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「マーケットの最前線」

2020年4月13日

第224回「もう一生危機はないが生み出した史上最大の危機!1987年型かそれとも1929年型か!?」石原順

石原順 石原順

  • 「もう一生危機はない」が生み出した史上最大の金融危機?

    先月末開催された米ブルッキングス研究所のオンラインイベントで、前FRB議長であるジャネット・イエレン氏が「この景気後退は急速で鋭く、米国がこれまで経験したことのないものである」と述べた。また、現段階では、景気後退の深さがどのくらいになるかを知ることは不可能で、急速な下落に続いて急速な景気回復が続く、いわゆるV字型の回復への期待は最良のシナリオであると述べた。

    一方、U字型の回復になるかもしれないし、または急速なリバウンドが見込めない恐ろしいL字型の回復につながる可能性もあると指摘した。2014年から2018年にかけてFRBの議長を務めたイエレン氏は、第2四半期の経済活動は年率で20%減少する可能性があり「被害が長期化して不況につながる可能性があることを心配している」と語ったという。

    思い出して欲しい。2017年の強気相場の中、金融システムの安定に関する質問に対し、前回の危機後の規制が金融機関をはるかに「より安全で健全」にしたと答え、その結果、「二度と金融危機は起きないと言えるだろうか?いいや、それはおそらく言い過ぎだ。しかし、われわれははるかに安全だと思うし、私はそれが私たちの生涯にないことを願っているし、そうなるとは思わない。」と述べたのは、当時FRBの議長の職にあったイエレン氏であった。

    しかしそれから、3年も経たないうちに、FRBは金融市場の安定化のため、これまでにない大規模かつ大胆な介入を実施しており、とうとう中央銀行であるFRBが一般企業への融資など新型コロナウイルスに対処する2兆3000億ドル(約250兆円)の緊急資金供給策に踏み込んだ。

    一般企業には民間銀行を通じて6000億ドルを資金供給し、1年間は無利子とする。7500億ドルの資金枠を設けて大企業などから社債の買い取りも開始。資金繰り難の企業に中央銀行がマネーを供給する異例の措置に乗り出す。

    最大の柱は、従業員1万人以下の一般企業に、民間銀行を通じて6000億ドルを融資する制度で、民間銀行が一度、融資したのち、その95%分はFRBが設立する特別目的事業体(SPV)が買い取ると言う、事実上、民間企業に直接資金供給する緊急措置である。

    一方、主に大企業向けには7500億ドルの資金枠を設けて、社債の買い取りに乗り出す。格付けの高い企業向けであるが、対象は償還期間が最大5年の社債で、中銀として一定のリスクを負う。これまでは償還期間の短いコマーシャルペーパー(CP)の買い取りにとどまっていた。景気対策では米財務省が航空会社の資金繰りを直接支援し、FRBの社債購入はホテルチェーンや小売業などほかの産業が中心となりそうだ。

    州政府など地方債の買い取りなどにも5000億ドルを充てる。州政府は医療設備の整備などで財政負担が増しており、FRBが直接資金支援する。消費者ローンや中小企業の設備などを担保にした資産担保証券(ABS)の買い取りも拡大する。米連邦政府の中小企業向け融資の支援なども含めて、資金規模は2兆3000億ドルとなる。

    2兆ドルの景気対策ではFRBに4500億ドルの資金を提供し、4兆ドルのマネーを最終的には供給するとしていた。FRBは同資金でSPVを設立し、政府マネーを損失の吸収材として使いながら企業などに資金供給することを想定している。今回の措置は当面は2兆ドル強でスタートするが、資金需要が大きければ規模を拡大する方針だ。
    (日本経済新聞2020年4月9日「FRB、一般企業に資金供給 2兆ドルの緊急措置発動」)


    ●FRBのバランスシートはさらに拡大することになろう。すでにバランスシートは前回の金融危機を大きく上回る水準まで膨らんでいる。
    ①FRBバランスシート 20200413.jpg
    出所:ゼロヘッジ

