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「マーケットの最前線」

2020年5月18日

第228回「株式のリスク・リターン比は最悪!米経済のV字回復見通しは空想か?」石原順

石原順 石原順

  • 経済と企業収益と株価の関係

    5月12日からNY連銀による社債ETF(上場投資信託)買いが始まったが、株式市場が再度の大幅安に見舞われれば、「なし崩し的に株価インデックスETFも買うのではないか?」という観測が出ている。米国株式市場は、失業率が急上昇し、経済指標が悪化しているにもかかわらず、溢れる流動性とFRBがさらなる資産購入に踏み切るのではないかとの観測を背景に、経済再開への期待が先走りする格好となっている。

    働くよりも連邦政府と州のコロナ失業給付金をもらった方が、収入が増える米国人が多い。そして失業したミレニアル世代の人達は、コロナ失業給付金でFAAMG(フェイスブック・アマゾン・アップル・マイクロソフト・グーグル)やビットコインを買っているのだという。ナスダック総合指数の時価総額はMSCIワールドの時価総額を上回る水準となっており、ハイテク株に資金が集中している。

    ●ナスダック指数の時価総額とMSCIワールドの時価総額の比率
    ①ナスダック指数とMSCIワールドの時価総額 20200518.png
    出所:ゼロヘッジ

    一般的に株価は経済の先行きを反映すると言われ、実態の経済情勢に半年から一年先行すると考えられている。株価を動かす要因は景気や金利、地政学リスクと言ったマクロ的なものから、需給、さらには個別企業の業績やM&Aのようなミクロ要因まである。多様な考え方を持つ多数のプレイヤーが市場に参加することで様々な情報が反映された価格形成がなされる。

    1947年まで遡ると、S&P500市場の平均EPS成長率は年率で6.21%、S&P500は年率平均8.74%上昇、GDPの年成長率は平均6.47%となっており、企業収益、資産価格、そして経済成長の間には関連性があることがうかがえる。


    ●企業収益と資産価格と経済成長の関係
    ②企業収益と資産価格 20200518.png
    出所 Real Investment Advice

    しかし、なにかしらの理由により株価を動かす要因が歪められたり、投資家の心理が強く反映されたりすると、短期的には株式市場が企業収益や経済成長と言ったファンダメンタルズから切り離されることも少なくない。市場はロジック通りには動かず、不合理に見える時がある。

    まずは、企業収益と経済成長の関係から見ていこう。1960年代から70年代にはGDPよりも企業収益が伸びていたが、企業収益がピークに達した1965年頃を境に急激に落ち込んだ。一方、80年代から90年代にかけて企業収益よりもGDP成長率が高かった時期が続き、その後、2000年のドットコムバブルへと進んでいく。指標のピークとその後の反転は、株式市場に引き起こされる修正の先行指標と言える。


    ●企業収益と経済成長の関係
    (オレンジ線:GDPに対する実質利益率  青線:S&P500)
    ③企業収益と経済成長 20200518.png
    出所 Real Investment Advice

    次にS&P500インデックスと企業収益の累積変化を比較したものである。かい離が大きくなるとどこかの時点で修正が起こり、それぞれが収斂している。


    ●S&P500インデックスと企業収益の累積変化
    (青線:実質利益の累積変化  オレンジ:S&P500の累積変化)
    ④S&P500インデックス 20200518.png
    出所 Real Investment Advice

    ●GDPに対する資産価格と収益レシオ
    (オレンジ:GDPに対する資産価格と収益レシオ  青:S&P500 オレンジ点線:GDPに対する資産価格と収益レシオの移動平均線)
    ⑤GDPに対する資産価格 20200518.png
    出所 Real Investment Advice

    また、S&P500が資産価格と収益レシオの長期移動平均線から大きくかい離すると、その後、大幅な修正が起きている。株式市場を動かす最大の要因は企業収益であり、企業収益、資産価格、そして経済成長の間のかい離は無期限には続かない。

    大統領選挙まではトランプ米大統領が下げを抑え込もうとするので、下げも緩慢な相場になるかもしれない。それでも10年間積み上げてきたモンスターバブルの崩壊が3割程度の下げですむわけがないと思われる。QEインフィニティという流動性が人工的に相場を支えるのは限度があるだろう。

    筆者は米国株が底を打ったという確信が持てない。この相場には2番底、あるいは3番底というさらなる調整が潜んでいるように見える。大恐慌の再来とQEインフィニティ(無限大量的緩和)のなかで、売るのも買うのも難しい不確実性の相場環境が到来している。ドラッケンミラーは、米経済のV字回復見通しを「空想だ」と述べている。

    伝説的ヘッジファンド運用者のスタン・ドラッケンミラー氏は、米経済のV字回復見通しを「空想」だと述べ、株式のリスク・リターン計算はこれまでの職業人生で見た中で最悪だと語った。

    ドラッケンミラー氏は12日にエコノミック・クラブ・オブ・ニューヨークが主催したオンラインイベントで、当局の景気刺激プログラムでは世界経済が見舞われている問題は解決できないと指摘。「市場では『心配ない。 米金融当局の支援がある』というのがコンセンサスのようだ」が、「唯一の問題は、われわれの分析ではそれは真実ではないということだ」と述べた。

    同氏はさらに、トレーダーは「非常に潤沢な」流動性が提供され、米経済の問題を解決する上で刺激策の規模は十分大きいと考えているようだが、新型コロナウイルスによる影響は長期にわたって続く公算が大きく、経営破綻が相次ぐとの見通しも示した。「自分の見方が間違っていると願うが、V字回復は空想だと考える」と付け加えた。

