マーケットレポート

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「マーケットの最前線」

2019年12月 2日

第205回「われわれはいまどこにいるのか?巨大債務危機の全体の姿」石原順

石原順 石原順

  • POMOに演出された感謝祭ラリー

    米国株は感謝祭の前後に強い買いの季節性バイアスが確認されている。米国株は再び、最高値を更新、ここまではアノマリー通りの動きと言えるだろう。感謝祭シーズンでの消費が堅調となれば、年末にかけて株価の上昇パターンとなることも想定されるが、今年は米国各地、悪天候に見舞われている。少なくとも2つの大型低気圧が発生し、米国各地で暴風や大雪が襲い、帰省の足にも影響が出ているという。実店舗を持つ小売企業にとっては痛手となりそうだ。

    米金融当局はバブルの延命のために2つの措置を打ち出してきた。

    (1)9月中旬のレポ市場危機以降、NY連銀が実施している臨時の資金供給オペを来年1月まで継続する。(いわゆるPOMO[恒久公開市場操作])

    (2)FRB(連邦準備制度理事会)は10月中旬以降に月600億ドルの短期国債の購入を開始し、これを少なくとも2020年の第2四半期まで継続する。

    米国は2019年10月15日から米国債の購入を再開した。QE3(量的緩和第3弾)が終わってから5年で、米国は量的緩和に戻ることとなった。連銀がQEをやめてQT(量的引き締め)を5年続けた結果、9月中旬にレポ市場で金融危機が起きたことから、OMO(公開市場操作)をPOMOに変えて、金融危機を防ごうというのが今回の量的緩和再開の背景だ。

    FRBのパウエル議長は、「今回の措置はQE4ではない」と述べており、正式名称は「準備金管理(Reserve Management)」である。米国の株式市場はFED(連邦準備制度)連銀の総資産と連動しており、資産と負債を両方膨らますというバブル延命策が打ち出されたため、とりあえずは「カネ余り」という楽観論で高値を更新している。


    ●FEDのバランスシート
    ①FEDのバランスシート 20191202.jpg
    出所:ゼロヘッジ

    ●NYダウ先物(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
    ②NYダウ先物日足 標準偏差VM 20191202.png
    出所:パンローリングカスタムチャート

    ●ドル建て日経平均先物(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
    ③日経平均先物日足 標準偏差VM 20191202.png
    出所:パンローリングカスタムチャート

    しかし、米国企業の業績はこの第3四半期に足踏み状態に入っている。

    おおむね出そろった主要企業の2019年7~9月期の決算発表を見ると業績は好調とはいえない。調査会社リフィニティブが実績と市場予想を組み合わせて算出したところ、6日時点で7~9月期の純利益は前年同期比0.7%の減益。10~12月期の純利益見通しも0.8%増にとどまり、7月時点の7%増から大きく切り下がっている。業績が株価上昇に伴っていない状況だ。一方、業績悪化にもかかわらず株価が上昇するケースが散見される。その代表例が建機大手のキャタピラーだ。7~9月期決算は1株あたりの利益が前年同期比8%減となり、19年12月期の通期見通しも引き下げた。中国での販売減少などが目立った。しかし、株価は決算発表した10月23日に1%高となったほか、6日までに9%上昇している。

    「業績と株価の乖離は、ドットコムバブルを思い起こさせる」。米証券ミラー・タバックの株式ストラテジスト、マシュー・マリー氏は業績に見合わない株価上昇に警鐘を鳴らす。90年代のドットコムバブルでは、ITベンチャーの成長期待から株価が急上昇し、業績と株価の乖離が拡大。しかしバブルは崩壊し、株価が大きく崩れた。

    マリー氏によると、19年はS&P500種株価指数が2割上昇したのに対して、企業業績は1%程度の増益にとどまっており、これほどの乖離はそう多くないと指摘する。
    日本経済新聞2019年11月7日「米国株、業績乖離にバブルの危うさ」

    S&P総合500のPERは足元で19倍超まで上昇している。他の主要国に比べて高い米国株のPERは、米国企業の業績と経済が高成長することによって裏打ちされてきた。企業業績を伴わないFRBによるQEだけが頼りの上昇相場に危うさを感じざるを得ない。


    ●S&P500のバリュエーション(valuation)
    本来の企業価値に対して、株価が相対的に割安か割高かを判断するための指標
    ④SP500バリエーション 20191202.png
    出所:ゼロヘッジ


