マーケットレポート

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「マーケットの最前線」

2020年8月24日

第242回「給付金バブルでコロナ時代が黄金時代になった?・ラリーの日経平均予測」石原順

石原順 石原順

  • 米国企業は自社株買いの習慣を辞められない

    先週、アップルの時価総額が米企業としては初めて2兆ドルを超えた。これまで時価総額が2兆ドルに達した企業は、昨年12月にサウジアラビア国内の市場に上場した石油会社サウジアラムコがある。しかし、その後、アラムコの時価総額は18000億ドルまで後退しており、現在、アップルは世界で最も時価総額の高い企業となっている。

    ちなみに2兆ドルはどの程度なのか。世界銀行のデータによると英国のGDPは約2.9兆ドル(2018年)、カナダは約1.7兆ドル(2018年)である。欧米の国々が一年間に産み出すモノやサービスの付加価値の総計と引けを取らない規模になっている。


    7月末に発表されたアップルの第3四半期(4月−6月)決算は、製品とサービス両面で売上が伸び、2桁の増収増益となった。米中の緊張が高まる中、サプライチェーンを中国に依存しているアップルはその影響を受けるどころか、コロナ禍による巣ごもり需要を取り込み、好業績を叩き出した。また同時に14の株式分割を発表、株価を刺激する材料が続いた。

    さらに株価を刺激した材料がもう一つある。それは、アップルが投資適格級債権市場で55億ドルの起債を実施したことである。ブルームバーグの記事「アップルが55億ドルの起債実施、低金利の機会活用-関係者」によると、アップルによる資金調達は5月以来で、この時よりもさらに好条件(低金利で)社債を発行したと言う。アップルは調達した資金をこれまでと同様に自社株買いや配当支払いなどに利用するとしている。

    自社株買いと言えば、バークシャー・ハサウェイも先日、第2四半期に同社としては過去最高となる50億ドル分の自社株買いを実施した。バークシャーの積み上がった手元キャッシュがどのように使われるのかは、常に市場の注目を集めている。バフェット氏は過去には、そのキャッシュを「資本の山」と呼び、「生産的な運用資産への再投資は永遠に私たちの最優先事項であり続ける」と述べていた。また、5月にバーチャルで開催された年次総会では、株価は自社株買いをするようなレベルではないと述べていたが、株式市場全体に対して株価が遅れをとる中、この四半期で考えを変えざるを得なかったようだ。


    ●バークシャー・ハサウェイの現金ポジションとNYダウの推移

    20200824①.png


    3月に株価が大幅に下落して以降、ハイテクセクターを中心に自社株買いを発表し、それが株価の反騰を主導してきた大きな要因であったことは6月のレポートでもお伝えした通りである。

    セクター別過去3ヶ月の自社株買い発表(6月時点)
    20200824②.png


    出所:ゼロヘッジ


    通常、決算発表前後は自社株買いの自粛期間とされているが、その決算発表もピークを過ぎ、自社株買いの嵐がまた市場に戻ってきたようだ。米国企業はもはや自社株買いの習慣を止めるのができないのである。

    フィナンシャル・タイムズの記事「US companies cling to share buybacks despite collapse in profits(米国企業は利益が減少しているにもかかわらず、自社株買いに固執している)」によると、コロナウイルスの感染拡大をきっかけとした景気後退により企業収益が圧迫されているため、米国企業の多くが自社株買いの中止または削減を打ち出しており、今年は自社株買いの総数が減少すると予想されている。しかし、クレディ・スイスの集計によると、これまでに第2四半期の業績を報告したS&P500企業は、すでに発行済み株式数を前四半期から平均0.3%減少させていると言う。

    例えば、アルファベットは第2四半期、自社株買いに69億ドルを費やした。これは前年同期比92%増となる。また、マイクロソフトは同じ期間中に自社株58億ドルを購入(前年同期比25%増)、製薬会社のバイオジェンは28億ドルの自社株買いを実施(前年同期比17%増)した。