    ドラッケンミラー氏のこうした見方は、米国が直面する暗い見通しに関してウォール街の重鎮がこれまで発した中で最も強いものの1つだ。同国では新型コロナ感染拡大で経済が停滞、信用市場が立ち往生、史上最長の強気相場が終了したにもかかわらず、米S&P500種株価指数は3月の安値から30%近く回復した。米金融当局による緊急プログラムや政府の経済対策などが背景だ。
    出所:(5月13日ブルームバーグ 「ドラッケンミラー氏、株のリスク・リターンは職業人生の中で最悪」)


    「安定は不安定を招く。事態がよりしっかりと安定し、事態がより長く安定しているほど、危機が起きたとき、より不安定になるのだ」
    ハイマン・ミンスキー(米国の経済学者、1919~1996年)

    「安定を理想とするのは誤りだ。不安定は資本主義のドラマに必要不可欠な部分である。景気循環の下降局面には、経済を再び清潔かつ誠実なものにする役割があるからだ。下降局面を抑えようとすると上昇局面を押さえつけてしまうことになる」
    ジム・グラント(米国の金融著述家、1946年~)(1996年発言)

    「忘れてはならないのは、過去6~8年にわたり世界中の金融政策が安定論者の助言に従ってきたことである。その結果、すでに十分な害が及んでいる。とっくに連中の影響を排除しておくべきだったのだ」(1920年代半ばから30 年代初めの金融政策について1932年発言)
    フリードリヒ・ハイエク(オーストリア学派の経済学者、1899~1992年)


    「マネーサプライの爆発的な増加は米国経済に何をもたらすのか?」

    米FRBのパウエル議長は、13日に開かれたピーターソン国際経済研究所のオンラインセミナーで講演し、米経済が前例のない下振れリスクに直面していると指摘し、財政および金融当局がこの試練に立ち向かわなければ、家計や企業に長期的な打撃を及ぼす恐れがあるとの見解を示した。パウエル氏は「より深く、より長い景気後退」は「経済の生産能力に永続的なダメージを与える」傾向があり、米国は「低生産性成長と所得の停滞の長期化」を危険にさらしたと警告した。

    また「追加の財政出動にはコストが伴う可能性があるが、長期的な経済的打撃の回避に寄与し、一段と力強い回復を遂げられるのであればその価値はある」とし、大量の経営破綻や失業といった事態にならないようさらなる対応を迫られる可能性を指摘した。

    トランプ大統領が言及したマイナス金利の導入について、パウエル氏は「米国では魅力的な金融政策ではない」として、導入の可能性を明確に否定したが、FRBによるさらなる対応は米国経済に壊滅的な影響を及ぼす可能性もある。ゼロヘッジの記事「QE Defender - Stop The QE Insanity: Helicopter Money And The Risk Of Hyperinflation(QEディフェンダー-QEの狂気を阻止する:ヘリコプターマネーとハイパーインフレのリスク)」から一部抜粋してご紹介しよう。

    この2か月間、世界の主な中央銀行と政府は、破壊の瀬戸際にある市場と経済に対して、前例のない規模で金融と財政による介入を行ってきた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、現在の大規模で広範囲にわたる量的緩和、資産購入、経済的救済策を実行する口実となったが、今回の市場への介入規模と範囲はあまりに大きく、現在、市場はまちがいなく壊れている。ある場合には米国連邦準備制度と欧州中央銀行が彼らの購入するアセットのスケールの大きさにおいてそれ自身が市場を形成しているようになってしまった。

    重要なのは、金融面と財政面の両方で、市場と経済全体にわたる公的な介入の洪水が今や世界最大のモラルハザード問題を引き起こしており、投資家と経済主体は中央銀行と政府が常に資産価格を支え、セクター全体(銀行、航空会社、不動産など)を救済することで救いの手を差し伸べるということであり、将来の危険な行動に対して個々が責任を持たなくて良い環境を作っていることだ。同時に財政および経済システム全体にとってひどいことになっている。

    ●M2(マネーサプライ)の推移
    ⑥M2の推移 20200518.png
    出所 セントルイス連銀

    FRBのバランスシートは2月末の4.17兆ドルから現在6.4兆ドルに急上昇した。3月以降2.2兆ドルの増加し、FRBのバランスシートが50%拡大した。


    ●過去5年間のFRBのバランスシート(総資産)
    ⑦FRBのバランスシート 20200518.png
    出所 セントルイス連銀

    3月と4月のFRBによるこの前例のない無制限の新しいQEは、米国のマネーサプライの巨大な爆発となった。それはM2(現金、定期預金、MMFなども含まれる)の莫大な増加をもたらした。そこには下支えする経済成長はない。こうした動きは将来的にドルの通貨価値の破壊につながりかねない事態である。


    ラリー・ウィリアムズの日経平均予測

    米著名投資家ラリー・ウィリアムズは、「日経平均はS&Pを追うような動きです。どちらのマーケットも同じパターンですが、シーズナルは下降中です。あまり買いが入ってきていません。買われ過ぎでも、売られ過ぎでもない状態です。マーケットは狭いレンジで横ばいに進んでいます。アメリカの株式市場に起きることが日本の株式市場でも起きると思います」と、現在のマーケットはニュートラル(中立)であるとみている。

    シーズナルパターンが弱いが、ラリーはまだマーケットに対して強気でみているようだ。「上昇トレンドラインを保つのか、下にブレイクしてしまうのか」が、短期的なポイントになるという。


    ●ラリー・ウィリアムズの日経平均予測
    ⑧LW日経平均予測 20200518.png
    出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)2020年5月18日 ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載。



    日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』

    https://ishiharajun.wordpress.com/

    を参照されたい。




    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。

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