「マーケットの最前線」
2021年4月 5日第238回「10月末買い・4月末売りと4月相場のアノマリー」石原順
石原順
4月相場は強気だが、セオリーは「10月末買い・4月末売り」
株式投資をする場合、基本的に10月から12月の押し目を拾って来年の4月までに手仕舞えば、運用リスクを減らすことができるという実感が筆者にはある。巷には多くの「パターン分析」、「サイクル論」、「アノマリー」などがあるが、「10月末買い・4月末売り」ほど、長期にわたり有効性を発揮している戦略を筆者は他に知らない。
昨年の10月末買いは現状、功を奏しているが、「10月末買い・4月末売り」が成功するか失敗するかに関して、筆者はあまり気にしていない。この手法が失敗する事も当然計算に入っているからだ。失敗への対処法として、大きな損失が発生しないようにストップロス注文を置いている。備えあれば憂いなしだ。
「10月末買い・4月末売り」という半年投資が相場に有効かどうかは様々な見方があるが、50年以上の母集団に対して「10月末から4月末までの半年間のパフォーマンス」が「4月末から10月末までの半年間のパフォーマンス」を上回っていれば有効である。過去のデータを見る限り、「10月末買い・4月末売り」というパターンの優位性は現在も継続している。
予測というのは数学ではなくアート(芸術)である。ずいぶん昔に『ラリー・ウィリアムズの相場で儲ける法』(日本経済新聞出版社)という本を読んで驚いたことがあったが、相場には実に多くのアノマリーやバイアスが存在する。ある時期は神がかり的に当たるが、外れ出すとしばらく止らなくなるのがアノマリーやバイアスである。有名なアノマリーとして「1月効果」や「月末効果」などがあるが、近年はその有効性も低下している。しかし、「10月末買い・4月末売り」という半年投資だけは、近年も有効に機能し続けている。
●日経平均CFD(週足)
●日経平均のシーズナリーチャート(過去20年の平均)
出所:エクイティクロック
●NYダウのシーズナリーチャート(過去20年の平均)
出所:エクイティクロック
ここで、より詳細な米国株(S&P500)のシーズナリーサイクルを紹介しよう。分析者は親子二代にわたって米国株のシーズナリーパターンを研究しているジェフリー・ハーシュである。彼は『トレーダーズ・アルマナック』という会社をやっていて、日本ではパンローリングから翻訳レポートも出ている。
下のチャート "1949 年以降の S&P 500 のシーズナルパターン"を見ればわかるように、3 月 15 日を境にした最近の弱さは、歴史的な季節の流れに沿ったものである。今週の弱さは、先月説明したように、トリプル・ウッチングの翌週の典型のパターンであり、ストック・トレーダーズ・アルマナック(STA)2021 年版にも詳細が記載されている。今日の終盤の反発は励みになるが、3 月の最後の数日間は第 1 四半期末の売り圧力に屈することが多く、3 月下旬の弱さは、4 月上旬に回復することが多い。
このような第 1 四半期末のプレッシャーが軽減されれば、4 月はいつものようにアップサイドのパフォーマンスが期待できる。実際、最近の弱さは 4 月の上昇パターンに適している。4 月の上昇相場では、ベスト 6ヶ月間の MACD シーズナル売りシグナルがしっかりと設定されることになる。過去 31 年間で S&P 500 の損失は 7 回のみで、4 月は安定したパフォーマンスを示している。4 月は第 2 四半期の最初の月であり、新たな決算シーズンを迎える。これにより、新型コロナウィルスの影響を受けた昨年の数字よりも前年比が改善し、株価の上昇が期待される。
出所:トレーダーズ・アルマナック 3月29日号
S&P500のシーズナルパターン
出所:「トレーダーズ・アルマナック」・成田博之
債券市場は夏の強気相場に突入?
