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「マーケットの最前線」

2020年8月17日

第241回「貿易戦争は最終的にプラザ合意2.0に至る!?・ラリーの日経平均予測」石原順

石原順 石原順

  • FRBのお粗末な投資収益率

    民主党のバイデン大統領候補のランニングメイトとなる副大統領候補がカマラ・ハリス上院議員に決まった。これから11月の大統領選挙へ向けて両陣営間で激しい選挙戦が繰り広げられることになる。世論調査などではバイデン氏の優勢が伝えられているが、新債券王のガンドラック氏は、大統領選の日までには多くのことが起こり得ると述べ、「ジョー・バイデン氏が11月にドナルド・トランプ氏を打ち負かすだろうか。私はそうは考えない。私はそうでない方に賭けたい。われわれが暮らしている非常に有害な政治環境のせいで、世論調査は極めて当てにならない」と発言した。

    選挙は水物であり、どちらが大統領になるかの予想はここではしない。しかし、どちらが大統領になろうと次期政権にとって、パンデミックを契機に綻びが吹き出した米国経済を立て直すことが最重要課題の一つであることは間違いない。

    一国の経済状況を推し量る上で重要な要素の一つは、「経済の体温」とも言われる物価である。長引く物価の低迷と低成長の波が米国にも押し寄せつつある。GFC以降、過去10年あまりにわたりFRBは物価の安定と雇用の最大化を御旗に掲げ、資産市場と経済を支えるために、終わりのない緊急措置に踏み込んできた。しかし、その政策対応が成功したとは言い難い。

    米労働省が12日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)は、前月比0.6%上昇と、市場予想(0.3%上昇)を上回った。新型コロナウィルスの感染拡大の収束にめどが立たない中、CPIは低下することが予想されていたが、前月(6月)と同水準を維持し2ヶ月連続のプラスとなった。ガソリン価格が5.6%上昇した他、家賃は0.2%上昇、医療費や通院費も上昇した。

    報道では、FRBがインフレ指標として特に注目しているコアCPIが前月比+0.6%と予想外に上昇し、1991年1月以降29年ぶり高水準となったことで、FRBのインフレ目標である2%に近づいたと報じられている。

    先月のFOMC後の記者会見でパウエル議長は「利上げを考えることを考えることさえ考えていない」と、当面大規模緩和を維持する方針を改めて表明した。パンデミックによる、経済のシャットダウンや停滞がインフレどころか、ディスインフレをもたらすと当局者は考えている。

    その一方、FRBの大規模な資産購入や連邦政府の赤字拡大によって、景気の低迷とインフレが同時に起こるスタグフレーションを警戒する声も出始めている。足元のCPIが思ったほど悪くないとした場合、今後、経済成長を伴った物価上昇となるのか、それとも経済成長を伴わない物価上昇となってしまうのか、そして中央銀行は物価をコントロールすることができるのだろうか。

    リアルインベストメントアドバイスの記事「Fed Wants Inflation But Their Actions Are Deflationary(FRBはインフレを望んでいるが、その行動がデフレだ)」から、いくつかのチャートを抜粋しつつ探っていこう。

    以下の表は、FRB のバランスシートの拡大と経済のいくつかの側面に対してどれだけの影響があったかを示したものである。2009年1月以降、FRBのバランスシートは約612%拡大したが、GDPの累計成長率(2020年第2四半期まで)はわずか34.83%の上昇にとどまった。そして1ドルのGDP成長を生み出すのに、FRBは17.58ドルの支出を行う必要があった。

    賃金は34%増、消費者支出は41%増、企業利益は47%増、一方、フルタイムの雇用は約4%しか増えていない。それぞれの増加に対してFRBが支出をした額は17.78ドル、14.73ドル、フルタイム雇用に至っては181.04ドルを要している。FRBのROI(投資収益率)はお粗末過ぎである。


    ●FRBのROI(投資収益率)
    ①FRBのROI(投資収益率) 20200817.png
    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

    中央銀行が大量の流動性を投入したことによって成功しているように見える唯一の側面は、株式市場であろう。2020年第2四半期までで、株式市場は2007年のピーク時から135%近く戻ってきた。これはGDPの伸び率の約12倍、企業収益の約3.6倍となっており、株式市場が実態経済を反映していないことを顕著に表している。

    ●2007年以降のS&P500(オレンジ)とGDP(紫)、企業収益(青)の推移
    ②S&P500(オレンジ)とGDP(紫) 20200817.png
    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

    この資産効果の恩恵を受けているのは経済全体の中でもごく一部に過ぎない。上位10%の高所得者が株式市場の87%近くを占有しており、格差は広がり続けている。


    ●1989年以降、トップ1%の富裕層の人々の資産は300%近く増えている
    ③トップ1%の富裕層 20200817.png
    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

    FRBの緊急措置によって大量の資金が市中に放出され続けているものの、その恩恵を受けているのは株式市場だけであり、その株式を多く保有している富裕層だけが資産を増やしていると言ういびつな構図である。中央銀行の金融緩和はこれをさらに悪化させているだけのことに過ぎないのである。


    なぜ中央銀行は物価をコントロールすることができないのか?