    イエレン氏は、「非金融企業は莫大な負債を抱え込んでこの危機に陥った。それが今回の脆弱性である。彼らは過度に借金をしていた」と述べた。そして企業は新たな投資と言った生産的な目的のためではなく、自社株買いをして株主に配当金を支払うためにその資金を使った。そして、こうした企業が借入を増やす一方、投資家はガードを下げて高収益を狙ったと指摘した。

    さらには、企業の債務の盛り上がりが「経済のリスクを作った。これから数か月後に間違いなくリスクを感じるだろう。そしてそれは企業のデフォルトの波が引き起こす。たとえ企業がデフォルトを回避する場合でも、非常に負債の多い企業は通常、投資と雇用の多くを削減し、それは過剰な負債を持った状態からの回復をより困難にする」と述べた。

    こうした行動を10年以上にわたりFRBが助長して来たことはすっかり忘れてしまったようだ。FRBによってもたらされた低金利を背景に企業のレバレッジはかつてないほどに高まっている。WSJ紙は、このイエレンの発言について、銀行と金融セクターは「一般的に良好な状態であった」とした上で、彼女の専売特許であった「もう一生危機はない」といった馬鹿げた予測をイエレンが言う一方で問題はすでに形づくられていたとし、そして今、近づきつつある壮大なクラッシュを引き起こした彼女はもう正確には過去を議論することができないようだと指摘している。

    イエレン前FRB議長の負の遺産を引きついだパウエルFRB議長は、株式市場が停滞するたびに、催促相場に追い込まれるだろう。


    1987年パターンか、それとも1929年パターンか!?

    過去のスペイン風邪などの事例を見ると、疫病の感染は第1波で終わることはなく、今後、秋口から第2波が襲ってくる可能性も否定できない。

    今、運用者の間で注目されているのは、「現在の急落相場は経済危機に発展しなかった1987年のブラックマンデーパターンなのか、それとも1929年の大恐慌パターンなのか?」という問題である。PKO(価格維持操作)と自律反発でリバウンドした後の展開が問題になる。


    ●2020年と1987年のS&P500の短期アナログモデル(パターン分析)
    ②2020 1987アナログモデル 20200413.txt.png
    出所:ゼロヘッジ

    2020年と1929年のS&P500の短期アナログモデル(パターン分析)
    ③2020 1929アナログモデル 20200413.png
    出所:ゼロヘッジ

    2020年と1929年のNYダウの長期アナログモデル(パターン分析)
    ④2020 1929長期アナログモデル 20200413.png
    出所:ゼロヘッジ


    NYダウと日経平均のテクニカル分析

    大恐慌の研究家として知られるバーナンキ元FRB議長は4月7日のブルッキングス研究所で行われたイベントで、「新型コロナウイルス感染拡大抑制策で経済活動が停止する中、米経済は第2・四半期に30%を超えて縮小する恐れがあり、経済が立ち直るまでに数年かかる可能性がある。過去の事例を踏まえると、回復が続く期間は2007―2009年の世界的な金融危機後の回復期と比べると格段に短くなると予想。米経済は回復するが、数年間の回復はわずかなものになる。新型コロナワクチンの実用化は早くて1年先とみられる中、今後のウイルス感染の推移が不況の期間や深刻さを決定づけるとし、新型コロナを終息に持ち込めれば、経済はもちろん急速に回復するが、実際には経済活動の再開は段階的とならざるを得ないとみられ、感染が再び拡大した場合、経済の再開は先送りを余儀なくされる恐れがある。」(4月8日 ロイター「米4-6月期GDPは3割縮小、バーナンキ氏予想 回復まで数年も」)と、述べた。

    米国では、「そろそろ新型コロナウイルスの感染者数もピークアウトするのではないか?」という思惑と、FRBの不制限介入で、足元のNYダウは半値戻しを達成した。米国株の派生商品といわれる日本市場の日経平均もそれに連動した。しかし、ここからさらに戻すことが出来るのか、正念場に差し掛かっているといえよう。