グッゲンハイム・インベストメントのCIO、スコット・マイナード氏が米長期金利の見通しについて他とは異なる見方を示していることを以前のレポートで取り上げた。
マイナード氏はグッゲンハイム・インベストメントのレポート「A Drunk Man in the Snow: The Random Walk of Interest Rates(雪の中の酔っぱらい:金利のランダムウォーク)」で、パンデミック下におけるデフレを経験した後のため、対前年同月比のインフレ率は高くなりがちであるが、この動きはあくまで一過性のものであり、基調的なインフレ上昇ではないと指摘した。
政府による財政支援策などによって市場は現金の洪水であふれ返っているため、短期金利は低下している。その結果、10年物国債金利に下向きの圧力をかけ、現在の利回りを持続不可能にする可能性があるとの見方である。
10年国債利回りの回帰モデルにおいて、利回りは通常2標準偏差範囲内にとどまる動きになっている。雪の中で酔っ払った男が左右にドリフトするため、各ステップはランダムになるが、彼は常に家の方向に向かっているとしてランダムウォークを説明した。
●10年債利回りの回帰モデル
(紫:10年債利回り 青:モデルからの予測値 グレーの網掛け:2標準偏差)
出所:グッゲンハイム・インベストメントリフレ圧力が高まっており、高い金利への懸念が市場に蔓延している。間違いなく、物価はパンデミック後の安値から回復するであろうが、経済の大部分における余剰能力と高水準の失業を考慮すると、インフレ率の上昇は一時的なものである可能性が高いとするものであった。
S&P500指数が初めて4000ポイントを上回り、米国株式市場が再び騰勢を強めている。米長期金利が1.6%台に低下したことでハイテク株も息を吹き返しつつある。
預金・株・債券・為替・コモディティ・不動産など世の中には様々な金融商品があるが、これらはすべて同じものである。すべての金融商品の値段はキャッシュフローの集合体の現在価値、簡単に言うとすべて「債券」に置き換えられる。
例えば、ドル/円レートは米国の国債と日本の国債の交換、株式は償還期限のない債券である。不動産価格も収益還元法という利回りで決まる。要するにこの世のすべての金融商品は「金利」というファクターでみるとすべて同等に扱える。
前述のグッゲンハイム・インベストメントは債券がこれから強気のシーズンに入ると指摘している。株式市場にシーズナリーがあるように債券市場にも季節的なパターンが存在する。これから夏に入る数ヶ月は平均よりも強いリターンとなる傾向がある。つまり債券価格は上昇し、金利は低下する傾向にあると言うことだ。
次のグラフは、2010年から2019年までの米10年債利回りの月次の変化を示したものである。10年債の利回りは、9月から3月の期間は上昇し(債券価格は下落)、4月から8月の間は低下する(債券価格は上昇する)傾向がある。利回りが低下する期間における累積利回り変化の中央値は-30ベーシスポイントに対し、利回りが上昇する期間の中央値は+30ベーシスポイントだった。
また、分布には偏りが見られ、債券価格が最も上昇した月は8月で、最大の月間利回りの低下は-59ベーシスポイントに達している。
●2010〜2019年の10年間の利回りの月次ベーシスポイントの変化
グレー:レンジ 濃いグレー:インタークオタイルレンジ(四分位範囲) 紫線:中央値
出所:グッゲンハイム・インベストメント
債券市場が強気のシーズナリーに入るとすれば、株式市場には追い風となるのか?
マーケットウォッチの記事「The Dow just beat the Nasdaq by the widest margin in a month since 2002.(ダウは2002年以来、月間でナスダックを大きく上回った。)」によると、過去20年間をたどると、4月は株式にとっては強気の月になる傾向があるとのこと。LPLファイナンシャルのチーフマーケットストラテジストが示したデータでは、4月は過去15年間のうち14年間で株価の上昇を示したとのこと。
3月はグロース株からバリュー株へのローテーションが進み、ダウ平均はナスダック総合指数に対して10年ぶりに最大の月間アウトパフォーマンスを記録した。ダウジョーンズマーケットデータによると、ナスダックに対してダウが6.21パーセントポイント上回るのは、2002年2月以来とのことである。なお、このパフォーマンスは翌月も続く傾向があるそうだ。
●ダウVSナスダック指数
出所:マーケットウォッチ
これらはあくまでシーズナリーや傾向を示したものであり、相場がこの通りに動くわけでは決してない。足元ではアルケゴスを巡る金融機関の損失問題が浮上し、再び市場の足元がぐらついている。
アリアンツのチーフエコノミックアドバイザーのモハメド・エラリアン氏は、ヤフーファイナンスのインタビューで「われわれはシステム全体に影響を与える可能性のある事故に再び遭遇した。システムに大量の流動性が投入されると、過剰な、場合によっては無責任なリスクを取ることがわかる」と述べた。
過剰流動性によって相場が大きく歪められている現在、思ってもいないようなところから問題が噴出してくる可能性もある。シーズナリー的には債券も強気(金利は低下)、株式市場も堅調が想定されている。日経平均株価の売買シグナル(赤=買い・黄=売り)
●日経平均(日足)標準偏差ボラティリティトレードの売買シグナル
●日経平均(日足)メガトレンドフォロートレードの売買シグナル
日々の相場動向については、
ブログ『石原順の日々の泡』
https://ishiharajun.wordpress.com/
を参照されたい。
石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファン ドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市 場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当 する現役ファンドマネージャーとして活躍中。