    消費者のセンチメントは強気、企業CEOは弱気

    企業CEOのセンチメントが落ち込んでいる。CNBCの記事「A top JP Morgan banker says CEOs tell him they are worried about 2020 despite stocks' record highs(JPモルガンのトップバンカー、CEOは株価が過去最高を記録したにもかかわらず2020年を懸念していると語る)」によると、CEOの多くが世界経済の成長鈍化、米中の貿易戦争、米国大統領選挙と言った不確実性によって、利益成長が継続的にもたらされるのかについて懸念しており、その結果、2020年の設備投資が抑制されていると言う。

    こうした不確実性は、異常な状況を生み出しており、米カンファレンスボードによると、CEO信頼感指数はこの10年で最も低い水準に落ち込んだ。その一方で、賃金の上昇や失業率が50年ぶりの水準に低下していることなどによって、消費者は楽観的になっている。消費者信頼感指数は関税の影響にもかかわらず、米国経済を景気後退から守るのに役立ったが、それがどこまで継続するかは不明である。

    この2つの指数はいずれも50を上回ればポジティブで、下回ればネガティブと判断されるが、第3四半期のCEO信頼感指数は34と、金融危機のあった2009年第1四半期以来の最低となっている。リセッション入りを示唆する水準である43を大きく割り込んでいる。


    ●消費者と違って企業のCEOの信頼感は過去10年で最も低い
    ⑤CEO信頼感 20191202.png
    出所:CNBC


    タックスロス・セリングのシーズン到来

    28日、トランプ大統領が香港人権法案に署名し、米中の争いはいよいよ人権問題へと発展するのかと懸念された。しかし、感謝祭の祝日で休場だった米国市場を除く日欧のマーケットは、比較的それを冷静に受け止めた。また当の中国においても香港ハンセン指数、本土株指数もともに小幅な下落にとどまった。

    署名を受けてトランプ大統領は声明を出し、「習近平国家主席と香港の人々への敬意をこめて署名した。中国や香港の指導者たちが立場の違いを友好的に乗り越え、長期的な平和と繁栄につなげられるよう願っている」として、中国への配慮を示した。貿易をめぐる米中合意の第一段階が近いとされていたところで、米中合作のドラマにまた新たな展開が加わった。ここまで来ると、合意は「するする詐欺」と言われても仕方ないだろう。この米中合作ドラマは最後の最後まで二転三転し、観ている者をハラハラさせたいだけなのかもしれない。

    12月に年度末を迎える米国で、この時期指摘されるのが「タックスロス・セリング」である。日本においても年度末になると一部銘柄において節税対策の売りが出る。米国株はこれまで高値を更新してきており、キャピタルゲインを享受した投資家も少なくないだろう。年末までに含み損となっているポジションを外して損を確定させ、実現益と相殺し、少しでも納税の負担を軽くしようとする動きである。

    相場が高値圏で横ばいの推移となっているところでは、売り手が余裕を持って売ることができるため、タックスロス・セリングが出やすい地合いとも言えるだろう。例えば、上場後、株価が冴えないIPO銘柄等は売りが加速する可能性がありそうだ。


    これから「金融政策の暖簾に腕押し期間」が到来する!?

    バンク・オブ・アメリカのトミー・リケッツ 、マイケル・ハートネットらのストラテジストが今後数年の間に中央銀行が「ひもを押す=Pushing on a Stringという「政策の無能」に陥るというレポートを書いた。また、アリアンツ首席経済アドバイザー モハメド・エラリアンは、「今起こっているのは、基本的にFRBが暖簾に腕押し=Pushing on a Stringになってしまったということだ。ここから50%超の確率で世界の株価が大きな調整を迎える」と述べている。

    1500億ドル(約16兆円)の資産を運用するヘッジファンド運用者で資産家レイ・ダリオはアメリカの株式相場が下落すると予想している。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アメリカの主要な株価指標であるS&P500か欧州のユーロSTOXX50のいずれか、もしくは両方が来年3月までに下落した場合に利益が出るオプション取引に10億ドル(約1080億円)以上を投資したという。

    レイ・ダリオは、これはポートフォリオのヘッジであり、ヘッジファンド運営会社ブリッジウオーター・アソシエーツで株下落を予測したポジションは建てていないと述べている。22日にはリンクトインへの投稿で、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事が「誤り」だと指摘、「株価下落を見込んだネットポジションは一切組んでいないことを明確にしておきたい」と言明した。しかし、これを真に受けている投機筋は少ないようだ。レイ・ダリオは明らかにディフェンシブな姿勢をとっている。