    ●2020年5月までのCOVID-19の感染予測
    ⑤COVID19感染予測 20200413.png
    出所:covid19.healthdata.org

    過去のスペイン風邪などの事例を見ると、疫病の感染は第1波で終わることはなく、今後、秋口から第2波が襲ってくる可能性も否定できない。


    ウイルス感染の収束パターン
    ⑥ウィルス収束パターン 20200413.png
    出所:ゼロヘッジ

    どこかで新型コロナウイルスの感染症がピークを迎えて経済活動が再開されたとしても、50まで減った売上高が100に戻るのか?という問題がこれからは重くのしかかってくる。80までしか戻らないとして、日本企業の損益分岐点比率が75%だとすると、単純計算で減益率は80%になる。企業は強力な固定費削減に乗り出すだろう。経済にかなりの下押し圧力がかかりそうだ。


    ●NYダウ(日足)
    標準偏差ボラティリティが低い位置から上昇する場合は、相場が保ち合いを離れ強い方向性をもつシグナルとなる。一方、標準偏差ボラティリティとADXがピークアウト(天井をつけ下落)すると、トレンド期とは逆方向にバイアスがかかった「横ばいレンジ内での乱高下相場」となりやすい。
    上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
    下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)
    ⑦NYダウ日足 20200413.png

    ●日経平均(日足)
    標準偏差ボラティリティが低い位置から上昇する場合は、相場が保ち合いを離れ強い方向性をもつシグナルとなる。一方、標準偏差ボラティリティとADXがピークアウト(天井をつけ下落)すると、トレンド期とは逆方向にバイアスがかかった「横ばいレンジ内での乱高下相場」となりやすい。
    上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
    下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)
    ⑧日経平均日足 20200413.png


    一目でわかる米国の景気拡大・縮小シグナル

    4月7日のブルームバーグの報道によると、JPモルガンのストラテジスト達(ミスラフ・マテイカ、プラバブ・バダニ、ニティア・サルダナ)は、「自然災害など一時的な出来事の後には通常V字回復が見られるが、今回は漸進的なペースでしか米国経済は底を脱することはないとみている。テクニカルな面で売られ過ぎている水準や日ごとに膨れあがる政策支援という材料だけを見て株式に買いを入れようとするのは重大な点を見逃している恐れがある。つまり消費者と労働市場が11年ぶりの下降局面にあるということだ。テクニカルな面で売られ過ぎている水準や日ごとに膨れあがる政策支援という材料だけを見て株式に買いを入れようとするのは重大な点を見逃している恐れがある。つまり消費者と労働市場が11年ぶりの下降局面にあるということだ」(米国株、新型コロナ危機では逃避先にならない可能性-JPモルガン)と分析したという。

    以下のチャートは、筆者が使っている「一目でわかる米国の景気拡大・縮小シグナル」で、米国の失業率のデータから、米国の景気拡大期と縮小期のシグナルを発生させている。

    ●米国の失業率と景気後退シグナルとNYダウの推移
    上段:NYダウ(緑)・米国の失業率(青)
    下段:サイドバー 赤:景気拡大期 青:景気縮小期
    ⑨米失業率と景気後退しぐなる 20200413.png


    米国の景気拡大期と縮小期のシグナルにNYダウのチャートをプロットしたのが、上のチャートである。基本的に、個人投資家は無理をせず、景気拡大期間(サイドバーの赤の期間)だけ、株のインデックスを買っていればよいのではないだろうか。景気縮小期は相場の暴落に巻き込まれる確率が高くなるからだ。

    今月、上のチャートの下段のサイドバーが赤から青に転換した。これから、米国経済は景気後退期に入る。チャートのサイドバーが赤から青に転換すると相場の大きな下げに注意が必要となる。

    株は買いから入る投資家が圧倒的に多い。しかし、個人投資家は危ないときに無理をして中長期タームの投資すべきでないだろう。ここからしばらくは、トレーディングベースの短期売買でしのぐ時期に入る。



    日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』
    https://ishiharajun.wordpress.com/
    を参照されたい。




    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。

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