に、チャールズ・シュワブでも4-6月期2倍超に膨らんでいる。その中でもロビンフッドは群を抜いており、6月は1日の平均取引量が431万件と、取引量トップのTDアメリトレード(384万件)を上回った。


    ●S&P500の推移とオンライン取引量(EトレードとTDアメリトレード)の推移
    ③S&P500の推移とオンライン取引量 20200831.jpg
    出所:ゼロヘッジ

    アプリを利用して株式投資を行う個人投資家の急増は、株価上昇の一因になってもいる。背景にあるのは政府による景気刺激策である。過去の財政刺激策を示したものである。2020年の財政政策は戦時中を除く平時において過去最速かつ過去最大のペースで打ち出されたものであった。失業者の多くは政府からの支給が完全に格差を埋めたのである。

    こうした資金が金融市場に流れ込んでいる。政府はリアルのカジノを閉鎖する一方、人々に対して家に留まるように命令し、1200ドルの小切手を郵送し、株式市場を唯一開いている賭博場にしたのである。

    ロビンフッダー相場に理屈はない。過剰流動性がすべてだ。市場はアップルとテスラの分割期待でイケイケになっているが、特定の銘柄だけが買われているのが、ロビンフッド相場の特徴である。最近は新米デイトレーダーの投資指南として、ハウツー動画が人気になっているらしい。その講師は大学生だという。マイオピック(近視眼的)な賭博場と化した市場のロビンフッドブームは流動性バブルを象徴する現象であろう。


    ●財政刺激策は第二次世界大戦以来の規模
    ④財政刺激策 20200831.jpg
    出所:ゼロヘッジ


    ラリー・ウィリアムズの日経平均予測

    米著名投資家のラリー・ウィリアムズは日経平均のこの先の動きについては強気であるものの、しばらくはレンジ相場になるとみているようだ。

    「金曜日、首相の辞任表明をうけて、日経225は大きく下げました。しかし、予測していた通りの下げでした。今はどうでしょうか? 次はどうなるでしょうか?先週の金曜日、買いが少し入ってきていました。2●000エリアまで下げてくると、もっと買いが入ってくると思います。この辺りでバウンドしていますが、辞任のニュースを消化していくでしょう。●月中旬から後半にかけて、マーケットは上昇に転じると思います。それまではレンジ相場になるでしょう」と、述べている。

    ●ラリー・ウィリアムズの日経平均予測
    ⑤LW日経平均予測 20200831.png
    出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)2020年8月31日 ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載。



    日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。




    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。


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