    ヘッジファンド運用者で資産家のレイ・ダリオ氏は11月5日、世界経済におけるフリーマネーの逆説について「世界は狂いシステムは壊れた」と歯に衣着せぬ見出しのエッセーをリンクトインに投稿した。投資会社ブリッジウオーター・アソシエーツの創業者のダリオ氏は「資金と信用力がある人にはマネーは基本的にフリー(無利息)だが、金と信用力のない人には本質的に利用できない。これは富と機会、政治的な格差拡大の要因だ」と指摘した。ダリオ氏は同日、米コネティカット州で開かれた「グリニッチ・エコノミック・フォーラム」で経済的不平等は「国家的な非常事態」になったと発言していた。(ブルームバーグ 2019年11月6日 )

    レイ・ダリオは過去にあった債務危機として1935~1940年と2008~2009年の2つの期間を取り上げて、この期間には「政府が紙幣を増刷」、「資産の値段が上昇」、「市場が上昇」そして「貧富の差が拡大」し、さらに今の環境はポピュリズムが台頭した1935〜1940年に似ているとして、さらに、現在の経済格差が過去最大になっていることを大きな問題として指摘している。ある一部の裕福層だけが資本主義の恩恵に預かることができていて大衆はその恩恵に預かることができておらず、広がり続けている経済格差は大きな社会的・政治的問題になると警告したのである。

    われわれは市場経済サイクルの今どこにいるのだろうか?歴史から学ぶという点では、市場経済サイクルというのは、毎回異なった側面があっても必ず同じ段階を踏むとして、6つ(7つ)の段階を指摘している。 

    その循環段階を、彼が2018年9月に出版した著書 "A Template For Understanding Big Debt Crisis"(巨大債務危機を理解するためのテンプレート)」より確認してみよう。

    6つ(7つ)の債務サイクルを示したものが以下のチャートである。上段はそれぞれの段階における株価の動きで、下段はGDPに対する債務総額の割合(青線)とGDPに対する債務返済総額の割合(赤線)を示している。


    ●レイ・ダリオの市場経済サイクルの6つ(7つ)の段階
    ⑥レイダリオサイクル 20191202.png
    出所: "A Template For Understanding Big Debt Crisis"

    ① 「The Early Part of the Cycle(循環の初期段階)」
    債務の伸びは収益を下回っており、債務は増えているが成長を生み出すためにファイナンスされている。債務負担は低くバランスシートは健全、債務の伸びと経済成長、インフレ率がちょうどいい水準にあり、ゴルディロックスの状態。

    ② 「The Bubble (バブル期)」
    この段階になると債務の伸びが収益を上回り、資産価格の上昇と成長が加速する、収入の伸びと資産価格の上昇によって借り入れ能力が上がるので、このプロセスは一般的に自己強化されていく、しかし、返済に必要な収入より債務の増加スピードが早くなるので、この状況はサステナブルではない。

    ③「The Top (ピーク期)」
    レバレッジが高まり、資産価格のオーバープライスが起こり、反転の機が熟すタイミングとなる。反転のきっかけの多くは、中央銀行が金融引き締めを始め、金利を引き上げることから始まる。この期間の初期段階では、クレジットシステムの一部は苦しいが、その他は強さが残っており、経済の弱さは明らかになっていない。このため、中央銀行は金利を引き上げて引き締めに動く一方、景気後退の種がまかれることになる。貸し出しがが弱含み、短期金利は株式市場が高値をつける数ヶ月前にピークとなる。

    ④ 「The Depression(景気後退期)」
    金融政策が効果を出しているならば、債務とその返済に必要な資金との間の不均衡は金利を引き下げることによって是正される。しかし、不況期にはすでに金利がほぼ0パーセントに近いところまで低下しているため、金融政策が効力を持たない。に流動性の問題を抱えているような貸し手(金融機関)等、債務デフォルトとリストラがあらゆるところで見られるようになる。

    ⑤ 「The Beautiful Deleveraging(美しいデレバレッジ期)」
    紙幣の増刷(マネタイゼーション)や通貨の切り下げ等といった景気刺激策によってデフレ的なデレバレッジの圧力がオフセットされる。名目金利を上回る名目成長率がもたらされるが、この段階ではまだインフレが加速するようなことにはならない。デフレ不況から脱する最善の方法は、中央銀行が適切な流動性と信用サポートを供給することである。

    ⑥ 「Pushing on a String(暖簾に腕押し期)」
    長期にわたる債務循環の後期。金利をいくら引き下げ、資産をいくら買い入れたところでその効果は限定的となり、中央銀行は政策の転換という現実に直面する。1930年代の状況を目の当たりにした政策当局者は"pushing on a string"という言葉を用いた。

    ⑦「Normalization(ノーマリゼーション期)」
    システムが通常に戻り、経済の回復基調と資本形成がゆっくり行われる。経済活動が以前のレベルに戻るには10年ほどかかる。




    石原順 プロフィール
    1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
    相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。

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