    そもそも物価の安定とは、インフレを抑えることを想定したものであったのが、近年では世界的にデフレが加速する中、デフレ懸念を払拭し物価を一定水準まで引き上げることを目指すようになった。しかし、実際に中央銀行が行っている行動はデフレをさらに誘発することになっている。なぜなら、金融政策の資金として借金が必要になる場合、金融政策はデフレ的プレッシャーになるということを世界の中央銀行は把握していないからである。

    このことは貨幣数量説で明らかである。貨幣数量説とは、一般的な物価水準は貨幣供給量(マネーサプライ)と生産量との相対的な大きさによって決まるとする考え方で、フィッシャーの交換方程式「貨幣供給量×貨幣流通速度=一般物価×生産量」で説明される。もとは古典派経済学の考え方で、生産能力の拡大がない状態で貨幣供給量を増やすと、その分一般物価が上昇しインフレを招くことを示したものである。

    その貨幣流通速度が、金融政策の介入の度に鈍化している。


    ●FRBの金融政策(青)と貨幣流通速度(オレンジ)
    ④金融政策(青)と貨幣流通速度(オレンジ) 20200817.png
    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

    ●貨幣流通速度(青)と債務(オレンジ)の比較
    ⑤貨幣流通速度(青)と債務(オレンジ) 20200817.png
    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

    さらに、経済活動を刺激しようと中央銀行は金利を抑制し続けているが、金利を下げても経済活動は刺激されなかった。それどころか、「債務負担」が経済活動を悪化させた。赤字が減少したり、黒字に反転したりすると、貨幣速度は上昇している。金利が下がれば経済活動に拍車がかかるという考えは、ある意味では正しかった。しかし、現在のように債務負担が大き過ぎる場合、いくら金利を下げ貨幣流通量を増やしたところで物価は上がらない。

    全体の物価が上がらない一方、家計にとって直接の支出となる分野でのインフレ圧力が存在する。これらの分野の価格上昇は消費需要を抑制してしまう。以下に示した消費者物価指数の内訳を見れば、過去5ヶ月間のインフレ圧力が、食料品や医療費で大幅に価格が上昇していることがわかる。


    ●分野別CPIの推移
    ⑥分野別CPIの推移 20200817.png
    出所:リアル・インベストメント・アドバイス

    残念なことに医療保険料の上昇は生産を押し上げることにはならず、むしろ消費の支出能力を消耗させてしまう。住宅費もまた、インフレ圧力を押し上げているが、「ヘルスケア」コストと同様にい消費支出能力を抑制する方向に働く要素であり、可処分所得を食い潰している。中産階級・ワーキングプア世帯にとって、家賃・エネルギー・医療・食料は消費総額の8~9割を占めているとの調査もある。

    貨幣速度はすでに何年も前から鈍化しており、コロナウィルスに端を発したロックダウンによって、現在、貨幣流通速度は崩壊し始めている。悲観的な見方が広がれば、流通速度はさらに低下すると予想される。FRBは、2%のインフレ目標を達成するためのプログラムに熱心に取り組んでいるが、つまり、これまでも、そしてこれからも借金がなければ、有機的な経済成長は成し遂げられないのである。借金を増やしても借金問題を解決することはできない。

    この莫大な借金を背景にドルの基軸通貨としての足元が揺らいでいる。

    あちこちでバブルとその崩壊を繰り返す2000年以降の経済や成長と失業の停滞に対処するためには、米ドルにもそろそろ通貨の切り下げが迫っているということであろうか?ゴールドマンのジェフリー・カリーは、「ドルの切り下げはFRB(米連邦準備制度理事会)の議題にしっかりと載っている」と述べている。そしてそれは「基軸通貨としての米ドルの長期性に関する本当の懸念が浮上し始めた」ということを意味している。

    筆者は以前より、貿易戦争は最終的にプラザ合意2.0に至ると指摘してきた。次の大統領がどちらになろうと、次期政権では積み上がった借金をどうするのかと言う大きな壁にぶち当たることになるだろう。


    ラリー・ウィリアムズの日経平均予測

    米著名投資家のラリー・ウィリアムズは、中期的な日経平均の動向を弱気にみているようだ。

    今週のラリーTVでは、

    「市場間予測テクニックは少し反発して ● 月と● 月にかけて下降しています。この市場でのコマーシャルズは先週、買っていて底値をつけていました。彼らは今、売り手にまわっています。このマーケットは下落していくと思います」

    と述べている。


    ●ラリー・ウィリアムズの日経平均予測
    ⑦ラリー・ウィリアムズの日経平均予測 20200817.png
    出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)2020年8月17日 ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載。



    日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』
    https://ishiharajun.wordpress.com/
    を参照されたい。




    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。

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