    S&P500
    企業の中でもとりわけ大規模な自社株買いを実施してきたのがアップルで、同期間に160億ドルの自社株買いを実施した。JPモルガン・アセット・マネジメントによると、自社株買いは「どこでも起こっているわけではない」が、「特定のセクターや銘柄に牽引されている」と言う。また、金融・素材企業は、3月の安値以降、他のセクターの企業ほど株価が上昇していないため、景気後退の中でも買い戻しに積極的である可能性があるとも指摘している。

    新型コロナウイルスの感染が拡大し、その影響をまともに受けたボーイングや航空会社が税金による救済を求めていた頃、そうした企業が過去、フリーキャッシュフローの多くを自社株買いに費やしていたことが明らかとなった。こうした流れを受け、一時、自社株買いに対しては疑問を呈する指摘もあった。しかし、今やそうした議論は完全に忘れ去られ、企業はすでに自社株買いを再開しているか、あるいは検討している。半導体大手のインテルに至っては100億ドル規模の自社株買いを発表した。

    FRB
    が金利をゼロに引き下げ、信用市場は機能不全に陥っている。企業の借入コストはこれまでにないレベルにまで下がっており、企業は資金調達のバランスを負債にシフトすることに熱心になっている。アップルの2019年末のキャッシュポジションは約2070億ドルであった。有り余る手元資金を持ちつつさらに社債を発行している。現在進行中の史上最大のバブルは債券市場なのである。


    給付金バブルでコロナ時代が黄金時代になった?

    ウィルスの感染拡大によって経済活動が一時シャットダウンされ、制限が続く米国において労働市場は引き続き不安定な状態が続いている。仕事がない、あるいは仕事を休まざるを得ない人々は大きな影響を受けたと想像されるが、実際には、一部の失業者は通常の所得を上回る給付を手にしている。

    以下のグラフは、過去の財政刺激策を示したものである。2020年の財政政策は戦時中を除く平時において過去最速かつ過去最大のペースで打ち出されたものであった。失業者の多くは政府からの支給が完全に格差を埋めたのである。


    ●過去の財政刺激策
    20200824③.png

    出所:ゼロヘッジ

    政府による巨大な「特例収入」によって、米国の4月の個人所得は前月比で10.5%増え、5月の個人消費は8.2%増と持ち直した。ウォルマートやターゲット、アマゾン、ホームセンターのホームデポやロウズと言った小売業者は、いずれも市場予想を上回る四半期業績を発表した。

    消費者はパンデミックが収まるまで給料や景気刺激策の資金を節約するだろうと考えられていたが、それは杞憂に終わったようだ。屋内に閉じこもり、行き場のない消費者の需要がどれほど旺盛になるのか、市場は予想できなかった。小売売上高は、旅行、娯楽、レストランへの支出が急激に減る一方で増加している。

    しかし、これまでの失業給付の特例措置は7月末で終了した。トランプ大統領は、8日、失業給付の上乗せなどに関する大統領令に署名したが、上乗せ額は週400ドルと、従来から200ドル減少する。コロナウイルスの感染拡大が収束するまでの特例措置であるが、感染が数年にわたり続いた場合、政府はどこまでこの綱渡りを続けることができるのだろうか。大きな課題は、政府による景気刺激策が完全に終了した後、こうした売上が持続可能なのかどうかである。

    ラリー・ウィリアムズの日経平均予測

    米著名投資家のラリー・ウィリアムズは、日経平均は不安定な動きになるとしながらも、この先は売りシグナルを探しているようだ。「反発して買われ過ぎになるのを待ちます」と述べている。

    「惜しむらくは日経平均も市場間予測に従っているようで、ここでは価格が下がることを示唆して、● 月後半に底をつけています。短期的には、この市場は反発して買われ過ぎになるのを待ちます。そして、売りシグナルを探します。よく見ると 6 月以降、同じゾーンで取引されています。そのため、極端に買われ過ぎになるか、もしくは、売られ過ぎになるまでは大きな上げも下げも起きないと思います。コマーシャルズはかなり強く売っています。そして、マーケットは下げてきましたが、彼らはまだ積極的に買っていません。そのため、不安定ながらも下落基調で推移するでしょう」

    ●ラリー・ウィリアムズの日経平均予測
    20200824④.png

    出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV2020824日 ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載。

    日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。


    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。

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