「マーケットの最前線」
2017年12月25日第107回「ATRチャネルで相場の天底をとらえる・ドル/円の1月相場反転はあるのか?」石原順
石原順
ATRチャネルで相場の天底をとらえる
ATR(アベレージトゥルーレンジ)はTR(窓開けを含めた1日の最大値幅)の平均である。ATRチャネルは動的に変化する予想レンジであり、利食いや相場反転のポイントとして、筆者にとっては有効なツールとなっている。
下のチャートは、過去X日間のATRを過去X日間の加重移動平均線にプロットしたものである。3本のATRのバンド幅はATRの1.6倍、3.2倍、4.8倍である。このATRチャネルは、すべての市場と時間枠(タイムフレーム)に拡張が可能である。
ATRチャネルは、筆者が相場の天井と底の発見、すなわち、相場の転換点をとらえるのに用いている道具(ツール)で、相場がATRバンドの3.2倍の外(オレンジの帯)にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い。筆者はこの<ATRチャネルトレード>という売買手法を株価指数・通貨・商品市場の4時間足以下のタイムフレームで頻繁に使っている
●日経平均CFD(日足)
上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
相場がATRバンドの3.2倍の外にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い=黄色の丸枠の部分
●日経平均CFD(4時間足)
上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
相場がATRバンドの3.2倍の外にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い=黄色の丸枠の部分
●日経平均CFD(1時間足)
上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
相場がATRバンドの3.2倍の外にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い=黄色の丸枠の部分今年のドル/円相場は年を通じてレンジ相場となりほとんど動かなかったが、ATRチャネルトレードは好循環が続いている。
●ドル/円(日足)
上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
相場がATRバンドの3.2倍の外にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い=黄色の丸枠の部分
●ドル/円(4時間足)
上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
相場がATRバンドの3.2倍の外にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い=黄色の丸枠の部分
●ドル/円(1時間足)
上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
相場がATRバンドの3.2倍の外にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い=黄色の丸枠の部分12月のクリスマスラリーとサンタクロースラリー
米株式市場はクリスマス前に上昇する傾向を持っている。これは、クリスマスラリーと呼ばれている。米株式市場にはもう一つサンタクロースラリーというのがある。『Stock Market Cycles: How To Use Them for Short and Long Term Profits』(「アノマリー投資-市場のサイクルは永遠なり」ジェフリー・A・ハーシュ著 パンローリング刊)の著者ジェフリー・A・ハーシュの定義では、「サンタクロースラリーとは、12月の最後の週に始まって、新年に値が決まる指標」である。この時期は大型株より小型株が上がりやすいという傾向がある。
●クリスマスラリー(1927-2017)
(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析・ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載)S&P500とジャンク債の大きな乖離(ダイバージェンス)
ゴルディロックス相場が続いているが、気にかかるのは "炭鉱のカナリア"と呼ばれるジャンク債の動向である。新債券の帝王ジェフリー・ガンドラックは「S&P500は大幅に上昇している。しかし、ジャンク債ETFは横ばいだ。これは異常だ。注意しろ」とツイートしている。マーク・ファーバーも「高利回り債市場にかなり深刻な乖離がある。株式市場を大幅に下回り始めているのだ」と述べている。
●SPDR高利回り債ETFとS&P500の推移(日足)ゴルディロックス相場の中で、今の市場はあまりに偏ったインデックスバブルと流動性パニックの危険性を抱えている。
【簡単に利用できる上場投資信託(ETF)の急速な成長と進化は、投資家にとって好材料と言える。そうした商品に付随するリスクの一部は、2008-2009年の金融危機時に多くの銀行や投資ファンドが悩まされた問題を再燃させつつある。つまり市場が開いている時間に売買可能なETFと、取引量が減っていく裏付け資産との間に存在する流動性のミスマッチだ。10年前、マネー・マーケット・ファンド(MMF)は安全だという長らく続いた信仰が崩れたことが資金流出を助長したのと同様に、ETFを構成する重要な特徴への信頼感が失われれば、事態悪化に拍車がかかる恐れが出てくる。
大手年金基金やその他の機関投資家は、株価上昇を喜んでいる。FTSE全世界指数は14日までの上昇率が20%となり、S&P500総合500種も18%上がっている。一方で投資家には次の下げ局面への不安もある。
●S&P500(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)
●日経平均(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)多くのモデルに共通する特色の1つは、流動性がある多くの市場で基本的にモメンタムに追随する「マネージド・フューチャーズ」という戦略を採用している点だ。世界金融危機の際も、こうした戦略で大幅な収益を得たファンドがあった。ただし、マネージド・フューチャーズや登場からの歴史がさらに浅い他の手法は、かつての「ポートフォリオ・インシュアランス」の二の舞に終わる危険もある。ポートフォリオ・インシュアランスは投資家の損失を最小化すると期待されていたが、1987年10月の株価暴落を拡大させただけだった。
大多数の中小ヘッジファンドは、2007年8月にコンピューターに基づくクオンツファンドが陥ったような市場における同一行動のわなにはまってもおかしくない。あまりにも多くの投資家が一度にポジションを手仕舞おうとすれば、歯止めのきかない相場下落につながる】(12月22日ロイター『コラム:次の相場暴落につながりかねない「5つの要素」』
と指摘されているように、超現実主義相場の特徴である低ボラティリティ相場(低ボラ=株は一本調子に上げて行く)に、来年は異変が生じる可能性もあるだろう。
●CBOE Volatility Index(VIX恐怖指数 1991年~2017年)
(出所:finance.yahoo.com)1月相場はドル/円のトレンドが反転しやすい
1月相場はドル/円のトレンドが反転しやすい。2000年以降はこの傾向が薄れつつあるが、ドル/円は4年連続で年初に急落しているので警戒は怠れないだろう。今年の相場は月足が横ばいなので、円高反転・円安反転のいずれの可能性もあるだろう。ドル/円の週足も三角もちあい的な動きがかなり煮詰まってきており、年明け2週目以降の相場の動向(1週目まではトリッキー)に注意したい。
●ドル/円(月足)1月の相場転換 円安転換=青・円高転換=赤
●ドル/円(週足)
ラリー・ウィリアムズエキスパート(下段の赤の部分が売り持ち、青の部分が買い持ちのドテン売買システム)
●ラリー・ウィリアムズの2018年前半の円相場予測
(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析・ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載)石原順 プロフィール
1987年より株式・債券・CB・ワラント等の金融商品のデーリング業務に従事、1994年よりファンド・オブ・ファンズのスキームで海外のヘッジファンドの運用に携わる。為替市場のトレンドの美しさに魅了され、日本において為替取引がまだヘッジ取引しか認められなかった時代からシカゴのIMM通貨先物市場に参入し活躍する。
相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークには定評がある。現在は数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍中。